砂鯨が月に昇る夜に
砂の民 1-3
サンドシップの横で横たわる少年は、サンドバギーの遠ざかる音で目を覚ました
はっと顔を上げるとサンドシップの反対側に腐者が4体、その内3体はゲグ族の人間を飲み込んでいた
気絶していたのは1分くらいだろうか、倒れた場所が良かったと心の中で安堵し、静かに周りを見渡す
腐者との距離が近すぎる
動きは遅いが、砂漠の中コイツらがどこまで追って来るかもわからない以上サンドシップで逃げる以外無い。しかしトトを乗せたサンドシップで急発進は出来ない
考えてる内にパチャっとゆう音と共にゲグ族の連中が液体へと変えられてゆく
もし自分が閃光グレネードを使わなければ、彼らは助かったんだろうか…とどうしても考えてしまうが、こうなってしまってはもうどうしようもないし時間も無い
決意した少年は、静かにサンドシップのエンジンをかけた
ジャイロシステムが高い高周波の音と共に電気と静電気を発し、サンドシップは地面から少し持ち上がる、と同時に腐者達はぐるんとこちらを向いた。目は無い筈なのに何故か見られていると感じる
身体は隠れたままハンドルに手をやり車体の右にだけ器用に乗ると、少しづつ前進させた
さっきは音がしたのでこちらを見たが、まだ少年には気づいていないようで、身体はこちらに向けたまま近づこうとはしてこない、がやはり移動するサンドシップを凝視している
3メートルほど離れた所で腐者達は気づきゆらゆらと近づいて来た
そんなゆっくりな動きで掴まるわけないと思った少年はサンドシップにまたがりさっさと逃げようとした瞬間、一番近くにいた腐者の腕がビュルっと伸びた
「うわぁっ!!」
咄嗟にハンドルを切って避ける
アクセルをふかして逃げようとするが、登り坂でトトを引っ張っている為あまりスピードが出ない
頑張れ頑張れとサンドシップにエールを送りながら丘を越えようとした時、急に丘が大きく盛り上がる
砂中から
巨大な砂鯨が現れた
全長30メートルは軽くあるだろうその体躯は真っ白で、所々にある体毛が金色に輝く
すれ違いざまにその美しく大きな体にちょんとついた目がこちらを見ている気がした
通り過ぎて振り返り見ると、ゆらゆらとこちらに向かってくる腐者達をその大きな口で一気に飲み込んでしまった
逃げてゆく後方で砂煙が高く舞い上がり、何かホッとした彼は、上体を前に屈め、ハンドルのアクセルを回して加速してゆく
スピードの乗ってきたサンドシップは灼熱の砂漠の中を颯爽と駆け抜けて行った
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