いつかこの告白があなたに届きますように。

赤宮 明日花

6.果実

小太刀のバカ。
小太刀のバカ。
小太刀のバカ。
小太刀のバカ。
小太刀のバカ。
私の脳内は一瞬でその言葉に埋め尽くされた。
「宮野はえっーと、散歩?」
「うん。」
跨っていた自転車から下りると自転車を押して近づいてくると、足元に寄っていってしまった小太刀を撫で始めた。
「あっ、毛が付くからあんまり撫でないほうが…。制服に毛が…。ごっ、ごめんなさい。」
「大丈夫だよ。俺も柴犬飼ってるから柴犬が他の犬よりも毛が抜けるの知ってるし。」
と、言うとまた尻尾を高速で振りながらナルシストの足元にべったりくっついてしまった小太刀を撫でていた。
「まだ散歩するの?」
「えっと、うん。まだもう少しする予定です。」
「良かったらこの先行くと小さな公園があるからさ、行かない?」
「うん。」
…うん???
何で私、うんとか言ってんの!
反射的に言っちゃったんだけど。
私バカでしょ。
小太刀よりバカでしょ!!!
何やってるんだか…。
だけど、小太刀がこんなに人に懐くことはまずなかった。
父や祖母ですら同じ家に住んでいるのに近づけば飛びつかれ噛まれていた。
その2人以外には噛むことはない小太刀だった。
小太刀に2人以外が触るのは大丈夫だったが、べったりくっついたりする事はなかった。
だから、足にべったりくっついている小太刀を見て驚いてしまった。
この行為は私にしか今までしなかったのに…それも初対面の人にするなんて…。
まぁー、このナルシスト悪い人ではないのかな?
何て考えているとナルシストに案内されて行ったのは本当に小さな公園に付いた。
舘野公園の10分の1も無い広さだった。
鉄棒と砂場とベンチがあるだけの小さな家が一軒ほど建ちそうな面積の公園だった。
私達はベンチに座ると問題が発覚した。
話す事がない!
ナルシストの事、何にも分からないし尚かつそっちが誘っといて歩いている最中も無口すぎる!!
いくら人と話すのが苦手な私でも何も話さないのはもっと苦手だった。
「えっとー…。しっ、進路ってもう決めてる?」
「うん。12月に調理師の専門学校を受験する予定。」
「そうなんだ。もう決めてるなんて凄いね。」
「中学の頃からずっとなりたかったから。」
「そうだったんだ。」
「宮野は?進路とか決めてるの?」
「えっ、私?それは…まだ決まってないかな。あ、部活とかは?何か入ってたりするの?」
「野球部だよ。」
「そっか。」
私達は慣れない会話を気づいたら2時間も続けていた事に気づくと家に帰ることを決めた。

家の前に着いた頃には空がオレンジ色に染まっていた。
家まで送ってくれたナルシストにお礼を言って、別れると小太刀を庭にある小屋に繋ぎ家の中へと入った。

その夜、あのナルシストが別れ際に連絡先を交換しようと言ってきた事を思い出した。
手元にあったスマホを開くと確かにナルシストの連絡先があった。
「本当に交換しちゃったんだ。人と関わらないってあの時き決めてたのに…。」
ナルシストは連絡先の名前の所にだいきと平仮名で書かれていた。
「…だいきって言うんだ。あのナルシスト。また、会えるかな…。」

見た目は誰が見ても同じ果実。
だけど、他の人にとっては甘い果実。
そして私にとっては毒の果実。
そんな果実を私はこの時に一口食べてしまっていたのだと思う。
2つの果実は一口食べればもう一口欲してしまう。
全て食した時、毒の果実は私に何を齎すのか。
この時の私は知る由もなかった。

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