砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

奥義 20-3


筋肉や神経が悲鳴をあげ、これ以上無理は出来ないと理解したラウルは

「早く…終わらせないと」

小さく呟きゆっくりと歩き出してカザの頭を掴んで起こすと、まだ朦朧とする顔を覗き込む

「…もう分かったろ?これが現実だ。いい加減諦めて」

そこまで言ったラウルの腕を強く掴み

そして、ゆっくりと立ち上がるカザ

「…諦めるって…誰が言った?」

鋭く睨みつけるカザにラウルは一瞬たじろぎ、その隙に掴まれた頭を手で払って狩猟棍を振り回す

ラウルはそれを避けて飛び下がる

まだ戦意を無くしていないカザ

それどころかさっきよりも強い威圧感を感じる

ラウルは腰も身体も低く構え、両腕の剣を左右に開いてカザを見据え

カザも腰を落とし不動の構えから狩猟棍を横薙ぎに払うと、狩猟棍が地面と平行になるように狩猟棍の中心を左手で持って前へ突き出し、右手を握りしめて顔の真横に構えてピタッと止まる

「…分かった。お別れだ…カザ」

禍々しく光る目を鋭くしたラウルは、そう呟いて駆け出す

カザは動かずじっと迎え撃つ

ラウルは飛ぶような斬撃で交差するように切り上げた

それをカザは今までとは違う、目の前に円形の壁が現れたような速さで狩猟棍を回転させて斬撃を弾く

グンッ

その回転に引き込まれるラウル

「な、何だこれは!?」

回転を維持したまま縦横無尽に狩猟棍を振り回すカザに、引き込まれる身体を無理矢理捻って顔の側に2本の剣を構えた

「うらぁぁ!!」

空気を切り裂く渾身の突きを放つ

が、それも回転した狩猟棍に弾かれ両腕を開かれ無防備になってしまったラウル

それを空気とも違う引力のような力で引き寄せるカザ

何とかラウルは防ごうと剣を振るが、全て弾かれ、遂には身体中を狩猟棍が襲う

体が宙に浮き上がり、止まらない殴打の嵐に地に足をつけることすら叶わない

打棍技 奥義 『乱(みだ)れ雪月花(せつげつか)』

回転の力を極限まで高めて相手を引き寄せその全てを攻撃へと繋げる奥義に、抵抗する事すら出来なくなったラウル

カザは最後に渾身の力で狩猟棍を振り抜き、ラウルを列車の端まで吹き飛ばした

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