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東方疑心録

にんじん

自制

フランはずっと見ていた。剣に助けられその場に座りこんだまま、ずっと。
その剣の怒りは凄まじいものだった。普段の剣からは考えられないような殺気。吸血鬼であるフランでさえ臆してしまうほどの殺気。日頃の剣を見ているせいなのかは分からないが激昂している剣の様子はまるで、

「(まるで…鬼みたい…)」

フランの目には剣はそう写っていた。
しかし、剣がアーデルに向かい腕を振り上げた瞬間、フランは思い出した。

「(まずい!!あのままじゃ、殺しちゃう!!)」

剣の能力を実際に見たフランだからこそわかる。あのままだと確実にアーデルは死ぬだろう。
それだけなら今ほどフランは焦っていないだろう。フランが本当に焦っているのは剣が人を殺した、という事実だった。
フラン自身、これまでに人を殺したかと聞かれたら首を横には振れない。だけども、剣には人を、誰かを殺して欲しくなかった。
だから、

「剣!ダメ!!」

意図したわけじゃない。ただ気がつけば口からその言葉が飛び出ていた。
その声が届いたのかは分からない。フランがそう叫ぶのと同時に剣達は砂ぼこりに隠れて見えなくなってしまった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「う………あ……」

そうやって力なく呻くアーデルの鼻先には剣が突き立てたであろう木刀が地面に突き刺さっていた。
そしてアーデルは気絶したのだろうか、そのまま横に倒れてしまう。

「はぁ…はぁ……」

剣は木刀を支えに立っていた。
先程まで剣はアーデルを本気で殺す気だった。あまりの怒りに視界が赤く染まり、こいつを殺すことしか頭になかった。
それならなぜ殺していないのか。途中で気が変わった、なんて精神状態でなかったのは本人がよく理解している。
その瞬間、声が聞こえた。悲しみと憂いをはらんだ、それでいてどこか悲痛な声が。それを聞いた瞬間、一瞬ではあるが剣の意識は引き戻された。それだからか、木刀の軌道がずれ、アーデルの目の前に突き立てる形になったのだった。

「………」

剣は自分の手を見る。木刀を握っていたこの手を。こんなにも誰かを殺そうと本気で思ったのは初めてだった。
剣は自分が怖かった、なんだか本当の自分じゃない気がしたから。

「剣!!!」

「………!」

そんな剣に声が掛けられる。先程の悲痛な声が。剣が顔をあげると、そこには心配そうな表情のフランがいた。

「大丈夫!?」

すぐにフランは剣に駆け寄り心配の言葉を掛ける。剣は内心穏やかではなかったが、なんとかそれを悟られまいと、

「大丈夫さ…」

なんとか笑顔を作ろうとするがどうしても疲れが滲み出てしまう。
そうやって答え、剣が顔を上げると、その目に映ったのは涙を流したフランだった。

「!?……どうして泣いてるの?まさか!!こいつらに何かされて!?」

「グスッ…違うの、そうじゃなくて剣が…」

「僕?」

泣く理由が剣だろうとは考えてなかったのか剣は目を丸くする。

「剣が…なんだか剣じゃなくなっちゃったみたいで…、それに剣が来てくれたから…」

「なんだ…そんなことか」

剣はふっと笑い、未だに泣いているフランの頭に手を置くと少し撫でながら、

「当たり前だろ?今日は1日フランの『お兄ちゃん』なんだろ?だったら、兄が妹を助けるのは普通だろ?」

そうやって少し冗談めかして言うとフランは少しだけ笑い、また涙を流すと、

「剣~~~!!!」

「!!!」

剣に泣きながら抱きついてきた。それに驚きながらも剣は黙ってフランの頭を撫でていた。











「落ち着いたか?」

「……うん…ありがと」

暫くするとひとしきり泣いたのかフランは剣から離れ顔を赤くしていた。恐らく泣きじゃくったのが恥ずかしかったのだろう。

「そうか。それじゃあ…」

剣はそれまでとは一転、冷たい目をアーデル達に向けた。まだ三人とも気絶している。ノイレに関しては一応死なないように最低限の止血だけしてある。

「それじゃ、フラン。ロープを探してきてくれないか?」

「ロープ?なんに使うの?」

「なにってそりゃあ勿論………」





「聞き込みさ」

  


そうやって表情では笑っているが目だけは冷たく凍えていた。

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