男尊女卑の改革者

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第一章『異世界転生!?』第三話「俺と家族の物語」


 ある部屋の一室。端正な作りをした窓からは綺麗な夕日が見える。そんな豪華な部屋の中に、一人の男性が一人の女性の前で正座をしていた。女性の方は、その男性に冷たい目を向けている。


「……………」


「うぅ……………」


「……………………」


「……………………あ、あの」


「何かしら?」


「そ、その…………い、いつまでこうしていればよろしいのでしょうか?」


「なにかしら?」


「いえっ!!なんでもありませんっ!!!」


 …………今、俺の前で俺の父親が正座をしているところに、俺の母親がニッコリと笑いかけている。もちろん、その笑みには恐怖しか感じられないが。

 先程の事件?後、ミリアは延々と断罪?を続けている。まぁ、確かにアレは完全にクライドが悪いとは思うけど、流石にやりすぎなんじゃ………。


「……………グスン」


 …………もう、父親の威厳とかそれ以前の話になってしまいそうだ。いい大人がグスンって………。

 とは言え、俺にも非はあるわけで…………。仕方ないけど助けてあげるか。でも、どうやって助ければいいんだ?まぁ、とりあえず訴えてみるか。


「あぅ〜〜〜」


 俺はミリアの腕の中でジタバタする。とは言え、まだ生まれたて?なので、あまり動けないのだが。


「ユウちゃん?どうしたの?」


 ミリアは、不思議そうに俺を見つめる。


「うぅ〜〜、やぁ〜〜〜!」


 ミリアの方を向いて、どうにか意図を伝えようとする。


「……………」


「うぅ〜〜〜」


「……………はぁ」


 ミリアは俺を見て一つため息をついてから、いつもの優しい笑顔に戻る。そして俺の頭を撫でながら、


「…………分かったわ〜。ごめんね〜、ユウちゃん」


「(へ?………………伝わったの?)」


 正直、やった俺自身が一番驚いているのだが、ミリアは優しく笑いかけてくれる。そして、クライドの方に向き直り、


「……………クライド」


「はいっっ!!!!」


「ユウちゃんに免じて、今回のことは不問とします。ですが、二度目はありませんからね」


「は、はいっっ!!!ありがとうございますっ!!!!」


 あぁ…………もうすでに威厳とかそういうレベルの話ではなかったな。


「…………それじゃあ、はい。抱っこしてあげて?」


 いつもの様子に戻ったミリアは、そう言って俺をクライドに手渡す。


「お、おぅ」


「あいっ!!」


 とりあえず挨拶。まぁ、多分この人も親バカだろうし、大丈夫だろう。

 俺が挨拶したあと、クライドはジーッと俺を見つめている。すると、クライドの体がプルプルと震えだして……………、


「パパですよ〜〜!ユウトのパパですよ〜〜!!ほら〜!!」


 いきなり立ち上がり、クルクルと回り始めるクライド。めっちゃ笑顔だ。


「ほれ〜!高い高〜〜い!!」


「お〜〜〜!!」


 と、あっちの世界でもお馴染みの高い高いをしてくれる。


「お〜〜?そうか!楽しいか!!…………じゃあ、もういっちょ!!!」


「お〜〜〜〜!……………お?」


「(……………っていや、高いよ!!明らかにオーバーでしょ!?)」


 俺が喜んでいることに気を良くしたクライドは、さらに俺を高く放り投げる。普通は体験できない高さからの眺め。広いこの部屋を有効に使い、上へ上がっていくときは、ほぼ真横にシャンデリア。動きが止まると、ほぼ後ろに天井が見える。無駄にいいコントロールだな。まぁ、確かに貴重な体験ではあったが、落ちてくときは結構怖い。なんか、耳元でシュン!っていう音がしてたもん。

 まぁ、その後にクライドはミリアに殴られていたけど……………。






「……………あぁ〜、ごほんっ。いきなり呼び出して悪かったな、ミリア」


「いえ、大丈夫です」


 そう言って頭を下げるミリア。その姿はとても綺麗で、やっぱり女神なんじゃないかと一瞬疑ってしまう。

 …………まぁ、目の前にいるクライドの顔はところどころ腫れていて、残念な感じになっているのだが。


「今日呼んだのは、ユウトのこれからについて話そうと思ってな」


「……………」


「(俺のこれから、か。しっかり聞いとかないとな)」


 そう思って、クライドの話に耳を傾ける。


「とりあえず、四歳になるまでは基本的に家からは出さない・・・・。まぁ、近くの村くらいなら護衛付きなら良しとする」


「(…………………へ?)」


 思っても見なかった言葉が聞こえて、一瞬思考が止まる。


「はい。分かっています」


「まぁ、こんな・・・世界だ。この子がどれだけ貴重な存在かは皆分かっているだろう。この子がある程度、成長しないと守りきれるかはわからない。全員、気を引き締めてほしい」


「「「「はいっ!!!」」」」


 その言葉と共に後ろに立っていたメイドさんたちが返事をする。


「(貴重な存在?一体どういうことだ?話が見えてこないな)」


「それと魔法は先生・・に見せてから決めることにする。まぁ、俺達の息子だし才能はあるだろうが、念の為見せてからのほうがいいだろう」


「……………まぁ、そうですね。それは私も一応賛成です。ネロ先生にはソフィアちゃんもお世話になっていますし」


「(ネロって人が魔法の先生になるってことか?………っていうか、ソフィアって誰だろう?)」


 二人が一通り話し終えたようで、一息ついていると、コンコンと扉がノックされる。


「誰だ?」


「ミランダです。入ってもよろしいでしょうか?」


「あぁ、入ってくれ」


 ギィ、と扉が開く音がして一人の女性と女の子が入ってくる。どちらも綺麗な銀髪だ。女性の方はスラッとした体型でキリッとした目をしている。出来る女って感じだ。その女性の脚に隠れている女の子はこの女性によく似ており、銀髪碧眼で将来は美人になるであろう容姿をしている。

 そして、この二人の最大の特徴はその尖った耳である。それはいわゆる、


「(………エルフ・・・ってやつか)」


 そう。エルフだ。まぁ、ここまで来たらもうあまり驚かないのだが。


「あぁ、ミランダ。よく来たな。…………ほら〜、ソフィア〜。こっちおいで〜〜」


 再びデレっとした顔になるクライド。それを見て、ソフィアは一瞬だけビクッとしたがとてとてと可愛らしい様子でクライドに近づいていく。


「は、はい。おはようございます、お父様」


 ペコリとお辞儀をするソフィア。その様子を見て、またもやプルプルと体が震えだしたクライドだったが、


「はっっ!!!!」


 と、殺気?を感じたかのようにビクッと体を強張らせる。もちろん、その出処は、


「…………」


 ミリアである。それをギリギリで察知したクライドは、


「よ……よしよし。良くできたね」


 と頭を撫でるだけに留まった。


「…………えへへっ」


 そして、ソフィアは顔を綻ばせてニコニコと笑う。その様子を見ていたミランダが、


「ミリア…………何したの?」


「ユウちゃんを怖がらせた罰を与えようとしただけですよ?」


「…………そう」


 ミランダはミリアから目を逸して、全てを察したと言わんばかりの引きつった笑みを浮かべていた。しかし、すぐにこちらに目を向けて、


「…………その子がユウトくんね?」


「えぇ、そうよ」


「…………私も抱っこさせてもらえないかしら?」


「フフッ。えぇ、もちろん」


 ミリアはそう言って、クスクスと笑いながらミランダに俺を手渡す。


「………………」


「………………」


 お互いに見つめ合う。…………挨拶しとこうか。


「あいっ!」


「(ビクッ)」


 俺が挨拶すると、ミランダは少しだけ驚いたようにビクリと体を震わせて背筋が伸びる。


「…………ミランダ。大丈夫よ?ソフィアちゃんにしていたようにすればいいから」


「そ、そうよね。うん」


「(?………緊張、しているのか?)」


 何故だ?自分の子供を育てているはずなのに、なんでここまで過剰に反応するんだ?


「えっと……。は、初めまして、ユウトくん。私は、ミランダっていうの…………そうね。あなたの二人目のママみたいなものかしら?よろしくね」


 そう言って、優しく微笑む。


「あいっ!!」


 そしてもう一度、俺は挨拶をする。


「フフッ。可愛いわね」


 ニコニコと俺を見るミランダ。


「あ、あの?お、お母様」


 すると、下から声が聞こえてくる。


「あ、あら?ソフィア?ごめんなさい、気づかなくて」


「い、いえ。そ、それよりも、その………」


「…………あぁ、分かったわ」


 そう言うとミランダは、膝を曲げてソフィアと目線を合わせる。


「まだソフィアには抱っこは難しいと思うから、私が抱っこしてるわね」


「は、はい」


 そう言って俺を見るソフィア。


「………………」



「(…………つまるところ、俺の姉ってことだよな。仲良くできるといいんだけど)」


 と俺が考えている間も、じっと俺を見つめるソフィア。そして、何かを決心したかのように手を伸ばしてくる。


「……………」


「うぅ〜〜〜?」


 その小さな手は俺のさらに小さい手に重ねられる。俺はそれを握り返して、


「あいっ!」


 と元気に挨拶した。すると、ソフィアは目を輝かせて、


「………わぁぁ!!」


 と嬉しそうに顔をほころばせる。


「えっと、えっとね!私は、あなたのお姉ちゃんのソフィアだよっ!よろしくねっ!」


「あいっ!」


「うんっ!えへへっ」


 そんな中、可愛らしい笑みを浮かべる少女と赤ちゃんを優しい瞳で見つめる二人の母親であった。






「うぅ〜〜〜」


「フフッ。今日は疲れたね〜」


 あれからしばらくソフィアは俺のことをスリスリして、ミランダと一緒に帰っていった。その後、何故かクライドの後ろに立っていたメイドたちも俺を抱っこしたり、スリスリしたりとやりたい放題になっていた。…………え?クライド?もちろん、正座ですよ。

 そして部屋に戻るとある意味最大のイベントが待ち構えていた。そう、食事である。もちろん、赤ちゃんである俺の食事は、母乳だ。……………うん。まぁ、変な感情は出てこなかったし、美味しかったから良かったけれど、精神的に疲れてしまった。さらに、食事後特有の眠気が俺を襲い、今にも寝てしまいそうだ。


「あ〜うぅ〜〜」


「いいのよ〜、寝ちゃって」


 そう言って。ミリアは俺をベットに寝かして、頭を撫でながら子守唄を歌い始める。


「〜〜〜♪〜〜〜〜♪」


 すぐに、瞼が下がってくる。


「(あぁ、もう………限界)」


 そう思って、目を閉じる。今日は、流石にいろんなことがありすぎた。轢かれたり、転生したり、楽しい家族ができたり…………。

 それでも嫌なんてことはない。この一日だけでも、あっちの世界では体験できなかったことだらけだったんだから。


「(…………俺は、幸せなんだろうな)」


 まだまだ不安なことも、分からないことも多いがこれからの生活にどこか期待してしまう自分がいる。そして、それには何よりも、


「(………この人たちと一緒がいいな)」


 今日俺が味わった幸せは、俺一人では決して味わうことが出来ないものだった。だから、俺はこの人たちを守る。一度失ったはずの命をそのために使うくらい、いいよな。


「………大丈夫」


 不意にそんな声が聞こえる。


「…………大丈夫よ。絶対に、大丈夫」


 ミリアは俺を撫でながら、優しい声でそう呟く。俺の意識が暗いところへ落ちていく中、


「…………あなたは絶対に、私達が守る・・から」


 そんな呟きが耳に残った。


 そして、俺がその言葉の真意を知るのは、もう少し先になる。



                 To be continue.

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