毒親

Mira

新しい出会い

独り立ちから半月程経ち、
晴れて看護学生となった私にはこの先に期待しか無かった。

正式に授業が始まる前には医師会の立食パーティーが開かれた。

200人程の看護学生と医師や病院関係者も招待される。

あの頃の自分からは考えられない程自由に着飾り初めての化粧もした。

もう母親からの服装や髪型の制限はない。


開放感から私は顔が筋肉痛になる程笑い、初めて会う人にも積極的に話しかけることも出来た。

正直、自分でも驚く程だった。


ビンゴ大会で10位以内に入り名古屋では良く当たるという有名な占い師に占ってもらえることになった。


ドキドキしながら占いの館のカーテンを開け薄暗い部屋の中に入った。


頭の被り物で占い師の顔はほとんど見えないが、ノスタルジックな雰囲気だった。


そのせいか、私は昔の私に戻ったかのように静かに黙り込み椅子に座ったまま動けなくなってしまった。

占い師はまず私の手相を見るなり

「あなたは外見は派手でも本当はとても古風な人ね。」

と言った。


いくら着飾っても占い師の目は誤魔化せないみたいだ。


まるで心を見透かされているようだった。

「これからあなたには沢山の出会いや別れが訪れます。あなたはとても異性にも同性にも愛されます。ただあなたはあなたのままでいた方がいいわよ」

これから変わろうとしている私には混乱させられる言葉だった。

こんな占いなら見てもらわなければ良かった。


もう忘れよう。


私は変わると決めたのだから。


そう決めたのに何故かあの占い師の言葉が頭の中をぐるぐると回って離れなかった。

そんなある日、病院の先輩に呼び出された。


「牛島さん、立食パーティーで会った永田さんて覚えてる?」


正直覚えてなかった。

それが男性なのか女性なのかも。


私が首を傾げていると、

「今夜、あなたに会いたいんですって。」

先輩の言葉があまりに唐突だったので、

「その方は男性ですか、女性ですか?どういう方ですか?」

と沢山の質問をぶつけてしまった。

先輩は吹き出して言った。

「あなた自分から話しかけておいて覚えてないの?名前も聞かれた、て永田さん言ってたわよ。とても元気で笑顔の可愛い子でまた逢いたいて思っちゃったらしいよ。」


私はそんな風に褒められることに慣れていなかったので、その先輩の言葉で全身が火照るのが分かるくらい動揺した。


私は何も答えられなかった。


「永田さんめちゃくちゃモテるんだけど、自分から誘うなんてこと滅多に無いからきっと本気だよ。」


「…でもはっきり覚えてない人と会うのはちょっと…怖いていうか…ひとりではちょっと」

私の優柔不断な態度に先輩の顔がちょっと強張った気がした。

その時、後ろから


「私、一緒に行ってあげよっか?」


最後まで打ち解けれてない同期の真琴だった。


何となく苦手でまともにまだ話したこともない。


「なんか面白ろそうじゃん。出会いや誘いは積極的に行かなきゃ」


この子、こんなに喋るんだ。


驚いた私は無言で真琴の顔を見つめた。

「んーもう!先輩、この子行きます!私が責任持って連れて行きますと永田さんて方に伝えて下さい!」

「ちょっと!」

あまりの強引さに私は真琴の腕を掴んだ。

「いいから」

真琴は小声で言った。


その夜、金山の駅で待ち合わせる約束で永田さんという男性に逢いに行くことになった。

私は乗り気になれなくてワザと真っ黒無地のトレーナーにスキニージーンズという何ともやる気のない格好で真琴に連れられ、待ち合わせ場所に向かった。


「顔も覚えて無いし、どうやって見つけるの?」

私はやけに張り切っている真琴に少し膨れた顔で言った。

真琴はにやけて一枚の写真をカバンから出した。

「ジャーン!先輩に貰っちゃった。めちゃくちゃイケメン!いいな、友だけずるいわ。」

確かにイケメン。

「あー逆に緊張するとん!やっぱ無理やけん」

真琴が大声で笑った。

「友、最高!緊張しすぎ!九州の言葉になってる」

お腹を押さえて笑いが止まらない様子だ。

「ちょっと笑いすぎ」


「ごめん、ごめん、でも可愛い!」


まだ真琴は笑ってる。


そんな会話をしてるうちに金山駅の北口に着いてしまった。


ふたりでしばらく辺りをウロウロしてるとスーツ姿のそれらしき人が立っていた。

私は直ぐにその人だと分かったが自分のラフな姿に後悔した。

「向こうスーツだよ。私、この格好だしちょっとヤバいよ。」


「大丈夫だよ!制服よりはマシだよ。少なくとも援交だとは思われないから」

とまた真琴は他人事だと思って笑ってる。


「じゃ、私帰るから!頑張ってね!」

と私の背中を叩いて真琴は走って行った。


えー!


どうしよう。

やっぱり無理。


私は、永田さんらしき人に気付かれないように帰ろうと背を向けて歩き出した。


その時、肩をポンと叩かれて振り向くと


さっきのスーツの男性が蕩けるような素敵な笑顔で

「牛島友ちゃんだよね?」

これはまた蕩けるような素敵な声で呼び止められた。

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