砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

紅に浮かぶ絶望 21-2



「だから何で分からねーんだよっ!!」

「分かんないギャ!!」

「美味いかどうかだぞ!?口に入れたんだから分かるだろ!?」

「覚えてないギャ!!食べるのに必死で覚えてないギャ!!」

砂鯨に追われながら東へと向かう装甲サンドバギーのタンクの中、隙を見てバサロと運転を変わったシグがゾイと激しく言い合っている

アズーとガラムは疲れているのか眠っていて、バサロは後ろを気にしながらも前を向いて走っている

「お前はアレか?味覚音痴なのか!?」

とゾイのほっぺたを指で摘んで引っ張るシグ

「おいひぃものはおいひぃってわかるぎゃ!!」

と必死に抵抗するゾイは何とかシグの手を振り払い睨みつける

「だったらシグも食べたらいいギャ!!ほらっ!後ろにいっぱいいるギャ!!」

と後ろから迫る怒り狂った砂鯨を指差す

シグも後ろを見る

「…てめぇのせいでこうなってんだろうが!!」

と隣に座るゾイの頭を無意識に左手で掴もうとした

しかし、もう左腕が無い事に気づき一瞬止まってしまう

掴まれると思ったゾイは自分を守るような仕草をしたが、動かないシグを見て、血の滲む左腕を見る

「…その腕、どうしたギャ?」

そう声をかけられてハッとしたシグは、持ち上げた左腕を下げた

「…ちょっとな。大丈夫、痛くないから」

と笑ったシグの目の奥に何かを感じたゾイ

ほら全然動くしねと、ゾイを笑わせるつもりで短い左腕を機敏に動かすシグにゾイは

「…食べたの?」

「食うわけねぇだろっ!!」

と今度は右手でゾイのほっぺたを潰して後ろを向かせる

「コラッ!お前今言っちゃあいけない事言ったな!よし分かった!!砂鯨に捧げよう!!」

「い、嫌だギャ!!ゴメンだギャ!!悪気は無かったギャ!!」

「いーや、悪気しかなかったね」

とゾイのほっぺたを掴んだまま左右に振るシグに運転席から声がかかる

「ごめんシグ!腐石を!」

「悪い悪い、ちょっと待ってな」

とシグはアズーから渡された腐石を1つバサロに手渡した

バサロは片手でリンクシステムのカバーを開けて腐石を入れる

「みんな行くよ!!」

と声をかけてからレバーを引いた

結構近くまで接近してきていた砂鯨の群れがどんどん遠ざかって行く

その加速の衝撃でもアズーとガラムは目を覚まさない

「お前は何でもかんでも食う方食う方に話を持っていくな!!」

「しょうが無いギャ!!お腹が空くんだギャ!!」

「だったらこれでも食ってろ!!」

とアズーから渡された腐石の1つを無理矢理ゾイの口に突っ込もうとするシグ

また必死に抵抗するゾイは、元気なシグを見て少し笑った



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