毒親

Mira

思わぬ訪問者

寮の部屋に戻ったのは日付も変わった午前1時だった。

部屋に入ってすぐに誰かがドアを叩いた。


「はい」


扉を開けると優子だった。


「ちょっといい?」


と強引に部屋に上がり込んで来た。


「ちょっと、友、何があったの?電話かかってきて真琴の部屋出てから戻って来ないし。真琴は知らないって言うし。」


「うん、ちょっと色々と…でも大丈夫!充電してきたから。」


私は小さい時からあまり人を信じないタイプだった。


だから心を開くまで時間かかると周囲に言われてきた。


でも私は今まで誰にも心を開いた覚えはない。


心を開いたのは永田さんだけだ。



仲良くなった友人さえ信用出来ない。



優子のことは好きだった。


明るくて優しくて友達思いで。


それでも自分のことは話したくない。



「友ってさ、謎だよね。ま、いいや!元気なら。
でもなんかあったらいつでも相談乗るから!」


優子は本当にいい子だ。


「心配かけて、ごめんね。ありがとう。」


私は部屋を出ていく優子を見送った。



その時、廊下に真琴の姿が見えたが私は避けるように慌てて扉を閉めた。


どんな顔で真琴に会えばいいのか分からなかった。


その後、真琴も私を避けるように生活しているようだった。


寮の廊下ですれ違っても目も合わせてようとしない真琴と挨拶を交わすこともなくなった。


寮の居心地も悪く、あの夜から永田さんと会える日は必ず永田さんの家に泊まるようになった。


そんなある日。


その日はお店の休業日だった。


二人でバーのキッチンで食事の用意をしていると、玄関のインターホンが鳴った。



「誰だろう。友ちゃん、続けててくれる?」


そう言って永田さんは自宅の玄関の方に向かった。


5分経っても戻って来ないので私は料理を中断してそっと玄関の方を覗いた。


せ、先輩?


玄関には永田さんと会うように促した同じ病院で働く5つ上の里山先輩が立っていた。


と思った瞬間、先輩が永田さんに抱きついた!


泣いている様子だ。


私は見てはいけないものを見た気がして、そっとバーのキッチンに戻った。



しばらくして永田さんが戻って来て


「友ちゃん、ちょっと。」


と私に手招きをした。


玄関の先輩の前に案内された。


「こんばんは。」


私が挨拶すると先輩も少し涙声で返した。


「こんばんは。」


私は永田さんの顔を見た。


永田さんは少し困った顔をした。


「今晩、里山泊めてもいいかな?」


唐突過ぎて驚いたがダメだなんて言えない。


私はゆっくり頷いた。


その夜はバーで3人で食事をした。


里山先輩はいつも笑顔で優しい先輩だ。


先輩のこと嫌いじゃないけど2人の関係が気にならない訳がなかった。



先輩の涙にはどんな理由があるんだろう。

私が今日いなかったらこの2人はどうなってたんだろう。


そんなことばかりが頭に浮かぶ。


今この状況で先輩にとっては私は邪魔者でしかないはず。


「食事の片付けは私がやるので永田さん、先輩と話してきても大丈夫ですよ。」


まるでその言葉を待っていたかのように2人は別室へ移動した。


永田さんがみんなに頼られていることも知ってる。

誰よりも永田さんのこと信用できる。


だからこその決断だった。


30分程で永田さんは1人部屋から出てきたが私にはとてつもなく長い時間に感じた。


「友ちゃんごめんね。ちゃんと説明するから。」


と私の手を取り寝室へと歩き出した。



部屋へ入るなりいきなりキスされた。



「愛してるよ。不安にさせてばっかりでごめんね。」



嬉しかったが、私は早く先輩との事を聞きたかった。


「永田さんと先輩ってどういう…」


何て切り出すのが正解か分からず言葉に詰まってしまった。



永田さんはゆっくり話し始めた。


「俺の親友が医者でね。3年程前に俺の料亭で食事会があったんだ。まー医者と看護師の合コンなんだけど。
そこに山里もいて、俺の親友に一目惚れしたんだ。

でも親友には忘れられない人がいてね。そのこともあってみんなで計画した合コンだった。
その忘れられない人ってのがこの前、友ちゃんも会ったイトコの萌なんだ。」



私は黙って永田さんの話を聞いた。



「萌は俺の弟が大好きでね。従兄弟だから結婚とかは無いのは分かってるんだけど、死んでからもずっと引きずってる。親友はそれでも萌が好きらしい。

今日、山里ははっきりフラれてしまったんだ。以前から相談は受けてたけど、聞くことしか出来ないからね。」


なんか複雑だな。



「先輩はよく泊まりに来るんですか?」



私は何も無いとは分かってても気になった。



「初めてだよ。」



不安そうな私に気付いた永田さんは、私の肩に手を回し言った。


「大丈夫だよ。友ちゃんがいない時は誰も泊めたりしないから。」


私は信じようと思った。



寝室のデスクの上には私の写真や、2人で撮った写真が飾られてあった。


私はそれを見ながら2人の思い出をもっと増やしたいと心から思った。

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