砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

バルウ防衛戦2 11-2



慌ただしく街の人々が駆けていく路上を、アズーとククルはカゴを重そうに抱えて歩いていた

突然東の防壁の方からドンっと衝撃が走り揺れた地面にバランスを崩したククルは転んでしまい、カゴの中から転がり出るリンクボム

アズーは自分の持っていたカゴを地面に置くと「大丈夫!?」とククルを抱き起こす

涙目になりながらも頷くククルの頭を撫でてあげ、転がったリンクボムを拾いカゴに入れていく

「アズー!ククル!?」

と駆け寄って来たのは、見晴らし台にいたはずのミゲルとクシナだった

2人は大黒海が放った光の玉が真横をかすめた時、流石にここは危ないと降りて来て、防壁で出来ることも無いので避難誘導をしていた

「ミゲル、これはジャイロシステムを利用した爆弾で、大黒海に有効だと思うんです。ですからこれを前線に届けなくちゃ」

と拾ってはカゴに入れていくアズー

2人をどうしたらいいか分からずミゲルとクシナは立ち尽くしていたが、お互い見つめ合い頷くとアズーとククルからカゴを取り上げた

「あっ、これは爆弾で!みんなに必要なんだ!」

「だからコレは俺たちが運ぶ、お前はみんなに使い方を教えてくれ」

「ククルは私から離れないでね」

金属の塊をいくつも入れたカゴを運ぶのは流石に10才と6才では無理があると2人はカゴ抱えて走り出した

「うん!!」と嬉しそうに返事をしてアズーとククルは2人を追いかける


大黒海はもう壁の目の前で、触手と体当たりで防壁を破壊しようとするが、ガンザ達のバズーカとバサラとルウの隕石投げ、ナザルの真空波で何とかしのいでいたが、防壁の亀裂は少しづつ広がっていた

「くそっ!どんだけやっても再生しやがる!」

と悪態をつくガンザ

「諦めるな!!ダメージは確実にある!」

とバサラとルウは隙を見ては岩を投げ飛ばす

「おぉらぁっ!クソが!いい加減倒れろよ…」

と真空波で触手を切って落とすナザルも、流石にしんどくなってきていたが、突然後ろに気配を感じ振り向くと、ヤグラをアズーが上がって来た

「!?アズー!?何してる!?」

と襲ってきた触手を避けてアズーのもとへ走る

「ナザルさん!!コレを!」

アズーの手には見たこともない小さなジャイロシステムにピンが刺さったものがあった

「新兵器か!?」

「はいっ!!リンクボムです!ピンを抜いて振ってください。そうすると起動するので、それをアレに投げて下さい!!」

そう言ってアズーはナザルにリンクボムを手渡す

「分かった!ありがとうなっ!!」

頭をガシガシと撫でて大黒海へと振り返る

手にしたリンクボムのピンを抜き走り出すと同時に振ると、高い高周波の音と共にジャイロが回転し紫色の光を放つ

ナザルは信じている、自分よりも何よりも

新しい世代の可能性を

信じて

渡された希望を

投げた

凄まじい豪速球は

大黒海の顔面に当たって爆発し

たった1個のリンクボムは

その頭部を吹き飛ばした

「「「おぉぉぉおおお!!!」」」

ヤグラの上と下から歓声が響く

ナザルはアズーのもとへ戻り「すげーよ」とまた頭を撫でた

嬉しそうに笑っていたアズーだったが、目の端に映った光景に顔が青ざめていく

「あ……あ、あ」

青ざめた顔でアズーが指を指すので振り返ると、大黒海は頭が吹き飛んでも倒れずに、ウゾウゾとうごめく腐者が頭をどんどん再生していた

「…この野郎が」

歯をくいしばり、拳を握りしめた

「ナザルさん!まだここにいっぱいあるので使ってください!」

と後からヤグラに上がってきたミゲルはカゴを差し出す

「まだあんのか!?俺にもやらせろ!」

「アズー、お前はやっぱり天才だ」

「ピンを抜いて振ればいいんだな?」

とガンザ、バサラ、ルウがカゴに手を入れリンクボムを持っていく

「あっちにも渡してきたよ」

とクシナとククルが帰ってくる

「よし、次は同時にやるぞ!……いくぞー!!」

とリンクボムを手にした全員が同時にピンを抜き、ヤグラから飛び防壁の上に立つ

まだ頭が再生しきっていない大黒海

全員がリンクボムを振ると、ジャイロが回転し、紫色の光を放つ

「…これで吹き飛べバケモノ!いくぞお前らっ!!」

「「「おおぉぉ!!」」」

ナザルの合図で一斉に投げられた紫色の光は、大黒海の体躯の至る所で炸裂して吹き飛ばしていく

かなりの衝撃に皆ヤグラの方へ移り身を隠す

舞い上がった砂煙で見えなくなってしまい、目を凝らして様子をうかがう

段々と晴れてきた地面には飛び散った腐者の黒い液体と、大黒海の肉片の様なものが散乱していた

「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」

勝どきを上げるバルウの戦士達

ナザルたちもようやく倒せたと安堵する

ミゲルとクシナはアズーとククルに「良くやった!」と頭を撫でる

月明かりに照らされたバルウの街

その上空に

何かが浮いている事に気づいたのは副隊長のバッツだった

「空に何かいます!!」

そう言われハッと空を見上げるナザル達

真っ黒な球体

それが重力を無視して空中で静止していた

砂漠に飛び散った黒い液体や肉片が宙に浮いてその球体へと吸い込まれていく

それが大黒海だと認めたくないのか、誰も口を開かずに見ている事しか出来ない

液体なのか固体なのか分からないソレは、急に重力を受けて落ちていく

防壁の目の前に落ちてきたソレは

最初と同じ形をした無傷の大黒海だった

……………。

言葉すら出来ない

絶望は目の前で

上下に口を開けて

エネルギーを集め始めた




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