ガチャで爆死したら異世界転移しました
討滅戦 ② 推測
レインが部屋を出た先の道を進んで行くと、突き当たりには何やら厳重そうな扉があった。
「ふむ、ここから先は何やら雰囲気が違うな。地下であることから察して、ダンジョンの入口と言ったところか?」
一面を岩で囲まれたこの場所には似つかわしくない程やけに近代的な扉を、イグラッドはウキウキしながら眺めている。
「僕もそう思う。ダンジョンだねこれは」
そう言ってレインは後ろを向く。
丁度今皆がレインに追いつき、集まったところだった。
全員が眼前に揃った頃、レインはおもむろに口を開いた。
「恐らくこの扉入ったらもう出られないだろうけど、準備はいい?」
「準備も何も、気付いたらここに居たんだもの、入るしかないでしょ」
さらっと返すレヴィア。
というか、それもそうである。【転移】などのスキルがあれば脱出も出来たかもしれないが、レインの【影転移】は物質を通り抜けての移動はできないのである。
「あーじゃあ…おっさん」
レインの呼びかけに間を置いて自分を指さす中年に、あんただよと言ってレインは続ける。
「あんた、職業は盗賊かなにかでしょ?」
「おぉよく分かるな。その通りだ」
「じゃあトラップとか魔物の感知はよろしくね」
「おう!…ってーことはだ…俺が先頭行けってか!?」
ムリムリムリムリッ!とか言いながら手を振っているが、レインは完璧に無視し【傲慢】からの【神経感応】に応答していた。
『はいはい主です。どうした?』
『主よ!ご無事でしたか。資金集めのための依頼が完了したので主の元へ【転移】したのですが、丁度入れ違いになってしまったようで・・・』
『あーそれなら大丈夫だ。それと、色々あってこれからダンジョンに潜る事になったから、メア達にはそう言っておいて』
『ダンジョン、ですか。お一人で?』
『いや、数人…+一匹、かな』
『そうですか・・・主が十分な戦力だと思われたならそれで良いですが、それらは本当に信頼できるのですか?』
『まぁ…取り敢えず+一匹の方は信用できる。他は・・・ぼちぼちってとこかな』
メアを呼んで【転移】してもらう事も考えたが、目の前にダンジョンがあるという状況で一旦帰るという選択肢はレインには無いのである。
(アイテムとか装備品は何時でも【アイテムボックス】から取り出せるしな)
『・・・分かりました。メア様他は私の方で説得しておきます。何か手伝える事などは?』
『んー・・・あ、冒険者学校に行って、そこにいる人全員避難させといてくれないかな』
『承りました』
『紅華を連れていくとスムーズに事が運ぶと思うから。じゃ、よろしくー』
『はっ。ご武運を』
「────から無理だって!」
通信を終えたレインの目の前には、今にも泣き出しそうなおじさんの顔があった。
その破壊力に、さしものレインも思わず後退する。
「・・・え、なに?」
「だから!おれぁいまトラップ解除のアイテムも魔物感知のアイテムも持ってねーんだよぉ!そんな俺に先頭歩けってか!?」
(え、なんでこのおっさんそんな思い詰めてんの)
「じゃあ・・・・・・はいこれ」
「・・・え?」
「これが罠感知、あとこれが敵感知のアイテムね。足りなくなったら言って。まだまだあるから」
ここで可愛そうだから先頭は自分が歩いてあげよう、などと思わないのが、レイン・グレスティアという人物である。
【アイテムボックス】から取り出したアイテムを手渡し、灰のように白くなったおじさんの背を押して扉の前に設置する。
「じゃ、レッツゴー」
周りの白い目をもろともせず、レインは最後尾に構える。
やがて、ヤケになった中年が重い扉を開け中へと入っていく。
全員が扉を潜ると、自動的に扉が閉まった。
「───そう言えば、レヴィア…さん?あの話の続きは結局何を言おうと?」
光源の無い洞窟を進む一行の最後尾で悠々と歩くレインが、前を歩くレヴィアに話しかける。
「さんは要らないよ。そうね、丁度敵が出てくる気配もないし、続きを話すわね」
そう言ってレヴィアは、こほん、と一つ咳払いをし話し始めた。
「最初に言ってしまうけど、アリサさんに決闘に関する書状を送ったのは、恐らくハウルド家当主本人ではないわ」
それを聞いたアリサが驚いているが、レインとレヴィアは話を続ける。
「じゃあ誰が送ったの?」
「私はハウルド家先代当主、もしくはそれに仕える執事だと考えてる。アリサさんの話によると、書簡には家紋が記されていたらしいし」
この世界での貴族間の秘密裏のやり取りには、家紋の入った専用の紙を使うのが普通である。
「先代って事は、もう隠居してる訳でしょ。そんな事出来るの?」
「普通は出来ないわ。でもあの家は特殊で、未だ先代の力が強いらしいし、当主の知らないところで先代がなにかしていてもおかしくはないわ。それと・・・これは私達【零落の凶弾】がハウルド家からの依頼を受けた後に、国王様から聞いた話なんだけど。実は国民の間で流れてるハウルド家の悪い噂は、全くの出鱈目だから」
「・・・でも出鱈目なら、当主本人が出てくれば一発で分かってしまうのでは?何故自分が悪く言われているのを放置しているんです?」
と、アリサは眉をひそめた。
「そう、その通り・・・その通りなのよね・・・」
アリサの疑問に、レヴィアも考え込む。
「何かしらの要因があって、国民の前に出られない訳でもあるのかね」
「えぇ・・・その可能性が高いわ」
「まぁ、そこは今はいいとして。じゃあさ、あの決闘って当主がけしかけた訳では無いんでしょ? 結局誰がなんの為にやったの?」
直ぐに答えは出ないと察したレインは、次へと話を進める。
「・・・もしかしたら、この状況こそが、決闘という場を作った理由なのかもしれない」
「?」
疑問符をうかべる一行。
「つまり、こうして私達全員がこのダンジョンに潜っていること自体、連中の思惑通りなんだよ」
「あぁ…とすると、先代当主と【名欠け】、あとあの控え室に来た二人組が手を組んでるって事になるわけか」
ぽん、と手を鳴らすレインに、レヴィアは何も言わずに頷いた。
「えっと…ど、どういう事でしょうか? 魔物とハウルド家が繋がっていると・・・?」
アリサ達が理解するにはまだ情報が足りなかったようだ。
「ダンジョンのボスは、自分のダンジョンから外に出ると、消滅してしまうっていうのは分かるよね」
アリサは頷く。
「はい。大きなダンジョンの首魁となると、時折驚くほどの知能を持つのですよね」
「そう。時には人間と取引したり、操って実質的に地上で行動したりもするわ。でも【名欠け】はそれらと比べても格が違うの」
後は進めば分かる、と話を切るレヴィア。
そこで一行は、見上げるほど巨大な扉の前に到着した。
盗賊の男がアイテムを使用し安全を確認した後、扉を開けようとゆっくりと手を近づけていく。
しかし指が着こうとした瞬間、扉は独りでに動き出した。
そうしてレイン達は、緩慢な動きで開いていく扉の奥を覗き見る────
レイン達が巨大な扉の前に到着したのと時を同じくして、その最深部にある部屋──王城が丸々入る程の広大さである──では、ダンジョンの主がその何十本にもなる触手で床に傷をつけていた。
よくよく見れば、痕は部屋中に付けられており、何かの魔法陣である事が分かる。
「ふぅ…旦那、言われてた通りやって来たぜ。しかも、竜族となんか強そーな黒いやつもセットだ」
いつの間にか背後にいた──否、気付いていたが関心がなかったのである──男が、片手で器用にも2本の短剣をくるくると回しながら言った。
「くろぉいやつぅ?」
部屋の主はその触手の動きを止め、聞き返す。
「あぁ。帽子から靴まで、全部真っ黒な奴だ。なんとそいつぁ俺の目に一発で感付きやがったんだぜ?」
男はまぁちゃんと戦えば負けねーがな、と付け加えることを忘れない。
「ふぅん…じゃあじっけんにもぉつかえるねぇ」
「だな。あとよ【名欠け】の旦那。そいつ、なかなか良さそうだったから、終わったら俺にくれねーかい?」
ニヤリと口端を歪めながら男は言う。
男の言う意味を理解した【名欠け】は、考えとくと言って部屋の奥へと移動する。
やがて見えてきた台には、十字架に磔にされた少女と翼を生やした男性が、力無く横たわっていた───
「ふむ、ここから先は何やら雰囲気が違うな。地下であることから察して、ダンジョンの入口と言ったところか?」
一面を岩で囲まれたこの場所には似つかわしくない程やけに近代的な扉を、イグラッドはウキウキしながら眺めている。
「僕もそう思う。ダンジョンだねこれは」
そう言ってレインは後ろを向く。
丁度今皆がレインに追いつき、集まったところだった。
全員が眼前に揃った頃、レインはおもむろに口を開いた。
「恐らくこの扉入ったらもう出られないだろうけど、準備はいい?」
「準備も何も、気付いたらここに居たんだもの、入るしかないでしょ」
さらっと返すレヴィア。
というか、それもそうである。【転移】などのスキルがあれば脱出も出来たかもしれないが、レインの【影転移】は物質を通り抜けての移動はできないのである。
「あーじゃあ…おっさん」
レインの呼びかけに間を置いて自分を指さす中年に、あんただよと言ってレインは続ける。
「あんた、職業は盗賊かなにかでしょ?」
「おぉよく分かるな。その通りだ」
「じゃあトラップとか魔物の感知はよろしくね」
「おう!…ってーことはだ…俺が先頭行けってか!?」
ムリムリムリムリッ!とか言いながら手を振っているが、レインは完璧に無視し【傲慢】からの【神経感応】に応答していた。
『はいはい主です。どうした?』
『主よ!ご無事でしたか。資金集めのための依頼が完了したので主の元へ【転移】したのですが、丁度入れ違いになってしまったようで・・・』
『あーそれなら大丈夫だ。それと、色々あってこれからダンジョンに潜る事になったから、メア達にはそう言っておいて』
『ダンジョン、ですか。お一人で?』
『いや、数人…+一匹、かな』
『そうですか・・・主が十分な戦力だと思われたならそれで良いですが、それらは本当に信頼できるのですか?』
『まぁ…取り敢えず+一匹の方は信用できる。他は・・・ぼちぼちってとこかな』
メアを呼んで【転移】してもらう事も考えたが、目の前にダンジョンがあるという状況で一旦帰るという選択肢はレインには無いのである。
(アイテムとか装備品は何時でも【アイテムボックス】から取り出せるしな)
『・・・分かりました。メア様他は私の方で説得しておきます。何か手伝える事などは?』
『んー・・・あ、冒険者学校に行って、そこにいる人全員避難させといてくれないかな』
『承りました』
『紅華を連れていくとスムーズに事が運ぶと思うから。じゃ、よろしくー』
『はっ。ご武運を』
「────から無理だって!」
通信を終えたレインの目の前には、今にも泣き出しそうなおじさんの顔があった。
その破壊力に、さしものレインも思わず後退する。
「・・・え、なに?」
「だから!おれぁいまトラップ解除のアイテムも魔物感知のアイテムも持ってねーんだよぉ!そんな俺に先頭歩けってか!?」
(え、なんでこのおっさんそんな思い詰めてんの)
「じゃあ・・・・・・はいこれ」
「・・・え?」
「これが罠感知、あとこれが敵感知のアイテムね。足りなくなったら言って。まだまだあるから」
ここで可愛そうだから先頭は自分が歩いてあげよう、などと思わないのが、レイン・グレスティアという人物である。
【アイテムボックス】から取り出したアイテムを手渡し、灰のように白くなったおじさんの背を押して扉の前に設置する。
「じゃ、レッツゴー」
周りの白い目をもろともせず、レインは最後尾に構える。
やがて、ヤケになった中年が重い扉を開け中へと入っていく。
全員が扉を潜ると、自動的に扉が閉まった。
「───そう言えば、レヴィア…さん?あの話の続きは結局何を言おうと?」
光源の無い洞窟を進む一行の最後尾で悠々と歩くレインが、前を歩くレヴィアに話しかける。
「さんは要らないよ。そうね、丁度敵が出てくる気配もないし、続きを話すわね」
そう言ってレヴィアは、こほん、と一つ咳払いをし話し始めた。
「最初に言ってしまうけど、アリサさんに決闘に関する書状を送ったのは、恐らくハウルド家当主本人ではないわ」
それを聞いたアリサが驚いているが、レインとレヴィアは話を続ける。
「じゃあ誰が送ったの?」
「私はハウルド家先代当主、もしくはそれに仕える執事だと考えてる。アリサさんの話によると、書簡には家紋が記されていたらしいし」
この世界での貴族間の秘密裏のやり取りには、家紋の入った専用の紙を使うのが普通である。
「先代って事は、もう隠居してる訳でしょ。そんな事出来るの?」
「普通は出来ないわ。でもあの家は特殊で、未だ先代の力が強いらしいし、当主の知らないところで先代がなにかしていてもおかしくはないわ。それと・・・これは私達【零落の凶弾】がハウルド家からの依頼を受けた後に、国王様から聞いた話なんだけど。実は国民の間で流れてるハウルド家の悪い噂は、全くの出鱈目だから」
「・・・でも出鱈目なら、当主本人が出てくれば一発で分かってしまうのでは?何故自分が悪く言われているのを放置しているんです?」
と、アリサは眉をひそめた。
「そう、その通り・・・その通りなのよね・・・」
アリサの疑問に、レヴィアも考え込む。
「何かしらの要因があって、国民の前に出られない訳でもあるのかね」
「えぇ・・・その可能性が高いわ」
「まぁ、そこは今はいいとして。じゃあさ、あの決闘って当主がけしかけた訳では無いんでしょ? 結局誰がなんの為にやったの?」
直ぐに答えは出ないと察したレインは、次へと話を進める。
「・・・もしかしたら、この状況こそが、決闘という場を作った理由なのかもしれない」
「?」
疑問符をうかべる一行。
「つまり、こうして私達全員がこのダンジョンに潜っていること自体、連中の思惑通りなんだよ」
「あぁ…とすると、先代当主と【名欠け】、あとあの控え室に来た二人組が手を組んでるって事になるわけか」
ぽん、と手を鳴らすレインに、レヴィアは何も言わずに頷いた。
「えっと…ど、どういう事でしょうか? 魔物とハウルド家が繋がっていると・・・?」
アリサ達が理解するにはまだ情報が足りなかったようだ。
「ダンジョンのボスは、自分のダンジョンから外に出ると、消滅してしまうっていうのは分かるよね」
アリサは頷く。
「はい。大きなダンジョンの首魁となると、時折驚くほどの知能を持つのですよね」
「そう。時には人間と取引したり、操って実質的に地上で行動したりもするわ。でも【名欠け】はそれらと比べても格が違うの」
後は進めば分かる、と話を切るレヴィア。
そこで一行は、見上げるほど巨大な扉の前に到着した。
盗賊の男がアイテムを使用し安全を確認した後、扉を開けようとゆっくりと手を近づけていく。
しかし指が着こうとした瞬間、扉は独りでに動き出した。
そうしてレイン達は、緩慢な動きで開いていく扉の奥を覗き見る────
レイン達が巨大な扉の前に到着したのと時を同じくして、その最深部にある部屋──王城が丸々入る程の広大さである──では、ダンジョンの主がその何十本にもなる触手で床に傷をつけていた。
よくよく見れば、痕は部屋中に付けられており、何かの魔法陣である事が分かる。
「ふぅ…旦那、言われてた通りやって来たぜ。しかも、竜族となんか強そーな黒いやつもセットだ」
いつの間にか背後にいた──否、気付いていたが関心がなかったのである──男が、片手で器用にも2本の短剣をくるくると回しながら言った。
「くろぉいやつぅ?」
部屋の主はその触手の動きを止め、聞き返す。
「あぁ。帽子から靴まで、全部真っ黒な奴だ。なんとそいつぁ俺の目に一発で感付きやがったんだぜ?」
男はまぁちゃんと戦えば負けねーがな、と付け加えることを忘れない。
「ふぅん…じゃあじっけんにもぉつかえるねぇ」
「だな。あとよ【名欠け】の旦那。そいつ、なかなか良さそうだったから、終わったら俺にくれねーかい?」
ニヤリと口端を歪めながら男は言う。
男の言う意味を理解した【名欠け】は、考えとくと言って部屋の奥へと移動する。
やがて見えてきた台には、十字架に磔にされた少女と翼を生やした男性が、力無く横たわっていた───
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