毒親

Mira

毒親襲来

「話があるんだ」


永田さんが寮に戻ろうとする私に叫んだ。


「もう、大丈夫です。ヨリ戻すんですよね?綺麗な方ですね。永田さんには彼女の方がお似合いです。」


私は笑顔で返した。



「あんた、最低だな!」


コウタくんが私と永田さんの間に割って入った。


「もういいよ。いっぱい泣いたらスッキリしたし。」


コウタくんをよけるように永田さんの前に立った。


「今までありがとうございました。」


私は永田さんに深々と頭を下げた。



「友ちゃん違うんだ!」



永田さんは何か伝えたそうだった。



でも私は永田さんに背を向けた。


何を聞いても、仮にそれが本当のことだったとしても今の私には永田さんを信じてあげられる程の心の余裕が無かった。


私は寮の部屋に戻り永田さんを思い出す物全てをしまい込んだ。



こんなに辛いならもう誰も好きにならない。



その日から私は勉強と仕事に今までに無いくらい打ち込んだ。


心が折れてしまわないように、たまに息抜きもした。


真琴といつものメンバーと一緒に過ごす時間は私にとってかけがえのないものになっていた。



コウタくんからの告白は丁寧にお断りした。



恋愛はしていなくても私は充実した日々を送っていた。


そんな時だった。
あの人が突然現れたのは。


真琴達といつものように集まっている時だった。


母からの着信が。


私は外に出た。


「はい。」


「友?お母さんね今、あんたの寮の前におるとけどちょっと開けて。」


「え、私今、友達と…」


最後まで話終わる前に母は


「友達とお母さんどっちが大事ね。せっかく会いに来たとにあんたは冷たかね!」


と被せて怒鳴った。


「わかった…すぐ行く。」


と電話を切った。


幸いすぐ行ける距離にはいたが…


会いたくない。


でも行かないと大変な目に遭う。


「みんな、ごめん。実家から母が突然来て。今すぐ行かなきゃ…」


私の腕を真琴が掴んだ。


「大丈夫?一緒に行こか?」


私は本当は着いてきてほしかった。


「ありがとう。大丈夫。」


そう言ったが顔はきっと引き攣っていた。


上手く笑えなかったから。


母に何も言い返せない自分が嫌だ。


変えよう、変えようと思うのに母の前では言いたいことが声にならなかった。


寮の前に立つ母が見えた。


私はゆっくり近付いた。


母が気付いてこちらを見た。


「遅かったね。」



「急にどうしたの?」


私は低く小さな声で聞いた。



「ちょっと話があってね。それにしても相変わらず暗い子ね。」


母は私を頭の先から足の先まで舐め回すように見て言った。


「とりあえず中入れて。」


私は足取り重く母を寮の部屋まで案内した。


「へー結構広かね。しかし何もない部屋ね。」


「あの…話って?」


無愛想な態度の私を母は睨んだ。


私は母と一切、目を合わせなかった。


母は大きくため息をついて言った。


「お母さん、お父さんと離婚しようと思う。」


普通なら驚くんだろうが正直、私にはどうでもよかった。


「それで、お金貸してくれない?あんた働いてるんでしょ?」


また…


私ははっきり断ろうと思って勇気を出して言った。


「私、働いて学費も払わないといけないから無理です。」


そんな私に母は高笑いをして言った。


「あんた私が知らんとでも思っとるの?社長さんと付き合っちょっとやろ?お金借りられるよね!」


この人どこから情報聞いたんだろう?


私は驚きと恐怖と怒りで手が震えた。


「もう別れたから…」


「はぁ?手切れ金貰ったでしょ?よこしなさいよ!」


腕を掴んだ母を私は思い切り振り払った。


「何するのよ!母親に向かって!」


と母は怒鳴った。


その時、部屋の扉が凄い勢いで開いた。


「あんたみたいなのが母親面してんじゃねぇーよ!」


真琴が私の前に立ちはだかって言った。


「あなた誰ね?関係無かろう?」


母親は真琴に怒鳴った。


「関係あるわ!誰よりも大切な親友や!子供にお金せびる親がどこにおるんや!さっさと帰って下さい。母親なら娘の夢を邪魔しないで下さい!」


そう言い放った真琴は母を荷物と一緒に寮の入り口まで追い出した。


「ありがとう。」


震える私を真琴は強く抱きしめてくれた。



「あんた、ずっと耐えて来たんだね。辛かったね。」



真琴の優しさに胸が熱くなった。


今まで誰も助けてくれなかった。


それどころかあの母親のせいでずっと周りに避けられてきた。

救ってくれた真琴の為にも私も強くならなければ…


ただ、こんなことで母が引き下がるとは思えない。


離婚したら尚更だ。

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