砂鯨が月に昇る夜に
真実と嘘 14-2
巨木のちょうど真横を通り過ぎた所
「へぇ〜あの木、花咲くんだね」
とティトが言うので巨木の裏を見ると、確かに巨木に似合う大きさの真っ赤な花が咲いていた
「でもなんであんなとこに?」
とラウルは思ったことをそのまま口にする
確かにそうだ、その真っ赤な花は木の根元あたりに咲いていた。普通なら枝葉のある上の方に咲くのに
疑問に思いながらもテクテクと次の獣道へと向かおうとした時だった
巨木のあたりの景色が一瞬、揺らいだように見えた
???
そしてまた揺らぐ
「何だ?目がおかしい」
とラウルは自分の目を擦る
「いや、俺にも何か動いたように見えた」
「あ、わたしもっ!景色が動いた!」
3人は立ち止まり巨木を見つめる
すると
赤い花が
何故かカザ達の方へと頭を向ける
「えっ!?何あれ!!」
ティトが花だと思っていたそれが違う物だと気づきカザ達の後ろへ身を隠す
真っ赤な花はカザ達に正面を向け、長い舌の様なものをチロチロと伸ばしては引っ込めて伸ばしては引っ込める
そして巨木の周りの景色が一瞬にして巨大な生き物のシルエットへと見えてくる
その花は大きく広がると、内側に極彩色の模様と色が広がりその真ん中から巨大な蛇の頭が現れた
その大きさは距離がある為まだ分かりにくいが、一口で人ひとり飲み込める程の大きさが充分にあるだろう
皮膚はさっきの景色と同化していたものから、乳白色に近いものへと変化し極彩色の花びらに見えていた襟がワシャワシャと小刻みに震えてカザ達を威嚇する
大きさはサンドワームより細いが、長さは同じくらいあるだろう
その太い体躯を巨木に巻きつけてこちらを睨む
「…親父…聞いてねぇぞ」
「ねぇ、まずいんじゃない?」
「エ、エリマキ…ヘビ?」
引きつる顔で見た目通りの名前をラウルが命名した途端に、そのエリマキヘビが3人に向かって来た
「走れっ!!」
カザの掛け声より早く走り出したティトとラウルの後ろを追いかけるように走るカザ
ティトは細い獣道に逃げ込むように入って行きそれに続く2人
ティトが何度か振り返ってくるので「まだ来てる!前だけ見て走れっ!!」とカザが叫ぶ後ろで、木々や雑草を薙ぎ倒しながら追ってくるエリマキヘビ
「こんなとこ!来るんじゃなかった!!」
と文句を言いながらも必死にティトを追うラウル
バキバキと音が近づいて来るのが分かるカザは、背中の狩猟銃を手に取りガシャンと狩猟棍へと変える
真後ろに気配感じた瞬間、狩猟棍を地面に突き立てて高く跳躍すると、カザの居た場所にエリマキヘビの頭が突っ込む
空中で向きを変えて狩猟棍を大きく振りかぶり、エリマキヘビの脳天を叩きつける
が、エリマキヘビは体と首の動きでソレを弾き返した
カザは木々の枝葉を突き抜けて樹海の上空まで吹き飛ばされるが、身を翻して下を見ると樹海の所々からエリマキヘビの乳白色の体躯がうねって見えた
カザは重力に任せて落ちていき、樹海に突っ込む直前で左腕で顔を覆い、右手に持った狩猟棍を空へ掲げた
バキバキと枝葉を折りながら地面へと落下する途中で狩猟棍が太い枝に引っかかってくれたおかげでカザは無事だったが、エリマキヘビはティトとラウルを追ってどんどん先へ行ってしまう
「ぺっ、まずいな」
と口に入った葉っぱを吐き出して、引っかかった木から急いで降りていく
いつの間にか後ろから迫るエリマキヘビの気配が消えたが走り続ける2人
「ねぇ!カザは!?」
走りながら並走するラウルに聞くティト
「分からない!もう食べられたのかもしれない!!」
「カザが食べられる訳ないでしょ!!」
「何でそんなことが言える!?」
「何でって…カザは強いものっ!!大黒海だって退けたんだから!!」
「…大黒海を」
ラウルはあの時のサンドシップがカザだと知り、少し難しい顔をした
「あいつは諦めない!だからちゃんと追いついてくれる!!」
真っ直ぐな目で前を見ながらそう言うティト
その横顔を見たラウルの心の中に、今まで自分自身感じた事のない感情が、そこにあった
そして今度は少しだけ開けた、木々は無いがよくわからない植物が生い茂る岩場に出た
「何だここは!?」
色とりどりの光を宿した花や草が岩の根元や小さな池の中に生え、点滅する小さな虫達が至る所で群れを成したり、ちょっと離れて飛んでいたりする
「…綺麗」
とティトは近寄り、緑色に光る花に手を伸ばす
その指先が触れたと同時に、青い色の光へ変化した
「もしかしたらここにあるかも」
「何か探してたのか?」
「私とカザは、ヘキサリーフの花蜜ってゆう腐者の呪いを治せる蜜を探しに来たの」
「!?そんなものが…知らなかった」
「ごめんね、大変な目に合わせちゃって」
少し申し訳なさそうにティトはラウルに言う
「…良いんだ、ここに付いて来たのは自分の意思だから」
ラウルはティトの目を見れずにそう応えた
そして何気無く生い茂る木々の方へ目線を移す
大きな
極彩色の花が
薄暗い木々の向こうから
こちらを見ていた
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