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ダンジョンって未知だよね?

深谷シロ

第二話『天才』

「どうして僕の名前を?」

「それは君がギルドに行った時から見てたからさ。」

 リリアーナはあたかも簡単そうに言った。しかしフロウは一度たりともリリアーナを見てはいなかったのだ。恐らく誰一人としてリリアーナを見ていなかったのではないか?

「まさか……〈透明魔法〉?」

「おおっ、正解!そうだよ、私は〈透明魔法〉を使ったんだ。私は何故かギルドから指名手配されているそうだからね。」

 確かにフロウもリリアーナの名前は知っていた。その名前は紛れも無くたった一人のレベル10だからだ。突然、行方を晦ましたリリアーナはギルドによって指名手配されていた。と言っても何か悪いことをした訳でもないのにどうして指名手配されるのだろうか。

 その答えはフロウが問い掛ける前にリリアーナによって告げられた。

「あの気味が悪いギルドマスターにどうやら好かれてみたいなんだ……。だから姿を消したってワケ。」

 フロウはギルドマスターを見たことは無い。ギルドマスターは滅多な事では人前に姿を見せないからだ。生きているのかどうかさえ冒険者達は知らない。

「まあ、それはイイとして。君はどうしたい?これから冒険者を続けるか────それとも冒険者を辞めたいかい?」

「────それだけは嫌だ!!」

 リリアーナは微笑んだ。微笑んだリリアーナの姿は見る者すべても虜にする威力があったが、生憎涙を流していたフロウには見えていなかった。

「うん、いい返事だ。それでこそ冒険者だよ。さてまだ昼過ぎだけど、依頼を受けるかい?」

 フロウは頷いた。そして涙を払った。冒険者に涙は相応しくない。全ての者に勇気と好奇心を与える存在。それが冒険者だからだ。涙を流す暇があれば前へ進みたい。

「それじゃあ行こうか。私は透明になるけど近くにいるからね。話し掛ける時は小さな声で頼むよ。」

 リリアーナは自身に〈透明魔法〉を使った。勿論使用したのはリリアーナのみが使える〈特殊詠唱〉。フロウは見蕩れてしまっていたが、両頬を手でパシッと叩くと気を取り直した。

 二度と同じ失敗は繰り返さない。そして誰よりも強くリリアーナに届く存在になるために。フロウは決心をしてギルドへと向かった。まずはレベル2になるまでに多くの依頼を受注する。

 フロウがギルドに着いて手に取った依頼書は前回とは違い薬草採取の依頼書だった。渡したのは先程と同じ受付嬢。受付嬢はフロウの顔を見ると表情の僅かな変化を悟った。そして依頼を了承した。

 ダンジョンへはギルドの奥の巨大階段より入れる。巨大階段の一番下から見えるダンジョンの姿は真っ暗である。冒険者は徐々に目を慣らしていくのだが、最初は誰しもが驚くものだ。

「君は驚かないのかい?」

 リリアーナは当然の質問をした。だがフロウの心は決まっていた。

「僕はこんな所で止まるつもりは無いんだ。」

 リリアーナは「そうか。」と呟くとそれ以降は何も言わなかった。フロウの意見を尊重するつもりだった。フロウはもう一度両頬を掌で叩き、気合を入れると巨大階段を一気に駆け上る。巨大階段は全てで1450段。一段一段の高さが低い代わりに段数が多いのだ。

 フロウはその巨大階段を三段飛ばしをして駆け上っていった。3分ほどしてフロウは漸く巨大階段を登り終えた。そして姿を見せた〈神々の大樹ダンジョン〉第一層を見渡した。

「これが────ダンジョン。」

「そうさ、ここは君の未知を探すための理想郷ユートピア。」

 リリアーナはいつの間にか姿を現していた。ダンジョンに入ればギルドからの監視の目は無くなるために心配する必要がなくなるのだ。

「今回の君の依頼内容はなんだい?」

「えーっと……〈岩キノコ〉を15個と〈催眠草〉1個みたいだ。」

「じゃあ〈岩キノコ〉は心配ないけど、〈催眠草〉には気を付けよう。名前の通り催眠効果があるからね。バックはある?」

 リリアーナはレベル10という名前に恥じないほどの情報量を所有していた。ダンジョン内部の構造は71層まで全て把握しているようだ。

 フロウはリリアーナの道案内でダンジョンを進み始めた。ダンジョンは第一層はあまり広くない。だからこそ冒険者はすぐに第二層を目指そうとするが、それは愚かな判断である。第一層だとはいえ、魔物は出現し、天然罠トラップの類も存在するからだ。

「次の分岐点を右に曲がれば〈岩キノコ〉が多く生えている所に出るよ。」

 リリアーナの言った通りに分岐点を右に曲がったフロウ。そこには確かに〈岩キノコ〉は沢山あったが、それだけでは無かった。いたのは────魔物。

「あーあれは小鬼ゴブリンだね。近くに群れがいる可能性が高い。小鬼ゴブリンさ群れで生活するからね。第一層から第十層の最下層ではエリアボスに次ぐ強さを誇るよ。」

「だけど、群れを呼ばれる前に倒せれば────?」

「その通り。小鬼ゴブリンは呆気なく倒されるだろうね。どうするかは君の判断に任せる。でも私は君が絶体絶命ピンチにならない限りは手を出さないからね。」

「うん、分かってる。」

 フロウは取り敢えず小鬼ゴブリンの様子を窺った。近くに群れがいないかを待っていたのである。しかし偶然にも近くには群れがいなかったようだ。そしてその小鬼ゴブリンは〈岩キノコ〉を食べる事に夢中で周りに気を配っていなかった。

 フロウは足音をたてずに駆け出した。誰よりも速く────そして首を短剣で切り落とす寸前。小鬼ゴブリン冒険者フロウの存在に気付き叫ぼうとしたが、声が出ると同時に首は飛んでいた。フロウは血を避ける。

「お見事。声が出掛けたけどレベル1としては素晴らしい腕前だったよ。やっばり私の目には狂いがなかったみたいだ。」

 フロウは完全に姿を消した小鬼ゴブリンから魔石コアを回収した。魔石コアを失った小鬼ゴブリンは〈神々の大樹ダンジョン〉へと還る。

 全ての魔物には人間の心臓や脳の働きをする魔石コアが存在している。それを取ることでその魔物の体は消滅するが、言い換えれば魔石コアを取らない限りは魔物の体は消えない。体は消えずとも他の魔物が食べに来る可能性はあるが。ダンジョンの中にも食物連鎖は存在している。

 フロウは小鬼ゴブリンの血飛沫が掛かっていない〈岩キノコ〉を15個採取した。これで一つ目が完了だ。残りは〈催眠草〉。だがここはダンジョン。楽には依頼が終わらないようだ。

小鬼ゴブリンの群れは来なかったけど、血の匂いに誘われて灰狼グレイウルフが来たよ。こいつは敏捷性が高いから気を付けてね。」

 リリアーナは狙われないように〈透明魔法〉で姿を一度消した。灰狼グレイウルフはフロウを見ていた。フロウと灰狼グレイウルフは互いに距離を取る。フロウは反撃カウンターをしようと目論んでいるが、灰狼グレイウルフが攻撃を仕掛けてこない。

 フロウは一瞬だけ油断した。それが隙となり、灰狼グレイウルフは飛び掛かった。フロウは咄嗟に体を捻って灰狼グレイウルフの攻撃を避けつつ、短剣を当てようとしたが、それも避けられる。

 灰狼グレイウルフにはある程度の知能が備わっている。フロウは油断してはいけなかった。フロウは再び構えた。次こそ、と。灰狼グレイウルフは再びの隙は無いだろうと判断したのだろうか、安直に飛び掛かってきた。

 フロウも同時に灰狼グレイウルフの方へと走り出した。このままではフロウは────灰狼グレイウルフがフロウを噛もうとする直前に体を屈めて地面を滑った。同時にフロウは短剣で灰狼グレイウルフの顔から尾まで体の下部を一直線に切り裂いた。

 体の半分を切り裂かれた灰狼グレイウルフは死んだ。魔石コアを回収する。リリアーナは〈透明魔法〉を解除しつつ言った。

「お見事。レベル1とは思えない程の腕前だよ。」

 フロウは未だに無傷である。レベル1ならば回復薬ポーションを沢山持った状態でそれを使いつつやっと魔物を倒す。フロウは回復薬ポーションを持っていない。これは才能があると言われてもおかしくない実力があった。

「でも過信は命取りだからね。」

 最後にリリアーナは忠告する。幾度となく冒険者は油断した所で魔物に殺された。過信する事も同じだ。過信は十分な程の命取りになるのだ。冒険者の暗黙の了解だ。

「〈催眠草〉はここから近いよ。」

 リリアーナは前を歩いて案内してくれた。フロウが疲れている事に気付いたのだろう。手短に終わらせるつもりらしい。

 二つか三つほど分岐点を曲がり二人は〈催眠草〉の近くへ辿り着いた。リリアーナは忠告する。

「フロウ君。息を止めるんだ。香りを吸ったら眠ってしまうからね。」

 フロウは急いで〈催眠草〉を採取した。そしてバッグにいれる。リリアーナは〈催眠草〉の香りが届かない範囲にいたのでそこまで駆け寄る。

「終わりました。」

「どうして敬語……あ、そうか。まだあまり話をしていなかったね。私には敬語でいいよ。私は15歳。君と2歳しか違わない。敬語を使われると私も話しづらいから。」

「あ、うん分かった。」

「うん。あと君は私の事を好きに呼んでくれて構わないよ。リリアーナでは長いでしょ?」

「じゃあ……リア?」

「間を取ったんだね。それで良いよ。今度からそう呼んでね。」

 リアは微笑んだ。前回こそフロウは見ていなかったが、今度は見てしまった。微笑むリアの姿に見蕩れてしまった。リアは赤くなったフロウに首を傾げる。

「どうしたの?……あ。」

 フロウは倒れた。どうやら体力の限界だったらしい。初日としては上々の結果だ。リアはフロウを休ませてあげることにした。

「……君は私より強くなる。私を超えて更なる高みへ進むんだ。……そして〈神々の大樹ダンジョン〉の秘密を明かしてくれ。」

 リアの願いをフロウが知るのは随分と先のことであった。

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