ガチャで爆死したら異世界転移しました

ひやし

人竜戦争 ⑫ 竜の王

「────君に、竜族達の王になってもらおうと思うんだよ」

レインがそう口にすると、周りの竜族達は一瞬何を言っているのか理解出来ず、少しして各々驚きを表す。

「・・・ふむ。グレスティアよ、おぬしの言いたいことは分かった。・・・私としては、特段おぬしを邪魔する気はない。が、理由を聞かせてもらおうか?」

レインが遠回しに王を討つと言っているのにも関わらず、白いの・・・竜族の王女であるイグラッド・ルインツァーレが少しも動揺せず、それどころか邪魔をする気がないと言っている。そしてその事に、竜族達は更に混迷を深めていった。

「うーん・・・理由か・・・」

早く終わらせたい以外に特に理由が無いことを思い出したレインは、取り敢えず何か考えているふうに黙り込む。

「・・・あの、王女様。ひ、一つお聞きしたいことが・・・」

そんな時、完全に野次馬と化していた竜族の一匹が話し出した。

「ん?なんだ?申してみろ」

イグラッドの了承を得たその竜は、必死に言葉を紡ぐ。

「は、はい。・・・さ、先程の言葉は一体どういった・・・なにかお考えがあるのでしょうか?」

「ん?先程の言葉…?・・・あぁ、邪魔する気は無い、というやつか?」

竜族は黙って頷く。

「・・・お前らは、父上…いや、王をどう思う?」

イグラッドは、質問を質問で返す。

「どう、と言いますと・・・強大な力を持ち、我々竜族達に繁栄をもたらす御方、でしょうか?」

周りの竜族もそれに同調する。

「・・・それは本当にお前達自身の考えか?」

イグラッドは可哀想なものを見るような目で周りを見る。

「自分自身の・・・考え・・・何、を・・・?」

途端、イグラッドと話していた竜族は何やらブツブツとつぶやき、放心したように固まる。彼だけではない、彼女の言葉を聞いた竜族達は皆、症状の大きい小さいはあるが、同じような状態になっていた。

「・・・なんかしたの?」

さしものレインも聞かざるを得なかった。

「・・・おぬしは知っていそうだな・・・竜族の王にとって、その他の竜族がどういうものなのか」

王女はレインを見る。そのライトブルーの瞳は、悲しみに染まっていた。

「まぁ、知ってるね。王の意志がそのほかの竜族達に影響し、ある種の洗脳をする。だっけかな?」

レインはゲーム内での竜族の説明文を暗唱する。

「そうだ。最も力ある者が他の全てを、仲間をも操り傀儡とする・・・なんと滑稽な種族だ・・・私のような王族や、身分の高い者…力のある者には効果は薄いことが唯一の救いだな・・・」

王女が補足をする。

「・・・で、その洗脳を解くには、その事に疑問・・を持たせる、って事?」

「そうだ・・・先程の者は中央の軍の司令官だったようだな、それに相応しい力を持っているから簡単に疑問・・を持ってくれた・・・・・・して、良い言い訳・・・・・は思いついたのか、グレスティアよ?」

王女は唐突に、わかりやすく考えるふりをするレインを見透かしたように、話題を戻した。

「・・・分かってるんだったら、最初から聞かないでよ」

少し怒ったように、レインはイグラッドを見る。

「フフッ・・・グレスティアよ。こんな話をした後で言うのは卑怯だとは思うが──」

「分かってるよ。いいんじゃない?・・・別に僕は、人間に危害を加えようとする今の竜族の王さえ倒せてしまえば、後に誰が王になっても、誰もならなくても、どうでもいいしさ」

王女が何を言おうとしているのかを察したレインは、皆まで言わせなかった。

「そうか・・・すまないな、いつの間にか悩みの相談になっていたようだ。・・・あぁ、悩みといえば、グレスティアよ。おぬしは今疑問に思っていることはないのか?」

憂いの消えた彼女は、笑いながら(恐らく)レインに聞く。

「あぁうん、無くはないね。・・・竜族ってさ、皆人型になれるの?」

それを聞いたイグラッドは、なんだそんなことかと、肩を落とす。

「いや、私たち全員がなれるという訳では無いな。一定以上の力のある竜族が、普段の魔力の浪費を抑えるために人の形をとるのだ。色々な生き物も試してはみたが、結局は人間の形が一番馴染み、そして便利なのだ。人間の【手】というものは素晴らしい。大きなものも、小さなものも持ち、操ることが出来るからな」

そう言って彼女は実際に人の形になり、レインに自身の手をグーパーしてみせる。

(・・・今だからこんなにも冷静だけど、びっくりするくらい美形だな、こいつは。正直好みだ。え、なに?竜族ってみんなこうなの?なにそれ羨ましい)

レインが慎也だった頃なら一発で落ちていたろうことは確実である。今まで話していた相手がそんなにも美人であったことに、レインは普通に驚いていた。

「へ、へー・・・あ、それとやっぱり人型の方が僕のような奴と戦うのはやりやすいの?・・・何かこう…魔力の密度的な…?」

「みつど・・・?まぁ、こちらが大きいままでは、小さいものと戦うのは、何かと不便ではあるな。すばしっこいと少し苛立ったりはする。弱い者が群れているのなら別だが」

「・・・そうか、おーけー分かった。じゃあ、日もほぼ完全に落ちそうだし、そろそろこの戦いも終わりにしますか」

イグラッドとの話を終わらせたレインは、後方に見える竜族側の天幕に向け、【影転移シャドウ・トランジション】と発動しようとする。と、イグラッドが何か言いたそうな顔でレインを見ていた。

「・・・なに?」

レインは魔法の発動を中断する。

「あ、うむ。いや、なんだ。おぬしはわたしの知らない魔法をいくつも知っているようだから、今度教えてもらえないか、と思ってな。勿論対価は用意する・・・どうだろうか?」

「・・・うん。まぁ教えられる範囲なら、別にいいけど?」

「そうか!それはありがたい。では、その時はよろしく頼むぞ、グレスティアよ」

本当に嬉しいのであろうイグラッドは、満面の笑みで喜びを表現する。

「・・・ま、眩しい・・・」

「ん?何か言ったか?」

「いや、何でもない。じゃ」

「あぁ、では、またな」


レインは片手を上げ、数歩歩いてから、今度こそ魔法を発動する───


「あぁ、イグラッド、やはりお前であったか、兵達を治している・・・・・者というのは・・・」


───完全に気を抜いていたレインが咄嗟に後ろを向くとそこには、丁度胸のあたりから真っ赤な腕を伸ばした──イグラッドがいた。


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