僕が恋したのはセミでした?

ノベルバユーザー173668

 寮に帰り、僕は、とりあえず寝ることにした。しかし、セミちゃんのことが気になって眠れない。今何時か気になり、腕時計を見る。そのとき、
「お兄ちゃんと一緒に公園で遊びたかった…」
と声が聞こえてきた。今まで頑張って。聞こえないようにしてきたのに、久しぶりに聞いてしまった。忘れようと頑張ってきたのに、弟との記憶が蘇ってくる。
  僕には一人の弟がいた。弟は生まれつきの病弱で長く生きられないと言われ、いつも病院に入院していた。弟は兄の僕を慕ってくれた。僕は、小学校から帰ると、弟の病室に寄って、学校であったことや、日常で起こったことを話した。弟はその話を聞いてとても喜んでいた。しかし、僕が中学の時、弟の容態が悪くなり、もうながくは生きられないとと診断された。でも僕は、信じたくなく、絶対治ると思っていた。そんなある日、弟が、僕に、
「これ、お兄ちゃんにあげるよ。お兄ちゃん時間にルーズだから、役に立つと思うよ。」
と言って、3000円くらいの腕時計をくれた。そして、弟は僕に、
「もう。僕は、退院したい。そして、お兄ちゃん一緒に公園で遊ぼうよ。」
と言った。弟の病室からは、公園が見えて、いつも羨ましそうに眺めていた。そして、
「僕が退院したら、一緒に公園で遊ぼうね。」
と言っていた。僕は、
「もちろん。遊ぼうな!」
と言っていた。だから、弟が、公園で遊びたかったのはとても分かっていた。しかし、病弱の弟が公園で遊べば恐らくより重い病気にかかってしまうだろう。僕は、
「それは、できない。兄として弟の命を粗末にはできない。」
と言った。すると、弟はすこし寂しそうな顔をして、
「そうだよね。お兄ちゃん。僕はがんばるよ。お兄ちゃんと一緒に公園で遊べるように。」
 それから、3日後弟は息を引き取った。僕は、まだもう少し生きられると医師に聞かされていた。僕は、そのとき、命のもろさと儚さを知った。弟のベッドの下には遺書があった。まるで、もう自分の命があと少しということを知っていたかのように…僕宛の遺書にはこう書いてあった。
「お兄ちゃんへ、いつも入院している僕のために、お見舞いに来てくれてありがとう。お兄ちゃんの学校や病院の外の世界の話をしてくれて、とても楽しくて、退屈しなかったよ。まだまだ、言いたいことがあるけど書ききれないからこれぐらいにしとくよ。そして、最後に、お兄ちゃんと一緒に公園で遊ぶ約束を破っちゃってごめんね。僕は、多分もう少ししたら死んじゃうんだけど、空からお兄ちゃんを見ています。今までありがとう。」
と書いてあった。文字が震えていることから、筋肉がついていない弟が、精一杯書いたことが伝わってきた。僕はその遺書を読んで自分を殴り付けた。僕は、もう動かない弟の前で、
「さあ、一緒に公園に行こう!」
と言った。しかし、もちろん返事はない。僕は、悔しかった。誰よりも弟を愛しているつもりだったのに約束を破ってしまった。もし、タイムマシンがあるらば、僕は、それに、乗って3日前に戻って弟のお願いを承諾しただろう。しかし、そんなことができるはずではない。僕は、とてつもない後悔に襲われた。あのとき、弟と公園に行っておけば…。弟は幸せに死ねただろう…。
 時計をみると、もう昼の12時だった。どうやら、悪い夢を見ていたらしい。僕は、答えを決めた。僕は、急いで病院にかけはじめた。

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