砂鯨が月に昇る夜に
ハッピーウェディングレーシングガール 4-2
晴天に恵まれたバルウの街は祝福の花飾りで色づき、ミゲルよりクシナの日頃の行いが良かったんだと集まった街の住人は口々に言った
この街のほぼ全ての2000人が会場に集まり、入りきらない人達は大通りにまで及んでいるのは毎度のことで、この世界で結婚とはそれほどまでに喜ばしいかけがえのないものだからだ
まだ昼前にも関わらず、皆に酒をつがれもう酔っ払って顔を赤くしているミゲルとは対照的に、真っ白なシンプルだけど綺麗なドレスを着て、頭に花飾りをつけたクシナが幸せそうに隣に座っていた
その少し離れた場所で付き人に挟まれた砂バァがトトの照り焼きに必死にかじりついている
そして結婚式と合わせて行われるサンドシップレースと酒豪対決が同時に始まろうとしていた
いつ誰が結婚式にこんな催しを初めたのか定かではないが、サンドシップは6台出場し、コースは砂の街バルウから東の方角にある顔岩と呼ばれる人の顔をした岩を回って戻ってくるだけのシンプルなものだ。しかし途中アジャリナジャリとゆう蟻地獄や、高低差のある砂丘もあるので一筋縄ではいかない。このレースで優勝したチームには、ドドチョと呼ばれる髭の長い砂魚が贈られる
この魚の髭は丈夫で前にカザがトトを運ぶ時に使っていた紐がこれだが、何より良質な肉がトロけるように美味く、新鮮なものは焼かずに食べるのが1番うまい
しかし滅多に獲れる魚ではないため高級魚として扱われている
値段的にはトト3頭分くらいにはなるだろう
サンドシップを押しながら所定の位置にそれぞれ運ぶ中にカザ達がいた
「やれるだけはやりましたからね、大丈夫だと思います!」
そう言いながらサンドシップの中でまだガチャガチャやっているアズー
「これで優勝して2人にドドチョをあげねぇと俺らなんもしてねぇぞ」
と不安気味のシグ
「やれるだけやるだけさっ!ジャリハートを信じよう!」
とカザが意気込む
それにウンウンと頷くバサロ
一方酒豪対決の方はとゆうと
「オイッ!!まだ始まらねえーのか!?こっちはいつでも良いんだぜぇ!?」
今朝まで呑んだくれていたナザルたちが会場の舞台に上がり席に着いていた
隣に座らされた守護隊隊長のオーキはもう既に虫の息だ
そして新郎のミゲルまで舞台に担ぎ上げられている
「………マジか。知らない。あの人は他人だ。あの人は他人だ…」
とそれを発見してしまったカザが頭を抑えながら自分に言い聞かせてレースに集中する
「よしっ、これでいける!」
アズーがサンドシップからひょっこり頭を出し座席をカザと変わると、中を指差して説明する
「ここのコレが普段使ってるジャイロシステムね」
と球体の中に球体が入っていて、中の球体だけが回っている
「で、こっちがリンクしたいジャイロシステムね」
とその手前にある真新しいジャイロシステムを指差す
「腐石はかなり近いものを使ってるので大丈夫だと思います。そして」
その前後に並んだジャイロシステムの真ん中に中心より少し右側にずらした位置に透明な容器に入った小さな腐石をアズーは指差す
「2つを、リンクする腐石です。コレを中心に移動させるとリンクして加速します。こっちのレバーを奥に押し込めば腐石は中心に移動します」
とジャイロシステムの真横にレバーがあり、なんだかジャリハートがゴチャゴチャしちゃったなぁと頭をかくカザ
「わかった、どのタイミングで使う?1回きりなんでしょ?」
「幸いスタートは2番手で前に誰もいないな」
とシグが腕を組みながら状況を見る
「…は、初めから?」
と不安げに聞くバサロ
「良いかも知れませんね、もし何かあっても僕たち直ぐ駆けつけれますし」
妙案とばかりにアズーは工具箱を持ち上げる
「…よし。みんなに見せつけてやろうぜ」
と中々にやる気出てきたカザは首にかけていたゴーグルを装着し、腰のベルトとサンドシップとを頑丈なベルトとカラビナで固定する
「さあさあ!結婚式も盛り上がって来たところで恒例のウェディングレーシングとバルウ酒豪対決を始めたいと思いますっ!!」
とマイクを持った砂バァの付き人の声が街に響き渡る
つーか付き人っ!!
器用な人だと皆が感心していると
「お前らぁ!!ドドチョが食べたいかぁぁ!?」
うおおおぉぉ!!
と観衆を煽る付き人
スタート位置に付いたサンドシップ6台のエンジンがかかり、高い高周波の音とジャイロシステムからジャリンシャリンと金属が少し擦れるような音がして車体が持ち上がる
「お前らぁ!!酒が大好きかっ!?」
うおおおぉぉ!!
とどんどん盛り上がるオーディエンス
酒豪対決の舞台に巨大なジョッキに注がれた黄金の酒を大量に運び込む
「お前らぁ!!準備は出来たな!?」
わぁぁぁぁ!!
歓声と共にブォォォォォオオオ!!とトトの角で作った角笛が至る所から吹き鳴らされる
その大歓声の中、クシナが立ち上がり
「カザぁぁぁ!!頑張れぇ!!」
と通る声で叫ぶとカザは片手で応える
「レディ!…………ゴォっ!!」
と付き人が叫んだ瞬間
カザはレバーを押し込んだ
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