毒親

Mira

初めての居酒屋

結局、永田さんにリードされながらチェーン店が立ち並ぶ飲み屋街のとある居酒屋に立ち寄った。

カウンター席に座るなり永田さんは頬杖をつきながら私の顔を覗き込み言った。

「その方がいいよ」


「え?あ、こんな格好でなんかすみません。」

私はカウンターの下に潜り込みたい気分だった。


「今日は急にごめんね。オレさ実は一目惚れしちゃったんだよね。」



「か、からかわんちょって下さい!」


あ、また方言出た!

私は慌てて口を両手で抑えた。


永田さんは声を出して笑った。


「あはは、やっぱり可愛い。この前はかなり無理してたでしょう?色んな人に話しかけて危ない子だと思った。
ほっとけないな、て思った。」


「…」



この人にはバレてた。

恥ずかし過ぎる。


私は目の前のウーロン茶を一気に飲み干した。


永田さんは私のひとつひとつの行動に可愛い可愛いと笑った。


この人といると調子狂う。


イケメンだし、落ち着かない。


ずっとドキドキしっぱなし。


無理だ心臓壊れる。


苦しい…


私はトレーナーの首元をぎゅっと掴んだまま何も話せない。


そんな私に永田さんはいきなり言った。


「付き合ってくれる?マジで好き。」


先輩の話では永田さんは私よりも10コも年上。


話だってきっと合わない。


過去を知ったら、母親のことを知ったらきっと嫌われる。


嫌われるくらいなら付き合わない方がいい。


私は座ったまま回転椅子を永田さんの正面に向けて回した。

「ごめんなさい」


深々と頭を下げた。


永田さんはそんな私の頭を優しく撫でた。


「直ぐに返事しなくていいよ。絶対振り向かせみせるから。」


「…」


何も言えない。


「また会いたい。毎日会いたい。」


「私には永田さんは勿体ないです。私、全然可愛くないし。ほんとは…」


私は途中で言葉を飲み込んだ。


「言いたくない過去なんて誰にだってあるよ。でもオレは今、目の前にいる友ちゃんが好きなんだ。」


永田さんの前で元気を演じれない。


過去の暗い自分だ。


母親の言いなりだった消極的な自分だ。


そんな私が好きだなんて…


きっとこの人の口説き文句だ。


誰にだって言えるんだよ。きっと。



こんな私を好きだなんて言う人がいるわけない。


私は次は無いな、と思い永田さんに見送られながら病院の裏口の扉をそっと閉めた。

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