男尊女卑の改革者

D_9

第一章『異世界転生!?』第十ニ話「村と少女の物語 後半」



「ユウト様。本日もありがとうございました」


「ありがとうございましたっ!」


 目の前には、お淑やかにお辞儀をするお母さんと、お母さんの真似をして元気よくお辞儀をする女の子。その微笑ましい光景に、自然と頬が緩むのがわかる。


「いえ、あまりお気になさらないでください。僕が好きでやっていることですから」


 俺は何度目か分からない応答をする。そこまで気にしなくてもいいのにな。


「そういうわけにはいきませんっ!お金もなくて、この子に勉強を教えてあげられるほど私も勉強が出来るわけではなく、どうしようかと悩んでいたところを助けていただいたのですから。私達にとってユウト様は神様のようなものなのですよ?」


「………………」


 ……………な、なんか誇張し過ぎな気もするし、こんなにストレートに言われると恥ずかしいな。


「それに、学費も無料だなんて…………本当に感謝しきれてもしれれないんですよっ」


「は、はい」


 今、この奥さんが言ったとおり、ここはほぼ無料で経営している。ほぼ、というのはお昼だけは生徒の家から持ってきてもらって、ここで作っている。こうすることで自炊ができる生徒も出てきた。さらに家に帰ってから母親のお手伝いをすることで一石二鳥。

 そういう訳で奥様方から感謝の手紙やらお礼やらが届くのも珍しいことではないのだ。


「そ、それでですね?……………も、もし良ければこれからウチに来ませんか?この子も喜ぶでしょうし…………」


「あ〜、えっと」


 う〜ん。申し出自体は嬉しいのだが、


「ちょっと、ズルいですよ!ユウト様、この人のウチじゃなくて私のうちに来ませんか?この子の妹にも会ってあげてください!!」


「な、ならウチにも!」


「ユウト様っ!!」


 あ〜…………また始まっちゃったよ。俺の目の前で繰り広げられるお母様方の争い。これも何度目か分からない光景だ。何故かは分からないが奥さん方は皆、俺を家に誘うのだ。


「皆さんっ!落ち着いてくださいっ!そのことについては一ヶ月に一度の家庭訪問のみだと決めたことでしょう?あまり、ユウト様に迷惑をかけないでくださいっ!」


 そんな中で、ラナは大声を出しながらお母様方を鎮めようとする。


「(…………本当にラナ様々だなぁ)」


 俺は一人そんなことを思いながら、この状況を見つめていた。






「…………いつもありがとね、ラナ。お疲れ様」


 俺は、なんとか奥様方を帰すことに成功したラナと一緒にある人たちの家に向かっていた。先程までのことと矛盾しているが、このことについては村の人たちはみんな承知しているので、特に何かを言われることもない。


「着きましたよ。ユウト様」


「(おっと、もう着いたか)」


 考え事をしていたら、いつの間にか目的地についていたようだ。馬車から見るその目的地の家には、『ハルクス鍛冶屋』という看板が立っている。

 俺は馬車を降りて、コンコンとその看板のある家のドアをノックする。すると中から、「はい」という女性の声が聞こえてドアが開く。


「どちら様で…………」


 俺を出迎えてくれた女性は俺を見ると、その眠そうな瞳を少しだけ広げる。女性はキレイな顔立ちではあるがずっと眠そうな瞳をしており、何とも不思議な雰囲気を醸し出している。背はあまり大きくないが、その代わり?自己主張の激しいお胸様を持っている。ミリアと同じ……………か、それ以上だ。


「…………ユウト様でしたか。ベレン、ユウト様です」


 女性はそう言って、奥の方に戻ってしまう。しかし、すぐに一人の男性と共に俺のところに戻ってきた。男性は汚れたタンクトップを着ており、その下には隠しきれない分厚い筋肉が見える。一見怖そうに見えるが、ニカリと屈託のない笑いを浮かべながら話しかけてきた。


「いや〜、坊っちゃんでしたか!すんませんね〜、気づかなくて!」


「言葉遣いをもう少し直したほうがいい。それと申し訳ありません、ユウト様。今お出しできるようなものは何も……………」


 男性と女性の態度はまるで正反対だ。まぁ、俺はそんなことを気にすることもなく、


「いえ、気にしないで下さい。いきなり来た僕が悪いですから。それに言葉遣いもそのままでいいです。ベレンさんみたいに接してくれる人は少ないですしね」


 俺がそう言うと男性、ベレンさんは女性に向かってニカリと笑って、


「ほらな、ジェナ。いつも言ってんだろ?大丈夫だって」


「大丈夫とかそういう問題じゃない。彼は命の恩人。だから、礼儀は尽くすべき」


「…………そ、そんなに重く考えなくても」


「そんなことはない」


 ズイッ、と顔を出してそう言うジェナさん。そう、この人たちはオークの襲来のときに助けた人たちだ。何でも別の村からの移動中に、運悪くオークたちに襲われてなんとか逃げてきたらしい。本当は王都に行く予定だったが、荷物も何もなくなってしまったため、とりあえず一時的にここに住むという話だったはずなのだが、いつの間にかここに住むことにしたらしい。まぁ、ここの人たちは皆いい人だし、住みたくなるのも分かるけどね。


「あはは…………えっと、それで今日はすこし話したいことがあって。多分少し長くなるかもしれないので、先にレナに会いたいんですが」


「はい、工房の方にいます。すぐに呼びますね」


「あ、大丈夫ですよ。僕が向かうので」


「いえ、ですが……………」


「レナが剣を鍛えているところを見たいんですよ」


「…………そうですか。分かりました」


「ははっ!そりゃあ、ありがたいな!坊っちゃんがいるなら、アイツもさらにやる気になるだろうしな!!」






カーンカーン


 そのまま、四人で家の奥に向かう。奥からは熱気とともに、金属を叩く甲高い音が聞こえていた。

 そしてその部屋に入ると、来る途中に感じた熱気よりもさらに熱いものが立ち込んでおり、その中に一人の小柄な少女がハンマーで剣を叩いていた。その少女はコチラに目もくれずに、剣を叩いて鍛え上げている。

 俺達はしばらくその様子を眺めていると、ふぅという声とともに少女が手を止めた。どうやら完成したようだ。その手にある剣を水に入れて一気に冷やす。そこから取り出して、刃に顔を近づけて確認をする。


「……………ん」


 納得がいったのか、少女は頭に巻いていた布を取り、洗面台へ向かおうとそのほうこうに顔を向けようとして……………途中で止まった。その事前の先には俺達がいる。


「………………」


「………………(ニコッ)」


 黙ったままだったので、とりあえず微笑んでみる。するとわずかにピクリと体を震わせて、コチラへ歩いてくる。


「…………………」


「えっと…………」


 そして母親に似た眠そうな瞳を俺の方に向けて、


「………………久しぶり、ユウにい」


「あ、あぁ。久しぶり……………ん?一昨日も会った気が…………」


「一昨日ぶりなら、久しぶり」


「そ、そっか」


 相変わらず、不思議な雰囲気をしているこの少女、レナは俺のところに来るとそんなことを言い出した。あの時、この子を助けてから妙に懐かれてしまい、今でもたまにこうして会いに来ているのだ。まぁ、一昨日来たばっかりなんだけど。


「鍛冶の具合はどう?順調?」


「ん。問題ない。ちゃんと頑張ってる」


「そっか。ならいいんだ」


 俺はそう言って、レナの頭を撫でる。レナは俺より一つ年下ではあるが、小柄なのでなんとなく撫でたくなってしまうのだ。まぁ、本人も嫌がっていなさそうだからいいんだけど。


「そういえば、レナ。アレ・・、渡さなくていいの?」


「(ピクっ)」


「アレ?」


 ジェナさんはレナの方を向いてそういった。


「おぉ!そうじゃねーか!!レナ、折角来てくれ……………来てくださったんだから、アレ・・を渡せばいいじゃねーか!昨日だって遅くまで、『ユウにいのため』って言って頑ばぐはっ!!」


 ベレンさんは話している途中で、レナに相当なスピードの鳩尾を喰らっていた。……………アレは痛いな。


「えっと……………アレ・・って?」


「……………」


 俺がレナにそう聞くと、レナは一度こちらを見てからどこかへ行ってしまう。


「?」


「少し待っていてください。すぐ来ますので」


「は、はぁ」


 ジェナさんがそう言うので、少し待ってみる。すると、すぐにレナがやって来る。その手には一本のシンプルな剣が鞘に収まった状態で握られていた。

 そして、そのまま俺の方に歩いてきて、


「………ん」


 剣を差し出してくれた。………………これってもしかして、


「……………僕のために作ってくれたの?」


「……………(コクン)」


 無言で肯定してくれるレナ。


「前、剣が軽いって言ってたから」


「………………あぁ。そういえば、言ったね」


「しかもだ!そいつにはな、以前坊っちゃんがとってきてくれたブラッドジャガーの牙を使ってあるんだぜ!」


「え!?」


 確かに、以前ブラッドジャガーを見つけて倒したことがあった。でも、俺じゃあ素材を無駄にしてしまうため、ベレンさんに預けたのだ。それがまさかこんな形で出くわすとは…………。


「貰ってほしい」


 じぃーっと俺を見つめてくるレナ。

 ブラッドジャガーの牙の加工は、熟練の鍛冶屋でも一筋縄ではいかないとして知られているほどの素材だ。それを自分よりも幼く、小さい(力は分からないけど)子が俺のために作ってくれたのだ。そのことを嬉しく思うとともに、申し訳なくも思ってしまう。


「…………ユウにいは命の恩人。だから、遠慮しないで?」


「………………」


 こっちの考えなどお見通しのようだ。……………いや、自分より小さい子に気を使われるなんて情けないとは思うけど。


「……………分かった。受け取るよ」


 俺はそう言って、その剣を受け取る。ズッシリとした重みと共に自分の魔力が流れ出るのが分かる。

 ブラッドジャガーは獲物を殺したあと、それ自体だけでなく魔力をも喰らうと言われている。それにより、牙をより鋭くするらしい。この剣にもそれが使われているのだろう。試しに抜いてみると、黒色の剣身に一筋の赤いギラギラした筋が通っている。これが俺の魔力だろう。

 剣を振るためにみんなから少し離れる。軽く息を吐いてから何度か、剣を振る。


「………………」


「…………………どう?」


 少し不安そうにしながら(表情の変化はほぼ皆無)、俺に聞いてくるレナ。俺はなるべく優しく微笑みながら、少し屈んでレナの頭を撫でてあげる。


「うん、いい剣だね。腕にズッシリくる」


「……………ホント?」


「あぁ、本当だよ。ありがとね、レナ。大切にするよ」


 わしゃわしゃと頭を撫でる。やっぱり、自分のために作ってくれたと思うと思わずニヤけてしまう。


「……………壊しても、大丈夫。私が直す」


「そっか。でも、これだけいい剣をこの歳で作れるなんて………。ベレンさんが引退しても、ここは安泰ですね」


「はっはっは!!いや〜、そう言ってもらえると嬉しいですな〜!!」


 ベレンさんが頭をかきながらも嬉しそうにそんなことを言っていた。そんな中、くいくいと下から袖を引かれた。見ると、レナがジーッと俺の顔を見ていた。


「ん?どうしたの?」


「…………他の人にも剣は作る。……………でも、ユウにいの剣は、特別」


「…………」


「だから、ユウにいの剣は、全部私が作る。……………ダメ?」


「…………ううん。そんなことない。ありがとう、うれしいよ」


 とりあえず、頭を撫でてあげる。……………気持ち良さそうな表情だなぁ。

 うん。やっぱり、あの話・・・はするべきだな。


「……………ベレンさん、ジェナさん」


 俺は真面目な顔をして、二人を呼ぶ。


「はい?」


「なんだ…………なんでしょうか?」


「昨日、父様とも話したのですが………………ウチの専属になりませんか?」


「っ!!」


「詳しいことなどは父様が説明します。その後、契約という形になります。もちろん、お二人がいいというのであれば、ですがね」


 これは前々から話していたことだ。ベレンさんは命の恩人だから、と言って俺たちにほぼ無償で武器を提供している。もちろん、こちらとしては嬉しくはあるが、クライドがそれを許すわけもなく、なんとも不思議な譲り合いが行われていたのだ。

 だが、ここに来てレナが俺に剣を作ってくれると言うことになった。ならば、そのまま一緒にウチに仕えてみないか、ということだ。


「……………ホントに、いいですかい?」


「何がですか?」


「……………俺達は厄介もんに近い。これ以上、近づくのは」


「誰もそんなこと思ってませんよ」


 ベレンさんの言葉を遮る。なんというか、俺の周りにはこういう漢が多い気がする。義理堅いというか何というか…………。


「僕は楽しいですよ。ベレンさんやジェナさん。レナとお話するの」


「!」


「それに、父様も母様もまたお話したいと言っていました。だから、変な風に気負う必要はありません。もし、何か・・起こっても僕たちがなんとかします」


「………………坊っちゃん」


 この人たちに何か・・あることはなんとなく分かっている。そもそも、最初にあった状況自体がおかしい。あんなところに、男性がいるなんてありえない・・・・・

 でも、この人たちは大丈夫だ。短い間だったけど、この人たちはいい人だ。変わり者ではあるけどね。

 しかし、突然俺を見ていたベレンさんが膝をついて、土下座の態勢を取る。


「すまねぇ!坊っちゃん!!恩に着る!!本当に、すまねぇ!!」


 そして隣にいたジェナさんも静かに膝をついて、頭を下げる。


「………………」


「ちょ、ちょっとお二人共!」


 流石に突然過ぎるだろ………………って、


「……………(ちょこん)」


 いつの間にか、レナも土下座をしていた。


「あ〜、もう!分かりました!分かりましたから!!頭を上げてください」


 はぁ、何時まで経ってもこれは慣れないんだよなぁ。


「そんなことをされるよりも、次の試作品。楽しみにしてますから、ね?」


「お、おぉ!任せときな、坊っちゃん!!こりゃあ、眠る暇なんてねーな…………ジェナ!!」


「問題ない。準備してある」


「よし!レナ!オメーも手伝え!!」


「ん!」


「あ!いや、ちゃんと睡眠はとってくださいね?」


 俺のそんな呟きは彼らの怒号と勢いにかき消されていき、残ったのはそれを見て苦笑いするラナと俺だった。




             To be continue.

コメント

  • θ

    もう書かないんですか?
    ぜひ続きを

    0
  • kuuhaku

    面白かったです。頑張ってください

    1
  • リスキー

    待ってましたー!
    面白いです!

    1
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