砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

砂の民 1-2


しばらく走ると前方左手の砂の上で、キラキラと光るものがゴーグル越しにいくつか見えた

「…あれは」

少し期待に満ちた様子の少年は、向かう先を光る場所へと向けていた

その姿を数人の何物かが見てるとも知らずに…


光るものの近くでサンドシップを降りると

「やっぱな!!腐石だ!!」

喜びはしゃぐ少年はすぐさま駆け寄り砂に少し埋まった腐石を拾い出す

夢中で拾う少年の言うところの腐石は、黒く日にかざしても透けたりもしない
大きさも大小様々あるが、大きくて拳ほど、小さくて親指ほどのものが転がっていた
しかし大きさなど御構い無しというばかりに次々と拾っては腰に下げた袋に入れていく

風を切る音だった

聞こえるか聞こえないかとゆうほどの一瞬で少年は地面にしゃがみ込んだ

フォンッ

鋭い何かが通り過ぎて上空へ舞い上がり、飛んで来た元の位置へと帰って行く

「感のいいやつだガ」

「あとちょっと下だったギャ」

油断した

顔に派手な化粧をし、頭には動物の頭部の骨を被ったゲグ族たちは四方から次々と現れる

先程飛んで来たのは彼らの狩猟武器であるブーメランとゆう飛び道具だろう

5、6人だろうか、1人向こうの丘で6輪のサンドバギーで待機している
こちらが1人だと分かっているだけに何も警戒せずに顔をニヤつかせながら砂の上をのしのしと向かってくる

彼らは陽射しに強く、砂嵐でも来ない限り顔に布やゴーグルをしたりはしない

「おいガキ、いいもん見つけてくれたじゃねぇガ」

持っているブーメランで目の前にいくつも転がっている腐石を指す

「命が欲しけりゃ腐石と…」

「このトトをよこすんだギャっ!!」

いつのまにかサンドシップの後ろのトトに近づいていたゲグ族の1人が、包まれたトトを足で蹴りつけた

「やめろっ!!」

蹴りつけた奴を鋭く睨みつける

「どうすんだガ」

すぐ後ろで声がして振り返ると、この連中のリーダーだと思われる奴がもう1メートル手前まで来て少年を見下ろしていた

そして周りを見渡す

流石に人数が多い

観念した少年は「分かったよ」と少ししょぼくれた声で言いながら腰袋に詰めた腐石をポトポトと砂の上に落としていく

分かってるじゃねぇかと言わんばかりのゲグ族達

ポトポト

ポトポトポト

ポト ジーーーカッチャ

拳大の腐石を落としたかに見えたそれは、丸みを帯びた鉄の塊で真ん中に銀色の金属がリングのように重なっており、それが自動で回転し、不気味な音と共に止まった

少年はバッと両腕で顔を隠す

まばゆい閃光が炸裂し、周りで呻く声が聞こえる

少年は光が収まったのを確認すると、サンドシップの方へ走り出し、砂の上にもかかわらず高く跳躍し、背中の狩猟銃を取り出すと同時にゲグ族の男を殴りつけた

先程トトを蹴りつけたゲグ族の男は砂に埋もれる程に叩きつけられ、完全に気を失っている

すぐにサンドシップにまたがりエンジンをかけようとしたが、首に衝撃が走り息が出来なくなる

「どこに行くんだガ…」

ゲグ族のリーダーだと思われる男に片手で喉元を掴まれ持ち上げられる

相手の腕を掴み必死にもがくが、皮膚が破れそうな程の握力で、視界が霞み始めている。おそらく動脈を圧迫されて脳に血液が行っていない為だ

朦朧とする意識

このまま死ぬのか…

まだ…

まだ…嫌だ

あの人に…何も………


カシャカシャカシャカシャ

何かが回る音が聞こえる

かなり速いスピードで回る音が、自分の腕とゲグ族のリーダーの胸元から聞こえる

霞む目を凝らして自分の腕を見る

方位磁針が、狂ったようにカラカラと回り続けている

「腐者だぁぁ!!」

リーダーだと思われる男がそう叫ぶと同時

地面の砂の中から黒く禍々しい液体がコポコポと無数に湧き出してくる

咄嗟に手を離したリーダーは、怯えながらも他のゲグ族達に「逃げるガっ!早く逃げるガっ!!」と目が眩んで動けない1人の腕を掴んでサンドバギーに向かう

湧き出る黒い液体はグニャグニャと形状を変化させ、人の形のようなものになると、ゆらゆらと時折バランスを崩してベチャっと液体に戻るが、すぐさま人の形に戻って近くの人間に向かっていく

「うあぁぁぁ!!」

早く早くとサンドバギーを目指していたリーダーは叫び声に振り返る

ゲグ族の1人が人型の黒い液体に飲み込まれていく

「嫌だギャぁぁ!やめろ!!助けて!!」

もがこうが暴れようがどんどん飲み込まれていく

すると彼の皮膚が黒ずみ、瞬く間に腐敗してゆく

「あぁ…あ、あ、」

言葉も出なくなるまで一瞬だった

何の前触れも無く

彼はパチャっとゆう音を立てて黒い液体となった

他の3人のゲグ族のたちもブーメランや鈍器を振り回して抵抗するが、相手は液体でしかも何度でも元の形に戻る為に次々と襲われ飲み込まれていく
ゲグ族のリーダーだと思われる男は「すまないガ」と言ってサンドバギーまで歩き出そうとした時、掴んでいた仲間の腕が引けない事に気づく
仲間の顔は黒ずみ、腰から下にかけて黒い液体に飲み込まれていた

咄嗟に手を離し、助けを求める仲間の目をまともに見れずにサンドバギーまで走って行った


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