いつかこの告白があなたに届きますように。

赤宮 明日花

5.小太刀

昨日は最悪な日だった。
あんなナルシスト二度と会いたくない。
何て事を考えていて、ふと壁にかけてある時計を見ると13時を針が指していた。
さっき見た時は8時だった。
このままでは駄目だと思った私は庭で飼っている犬の散歩へ出かける事にした。
柴犬の小太刀こだちは母が出ていく少し前、中学生にあがる前に出会った犬だった。
あの日、母は朝に出かけようと私に言ってきた。
もう何年も出かけようとなんて言われていなかった私は驚いたのを覚えている。
そんな中、出かけたのは今通っている大学病院のある大きな駅にあるペットショップだった。
私は犬が、生き物が大嫌いだった。
だから何の嫌がらせかと思った。
早く出ようと言ってる私の言葉を無視し母は店員に話しかけて戻ってきたかと思うと、その手には子犬が抱かれていた。
母は無理やり私に子犬を渡してきた。
抱いた瞬間、涙が溢れ出してしまった。
何故だか分からなかった。
嫌でとかではなくあの時何か感じた事だけは分かった。
今も何であの時泣いてしまったのかは分からないけどそれが私達の出逢いだった。
そして、その数日後。
母は寝ていた私を起こすと離婚すると伝えると、出て行ってしまった。
小太刀は私にとって母からの最後のプレゼントで、そして家族とは仲が良くない私にとってはたった一人の家族だった。

家のすぐ前にある舘野たちの公園の外周はいつも小太刀との散歩コースだった。
1周15分程の外周を歩いていると時計台の広場にあるベンチが目についた。
あそこで昨日…。
「…嫌いじゃなかったかー。っ。」
小太刀が急に止まりよろけてしまったのだ。
よろけた私をよそに小太刀は目の前にあった10台ほど停めることのできる貸し駐車場の入り口に伏せをして動かなくなってしまった。
「小太刀?どうしたのこんな所で停まって。」
こんな事は初めてだった。
小太刀は私が親ばかということもあるのかもしれないが、とっても良い子だった。
今までここから動かないなんてされた事がなかった私は驚きでいっぱいだった。
リードを引っ張っても10kgもある小太刀を力の無い私には動かすことは出来なかった。
「本当に小太刀、どうしたの?具合でも悪いの?」
傍から見たら犬と話している変なの子に見えるだろと思いながらも訳が分からなくて混乱してた私はしゃがみ込み、話しかけてしまった。
そんな時、小太刀の耳がピンっとはると急に立ち上がり尻尾を高速で振り出した。
「本当にどうしたの、小太刀?」
小太刀の見ている方向を向くと、
「宮野?」
昨日のナルシストがそこには自転車に跨り立っていたのだった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品