砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

バルウ防衛戦2 11-4



ドシン

ドシン

防壁に何かがぶつかる音が響き慌てて覗き込むと、砂鯨が苦しそうに暴れていた

体の半分をまだ腐者が覆っていて、砂の中から新しく現れた腐者がまたしてもズブズブと侵食し始めていた

それに抗うように暴れる砂鯨を飲み込んでいく黒い液体

最後の力を振り絞って暴れる砂鯨の尻尾が、防壁を吹き飛ばしヤグラをも吹き飛ばした

シグはククルを抱いた状態で吹き飛ばされ、起き上がるとククルは気を失っていたが無事だった

ホッとして抱き上げようとした時

左手に違和感を感じ

近くにいたアズーが動揺している

「だ、誰かっ!!シグが!シグがっ!!」

その声を聞いたバッツは駆け出してシグを見る

左手に腐者の液体がべったりと付いてしまっていた

それに気づいたシグも動揺し、地面に擦って落とそうとしたが

駆け寄ったバッツは腰に下げた曲刀を引き抜くと

シグの左腕を切り落とした

すぐさまバッツは自分のベルトを外して止血するが、シグは恐怖と痛みで気絶してしまった


東門の近くでは、カザとティトが倒れていた

一瞬の出来事で何がなんだかわからず、起き上がる

ティトもゆっくりと起き上がると砂煙が晴れ、周りが騒然となっていることに気づく

「ミゲル!!駄目!近寄らないで!!」

クシナの聞いたことのない必死の声が響き2人は駆け寄る

クシナは地面に倒れていて上半身だけ起こしている状態だったが、その下半身が黒い液体に飲まれていた

少し離れた場所にいたミゲル

「ミゲル、よせ。クシナもああ言ってる」

周りの人が近寄ろうとするミゲルを説得しようと話しかけるが、ミゲルは駆け出し

倒れているクシナを抱きしめた

「やめて!離れてっ!!お願いだから!!」

「…なんで離れなきゃいけない。俺たち夫婦なんだろ?」

「でも!あなたまで死ぬことないじゃない!!」

クシナだけでなくミゲルの体にも侵食していく腐者の黒い液体

「俺は誓ったんだ…月昇りのあの日に…お前の側にいるって」

「…バカ」

2人はどんどん侵食され、駆け寄ろうとするカザとティトを周りの大人が止める

「ミゲル!クシナ!!…誰か!何とか出来ないのかよっ!!」

「誰か!助けてあげて!!誰かっ!!」

暴れるカザとティトを周りの大人達は必死になって2人を止める

「…カザ、ティト。ありがとうね」

そう言って微笑んだクシナとミゲルはお互いを見つめ合い

口づけを交わし

その瞬間にパシャっと音を立てて

2人は消えてしまった

枯れるほどの声で泣き叫び暴れるカザをバサラは首を打って気絶させた

横には座り込んで泣き続けるティト

「…なんとゆうことだ」

バサラは悲しい顔で呟くと、破壊された防壁の向こう、逃げ去っていく大黒海を眺めていた


「何でこうなるかねぇ」

「わからねぇ」

ナザルとガンザは防壁の近くで倒れていた

2人とも煙草に火をつけふかしている

「なぁ、俺の背中どうなってる?」

とナザルは体を横に倒して背中を見せる

「穴が空いてるなぁ」

「そうか、お前と似たようなもんか」

とガンザの方を見ると腹部から鉄の棒が突き出ていた。恐らく後ろから貫通してしまったんだろう

「とりあえずは生きてるか」

「そうだな」

と2人は煙草の煙を空へと吐き出した

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