砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

親子の形 16-3


そして

ナザルは踏み込むと同時に腰を捻り、左手を離して右腕で押し込む

上段 砂の型 磊突き(らいづき)

明らかに届かない距離からの突きは、空気の槍となってカザを襲う

空気の槍はカザを貫通してその向こうの物置小屋まで貫通し

アズーと付き人は思わず声を漏らした

が、

貫通したカザの身体は蜃気楼の様に消える

下段 雨の型 朧(おぼろ)

ナザルは懐から気配を感じ、真下から顎を渾身の力でかち上げられて身体ごと宙に浮くと、そのまま後ろに倒れた

カザはすぐに狩猟棍を背中に戻すと、倒れたナザルに駆け寄る

「…痛ってぇ〜、正面から来ると思ったんだがなぁ」

自分で上体を起こして顎をさするナザル

「力で俺が親父に勝てる訳ないだろ」

ナザルの身体を抱き起こすカザ

「わからねぇじゃねぇか、やってもねぇのに」

「分かるよ。まだ…遠く及ばないよ」

カザは血の滲む包帯を見て、申し訳なさでいっぱいになるとそれに気づいたナザルは

「怪我してなくても今のはお前の勝ちだ」

と、笑ってこたえた


戦った事でナザルの気持ちを汲み取ることができたカザは、誘う樹海で緑の眷属に言われた事を話した

「…なるほどな。だから黙って行こうとしたと」

そう言われて黙って頷くカザ

「確かに今誰もティトちゃんの故郷を救う術は無いな。でもお前は行きたいんだろ?」

「…約束したんだ。ティトを故郷に連れて帰るって」

今度はナザルの目を見てちゃんと伝えた

「…なら、良いぞ」

その言葉にアズーと付き人が反応する

「ちょっ!何でですか!?死にに行くようなものじゃないですか!?」

「そうですよ!絶対に駄目です!!」

「漢がした約束だ!とやかく言うんじゃねぇ!!」

カザはジャリハートに跨ると、口もとに布を巻いてゴーグルを着けた

「…行ってきます!」

「おうっ!行ってこいっ!!」

そう言われ背中を押されたカザは、勢いよく門へ向かって走り出した

その背中を見送りながら

「…ナザルさん。本当によろしかったんですか?」

と付き人が聞くと

「あぁ、俺はアイツを信じてる」

ナザルはそう言って笑った



黒い煙を上げながら砂漠を横断していく帝国の強襲走行列車

その司令室の扉が開きズカズカと入ってきたラウルに慌てて敬礼をする軍人たち

「状況を報告しろ」

そう言われ慌てて立ち上がりこたえる兵士

「げ、現在、我が軍の強襲走行列車はクワイ大佐の指示で大黒海が向かったと見られる東へと進行中であります!!」

その返答にクワイ大佐が座っていた椅子に座ったラウルはこめかみを手で抑える

「お前らそれでも軍人か?進路は東の地にて留まるシャングリラに変更。恐らく古い遺跡と捨てられた街があるはずだ、そこへ向かう」

その指示に元気よくこたえた兵士たちはそれぞれに過去の地図を確認したり、現在の位置からの進路調整を行うが、1人の兵士がラウルに近づく

「ご、御無礼ながら、クワイ大佐は」

「あの使えない豚は殺した。…異論があるなら前へ出ろ。この場で殺してやる」

その場にいた全員が一瞬手を止めたが、ゆっくりとそれぞれの仕事へと戻って行った

「地図を出せ」

ラウルがそう言うと司令室の中心に砂漠の地図がホログラムで現れ、それにはバルウや他の街が表示してあり、現在位置と進行方向が赤く点滅している

それを静かに、ジッと見つめるラウルの瞳の奥が

薄っすらと紫色に輝いていた






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