Virtual World of WarⅢ・仮想世界の戦争

11月光志/11月ミツシ

新第1話

 2xxx年の日本、某月某日の大阪市、高く高くそびえたつ大阪スカイツリー…もとい通天閣の展望デッキに2人の男がいた。

「先生、本当に例の計画は実行する形でよろしいのでしょうか」
「ああ、構わんよ。やってくれ」

 先生と呼ばれた男は、もう一人の男の肩を叩く。

「ですが先生、もしこれが失敗に終わったら…」
「ああ、私らは反逆罪で永久に日の出を浴びることは出来んだろうな」
「先生、今ならまだ間に合います。どうか考え直してください」
「…。いいか、これは私の父からの夢だったのだ。それ意思を私は確かに受け継いだ、今更やめることなんかできない!」

 もう一人の男が歯を食いしばる。
 その彼の右手には、ある資料が握り込まれていた。まだ誰も知る由もない世界規模の恐ろしい計画の全貌である。


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 大阪府大阪市の都心部に位置するある高校。
 大阪市の公立高校友晃高校の1年C組の窓際に一人の少年が静かに眺めていた。少年の名は木津川 諭吉きつがわ ゆきち15歳。もともとは大阪市の郊外に住んでいたが、中高進学のためにやってきた。
 諭吉の母親は実家で祖父の介護、そのため父親と二人暮らしであったのだが、仕事の都合から父親は海外にいることが多かった。
 諭吉と聞いて、思い浮かべるのは1万円札にも載っている福沢 諭吉だろう。そのせいか、親しい人からは一万円と呼ばれていた。

「おい!1万円!」
「だから、そのあだ名をやめろって…。」
「いいじゃねぇか、なんか金持ちそうで」
「そういう問題じゃなぁ…。で?なんか用か?」
「おおう、お前にお客さんがいるぞ」
「客?」

 諭吉の友人である十条がからかうようにあだ名を読んだ。彼はそれに反発しながらもお客さんがいる後ろの扉に目をやった。

「柚木…。」

 神奈 柚木かんな ゆずき。彼の幼稚園からの幼馴染である。
 諭吉の父親の親友とも会って昔から家族ぐるみの付き合いがあり、今も家が隣同士という切っても切れない腐れ縁である。
 彼女は英国人と日本人のハーフなだけあって、顔だちも良く銀髪碧眼のかわいらしい少女だ…。が、彼女には2つ特徴というか、短所というか…
 その一つはしゃべり方であった。口癖なのかどうしてもぽわぽわしたしゃべり方になってしまう。そしてもう一つは…

「諭吉ちゃん!お弁当だよぉ~」

 お弁当箱である。
 柚木は諭吉と幼馴染でもあったため、両親が家にいないときもよく面倒を見ていた。食事も一緒に取ることが多く、その一環でお弁当を自分の分と諭吉の分を毎日作ってきていた。
 諭吉はそれを受け取ると、念を押すように聞いた。

「ああすまん……。今日こそはまともに食える奴だよな…?」
「酷い!それ私の作ったお弁当がまずいような言い方じゃん!」
「いや、だって…」

 柚木の作る料理はことごとく失敗していた。
 基本的には彼女の母親がお弁当を用意しているそうだが、一品だけ柚木手作りのがある。
 その一品は味が薄かったり、逆に濃かったり、生焼けだったりとまともにできたためしがなかった。

「そんなに心配だったら、開けてみてよぉ~!」

 少々涙目の柚木が諭吉に文句を言った。薄い苦笑いをしながら、基本的に逆らわない主義の諭吉はお弁当を言われた通り開けた。
 弁当は二段式になっており、下にご飯と梅干し…いわゆる日の丸に上には玉子焼きやきんぴらごぼう、から揚げ、ポテトサラダ…一見してみれば成功作であろう。

「お前…これ…」
「ふふーん。今日は失敗なんかじゃないでしょぉ~!」

 諭吉は少々驚いていた。
 柚木は対照的に可愛くどや顔である。
 だが、形が成功しているときは味に問題がある。そう彼の脳内の何かが警告を告げた。
 だが、お昼時ではない今、味見するわけにもいかず、軽く礼を述べた諭吉は、『相変わらず仲いいな…』というクラスメートの視線を照れながらも無視し席へと戻っていった。



 結論を言うと、柚木の作ったおかずはから揚げだった。形も見た目もよさそうに見えたが、少々焦げっぽかったのは残念であった。 



 帰りのホームルームが無事に終わり、諭吉は十条と共に帰宅路についていた。
 残念ながら柚木はクラブ活動があるので途中で別れたが、別れるとき涙ながらに…

「諭吉ちゃん、私が家に行くまで誰も家に上げちゃだめだよ~!知らない人が来ても居留守という事にするんだよ~」

 と2回ほど言っていた。
 あまりにも念を押すので同じクラブの人に連行されていった彼女を見た諭吉は…、『あそこまで行くとお母さんだな…』と冷や汗をたらしたそうだ。
 そして今はというと、丁度淀川にかかる橋に差し掛かった時である。

「VR?」
「そっ、あの皇天堂が新作のゲーム機を発売したそうだ。何でも今までのVR機の最先端を行き、表現を変えれば魂ごと仮想世界に行くことができるそうだぞ」
「えぇ、それ危なくない?」
「いや、そこは大丈夫らしい。運営によれば、脳の神経作用に直接接続して、5感をすべて投入するだけだそうから、安全だ。」
「ふーん、それで、そのゲームの題名は?」
「ワールド・オブ・ウォーⅢ」

 諭吉は首を傾げた。それを見た十条も首を傾げた。二人一緒に首を傾げた。
 それを行った十条は、ブゥ――、と首を傾げながら何かを吹き出し、静寂な空間を打ち破った。

「詳しくは、皇天堂のサイトを見た方がいい。」
「でも、名前からして戦争ゲーだろ?弾とかが当たった時の痛覚は感じるのか?」
「さぁ?試したことがないからはっきり知らんが、子供が頭にデコピンをするくらいの痛みらしい」
「それは、痛くなさそうだな…。」
「だろう?だから今度買いに行こうぜ!」
「でも高くないのか?本体とか…」

 1世代前のVR機、定価12万2000円なり。税込み13万1900円なり。

「いや、そうでもないぞ。市販品は技術革命によって2万円未満で購入可能だ。さらにソフトとセットでだ」
「それならまだいけるかな…。」
「よっしゃ決まった!んじゃぁ今週の日曜日、いつもの公園集合な!」

 そういうと、十条は走るように横断歩道を渡っていった。 

(VRか…)

 もともと、ゲームが好きだった諭吉は、VRという欲しかったけど届かない物を手にできる喜びに浸りながら家へと帰っていった。



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