僕が恋したのはセミでした?

ノベルバユーザー173668

謎の少女

 僕は都内の総合病院に勤める新人カウンセラー。僕のカウンセリングの相手は様々な病に侵された患者さんだ。僕は小さいときから、カウンセラーに憧れていて夢を追いかけて上京してきた。やっと夢が叶ったのに僕はもうやめようと思っていた。それは、僕にはこの仕事はできないと思ったからだ。僕は内気で人と話すのが苦手からだ。そもそも、そんな僕にはカウンセラーなんて向いてないのも分かっている。それに、いくら一生懸命相談に乗っても患者さんたちは浮かない顔をしている。そして、3日前僕が担当していた、患者さんの一人が自殺してしまった。遺書には、
「もう、この世にいるのが辛くなったので、私は死にます。カウンセラーさん今までありがとう。」
と僕宛の物もあった。僕はそのとき、痛感した。僕の無力さと、それに、いろいろ考えてしまった。あの患者さんは僕以外の人に相談していれば死ななかったのだろう。他の人はこんな僕に、優しい言葉を掛けてくれたが、それがかえって辛かった。僕が、みんなの足を引っ張っている気がしたからだ。そして、僕は明日、この仕事を辞め、故郷に帰ることにした。その方がみんなのためになるだろう。
「これが、最後の仕事か…」
とふと、僕は呟いた。この病院は職員全員で夜異常行動を起こす患者がいないか、当番制で夜のパトロールを行っている。僕は人通り病室を見て回り、最後に屋上にいった。屋上にに続く階段を上がり、扉を開けると、
「ミンミンミンミン…」
とセミの鳴き声が聞こえてきた。僕はもう夏か、早いなと思いながら屋上のパトロールを始めた。すると、そこに一人の少女がいた。僕は、
「君、そこで何をしているの?夜間の外出は禁止だよ。」
と言った。僕は内心どきどきしていた。この少女が、自殺を考えているかもしれない。と思ったからだ。よく、屋上は自殺場所になってしまう傾向もあるらしいし…そんな僕を見て、少女が、
「すいません。セミを見ていました。」
と言った。僕はそんな少女を不思議そうに見る。すると、彼女は笑顔でいった。
「私、セミになりたいんです。」

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