砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

腐者の呪い 12-1



最悪の目覚めだった

意識を取り戻したカザは全身が重く、首の辺りが痛い

いつもの自分のベッドから体を起こして外を見る

もう日は出ていて、いつも朝食を食べ終わったぐらいの日の上りに一層気分が下がる

家から昨夜破壊された防壁が見えるが、既に木材や石で補修が進んでいたのを見ると寝ずにみんな頑張ってくれていた事が分かり、この時間まで寝ていた自分が情けなくなる

ふと

意識を失う前の事が蘇る

自分の目の前で、ミゲルとクシナは死んでしまった

あの光景が目に焼き付いて離れず

もう、いないんだと

カザは額に手をあて

ひとり泣いた


しばらくして家のドアが開けられアズーが入ってきた

「あ、目を覚ましましたか。これ良かったら食べて下さい」

と抱えていたカゴから柑橘類の丸い果物とブーメランのような形をした黄色い果物を取り出しテーブルに置いた

「あの、ですね。とても伝えづらいのですが…昨晩の防壁の崩壊でナザルさんとシグが怪我をしてしまって…今病院で休んでいます」

「!?怪我って大丈夫なのか!?」

身を乗り出し立ち上がろうとするカザの肩を抑えてベッドに座らせ、椅子をベッドの方へ向けて座ると持ってきたブーメラン型の果物の皮を剥いて渡すアズー

「ナザルさんは背中を怪我したみたいで、しばらく寝て安静にしていれば治るのですが、シグは…」

とても言いずらそうに、柑橘類の果物を剥こうとした手を止める

「左腕を無くしました…黒い液体が手にかかってしまったのを、バッツさんがその場で腕ごと切り落としたんです」

カザがまた立ち上がろうとしたのをアズーは止める

「落ち着いて下さい!今は病院で安静にしてますし、これ食べたら一緒に行きましょう!カザだって疲れてるんですから。食欲無いなら口にねじ込みますよ!!」

と半分も剥いてない柑橘類の丸い果物を構えて怒るアズー

「ごめん…俺、何も出来なかったからさ」

俯いて渡されたブーメラン型の果物をかじるカザ

「…ミゲルとクシナは…本当に……残念でした……カザだけじゃないですよ…僕だって何も出来なかった」

膝の上で握る柑橘類の果物に力が入ってしまい、果汁でズボンが少し濡れる

「それでも、僕たちは大黒海を退けた。後はみんな元気になれば、いつものバルウが帰ってきますよ」

そう言って無理して笑うアズーに胸が痛くなった

そう…そうやって俺たちは生きていく

生きていくんだ


「ありがとな、差し入れ」

「ちょうど来る時に朝市を通りがかったらみんながくれたんです。『英雄カザに渡してくれ!』って」

「…よしてくれよ。みんなと同じことしただけなんだから」

「でもあのタイミングは無いですよ。僕なんか本気で死を覚悟しましたからね、光の玉目の前ですよ?」

「はははっ、あれはバサロが急かしたから間に合ったんだよ。ホントあいつの勘はすげーよ!じゃなきゃ途中で見つけた謎の果物をシグとティトとで取りに行ってたんだから」

「そんな事しようとしてたんですか!?信じられない!バサロいなかったらこの街無かったじゃないですか!!」

「…そーなるな」

言った瞬間アズーは剥いた柑橘類の切り実を強めにカザに投げつける

それを上手いこと口でキャッチするカザ

少しキャッキャッと遊んで食べ終わるとカザは出かける支度をしてアズーと病院へ向かった



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