砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

怒り 15-2



真っ赤な夕陽が沈みかけて行く砂漠

6輪のサンドバギーはひた走る

彷徨うゲグ族の2人は途中で見つけたオアシスで水をたらふく飲んだが、空腹は満たされなかった

「…ガラムぅ〜…お腹すいたギャ」

「…もう3日もまともに食べてないガ」

ガラムは、力無く応える

「…村どこかなぁ〜」

「…無いガ」

とだけ言うと力無い目で遠くの地平線をぼんやりと見る

喋るのさえしんどくなってきた2人はサンドバギーをただひたすら走らせてゆく

……………。


……!?


「…ガ?」

地平線の向こうに白っぽい何かが見える

だんだんと近づいていきようやくそれが何なのか分かった

「…砂鯨が……なんでガ?」

1……2…3、4頭

血を流して倒れている

サンドバギーを止めて近づいて見る

「……誰がこんなこと………」

ゲグ族にとっても砂鯨は神聖な生き物

絶対に手を出してはいけない

傷口を見ると何か鉄の塊のようなものが奥に埋まっている

「こんなこと出来るとしたら、帝国の連中だろうガ」

と考えてふとゾイがいない事に気づく

「ゾイっ!…ゾイっ!!」

自分が見ていた砂鯨の反対側まで回ると、小柄なゾイがもう一頭の砂鯨の前でしゃがみこんで何かしている

「ゾイ!離れるなガ!!危ないガ!!」

そう言われて振り返ったゾイ

「!!!!…お前……それ…」

ゾイの口は真っ赤に染まり

砂鯨の肉を

生で食べていた

ガラムの顔はみるみる青ざめていく

ズズズズズ

ザザザザザザザ

砂が大きく盛り上がり

砂鯨の大群が現れ

雄叫びをあげる

その雄叫びは地を揺らし

ゾイとガラムに怒りと敵意を向ける

完全に腰の抜けた2人に

大きな影が迫ってゆく



陽も落ち、瞬く星と未完成の満月がカザとナザルの家を照らす

カザは明日ナザルと目を覚ましてたらシグにも食べさせようと、トトの肉とたっぷりの野菜の入ったスープを作り、火にかけた鍋を焦げない様に混ぜながら夜空を眺める

いつからだろうか…ここ数日で色々な事があり過ぎて、心も身体も少し疲れてしまったのを感じていた

独り立ちしたのが昨日の様なのに

繁殖期のサンドワームと戦って

ミゲルとクシナの結婚式と砂漠のレース

その先で怪鳥デモデモに追われるティトと出会い

街に現れた帝国の刺客とも戦った

鍾乳洞に月光蟲を取りに行ったら透明なカマキリに襲われて

帰ってきたらもう大黒海が来てた

ミゲルとクシナの最後は本当に辛かった

シグも犠牲になって、ティトと2人で誘う樹海を探し

ラウルに出会った

帝国の皇太子

緑の眷属が嘘を言う理由も無い

きっと本当の事なんだと思う

本当なのだとしたら

皇帝とか言う奴を

彼の父親だとしても

許せない

一緒にいた時間

あれが彼の本当の姿なんだと思う

また会えたら、シグとアズーにバサロ、みんなを紹介したいな

きっと友達になれるはず

…………。

ティトは大丈夫だろうか

大黒海はティトの故郷に向かっている

もう月光蟲は無い

それを取りに行ってる時間ももう無いだろう

何かしてあげられたらとカザは考えるが、何も思いつかない

『嘘ついたら砂鯨の口の中に入ってもらうからねっ!!』

前にティトにそう言われたのを何故か思い出す

窓から見える夜空を見上げながらカザは小さくため息をついた


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