砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

闇の力 19-2



帝国の強襲走行列車の屋根の上で、ラウルに刃を突きつけられたティトは、砲撃を避けながらジャリハートで向かってくるカザを心配そうに見ていた

近すぎて砲撃では無理だと判断した帝国の兵士達はぞろぞろと砂漠に降り、アサルトライフルを構える

「やめて!!カザっ!!私はいいからっ!!」

ティトは叫ぶが、ジャリハートは逆に速度を上げて撃たれる直前に急停止して車体をドリフトさせる

カザの目の前に砂煙が立ち登り、帝国の兵士達は見えない砂煙の中を闇雲に発砲する

砂煙に大量の弾丸が撃ち込まれ、射撃を止めると共に静けさが訪れ

モクモクと広がる砂煙

その上部からボンっと高く跳躍し飛び出したカザ

そこに向かって発砲する兵士達

カザは狩猟棍を回転させて弾丸をはじくと、砂の上に綺麗に着地して走り出す

昔ナザルは「俺たちは銃を向けたりはしないが、相手は平気で撃ってくる。いいか?弾は真っ直ぐにしか飛ばねぇ、大事なのは撃つ直前の殺気の線と、撃たれる前に避ける事だ。出来なきゃ打ち落とせ」そう言って砂利を掴んで投げて来たのを思い出す

その時は顔面に砂利を食らってわんわん泣いた

出来ないと思った

でも、今なら

止まらない射撃を左右にかわし、避けきれない弾を狩猟棍ではじき、撃ち落とす

ナザルと一緒に積み重ねた稽古で身体が勝手に動くのを、カザはひとつひとつ確かなものとして受け入れ、走り抜ける

「な、なんだあいつは!?」

「クソガキが舐めやがってっ!!」

銃弾が効かないと判断した兵士達はアサルトライフルに銃剣を取り付けカザに向かっていく

カザに向かって行った最初の兵士の突きをかわすと同時に顔面に狩猟棍を叩き込んで走り抜けるが、兵士は次々に向かってくる

ひとり、またひとりと打ち倒しながら走り抜けるカザは強襲走行列車の手前で狩猟棍を突き立て高く跳躍する

そこへ遅れて銃剣が突かれるが、カザはもう空の上、身を翻(ひるがえ)して強襲走行列車の屋根に降り立った

風に吹かれ向かい合うカザとラウル

「よくここまで来れたな…カザ」

「ティトを離してくれ。ラウルだってこんな事したくないだろ?」

強い眼差しでラウルを見据えるカザは静かな口調で話しかける

しかしラウルはティトに向ける刃を肌に押し当て、首からスーッと少量の血が流れる

「これは俺が選択したんだっ!!誰の命令でも無い!自分の意思だ!!」

激昂するラウルにティトは身体が固まる

「…何でなんて聞かないけど、とにかくティトを離して欲しい。お願いだ」

そう言うとカザは狩猟棍を屋根の上に置いた

その行動にすら神経を逆撫でされたラウルは、ティトを砂漠へ放った

「お前らがどんなに足掻いたってもう止まらないっ!!止められないんだよ!!」

駆け出したラウルは腰につけたもう一つの鞘から剣を抜き、カザに斬りかかる

カザは足下の狩猟棍を足先に引っ掛け蹴り上げて掴んだ瞬間、ラウルの下からの一太刀を受け止める

瞬時にもう片方の剣を突きを避け、受け止めた方を押し返し間合いを作ると反転して狩猟棍を振り抜く

それを2本の剣で受け止め、ラウルはそのまま狩猟棍をなぞるように斬りかかる

カザはそれを体を反らせて避けると、そのまま地面に手をついてラウルの顔面を蹴り上げた

吹き飛ぶラウル、逆立ちになったカザはそのままの流れで起き上がる

列車の屋根に背中から倒れたラウルは上体を起こして口元を手の甲で抑える

カザは腰を落とし、不動の構えで身構える

「うらぁぁぁ!!」

立ち上がったラウルは駆け出し、2本の剣を十字に構えてカザの目の前で振り抜く

同時に迫る2つの剣撃をカザは狩猟棍を斜めに構えて受ける

そこへ空かさずラウルの蹴りが腹部目掛けて飛んできたのをカザは膝で受け止める

「…これでも帝国じゃ強い方なんだけどな」

「ラウルは強いよ…でも俺だって負けられない」

お互い睨み合いながら言葉を交わすが、直ぐに武器で弾き合って離れる

「…ティトもカザも、知らないから諦められないんだ」

目を伏せ、そしてカザを睨みつける

「…教えてやるよ」

ラウルの目に、紫色をした禍々しい光が宿る

カザはラウルの目に驚き、一瞬気が逸れた刹那

「闇の力を」


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