いつかこの告白があなたに届きますように。

赤宮 明日花

4.制服と自転車

「久しぶり、宮野。」
自転車を押している制服を着た少年の顔はとても整っていて髪型も俳優の様に決めていた。
着ている制服は着崩し、灰色いパーカを羽織っていてその下に着ているYシャツが第二まで開いていて、ネックレスを付けているのが見えた。
この特徴は愛読している多くの少女漫画にでてくるナルシストという人種なのでは??
これが世に言うナルシストって人種?!
ナルシストに声かけられるなんて…。
怖すぎる。
少女漫画のヒロインは凄すぎる。
こんな人と話したり言い争えるなんて…。
通信高校に通っていて人と関わることの無い生活を送っている私には到底、無理な話だった。
…早く家に帰れば良かった。
と、後悔しているとある事に気がついた。
地元で尚かつ同い年くらいで私を知ってるって事は中学時代の同級生??
誰かは知らないけど、向こうは知っているようだしこのまま無視というのもいかないわけで…
私は勇気を振り絞り言ってみることにした。
「…っ、ひ、久しぶり。えっと、そのー元気だった
?」
「あーうん。元気だよ。宮野は?その、元気だった?」
「うっ、うん。それなりかな。」
やっぱり怖い。
昔の私、こんな怖い人と話してたとか凄すぎる…。
中学時代の記憶が消えたしまったのは卒業式の少し前の事だった。
その為、学校の先生達以外には言われていなかった。
記憶を失う前の私はあまり人とは接しないタイプだったらしく(先生達によると。)、忘れてしまっていたのは人との関係性や人の名前だけだったので記憶を失っても不自由することはなかった。
なのに…3年経った今こんな目に合うなんて想像もしていなかった。
流石に失ったばかりの頃はこういう事も起きるのではないかとそれなりに身構えていたが、一切そのような事は起きる事はなく中学を卒業した私だった。
なのに!
それなのに!
必死にバレないように振る舞う事が精一杯だった私はとにかく!一刻も早くここを抜け出して、家に帰ろうと決心した私は、
「そろそろ帰るね。ばいばい。」
と早口で言い座っていたベンチから立ち上がる。
はぁー。
疲れた。
難は去ったと思ったときだった。
「家まで送るよ。」
え………。
家まで送るよ?
嘘でしょ…。
「いや、あの、家すぐそこだから大丈夫で、えっと、あの、その、ほら!家!家、遠回りになっちゃうでしょ?私の家の方行くと…。だから大丈夫だよ。」
「遠回りってどのみち宮野の家の前通って帰るから遠回りも何もないよ。」
「あー…そっか。そーだよね。」
この人怖い。
怖すぎる。
私って誰とも話さない人じゃなかったの?
先生達の嘘つきー!!
中学時代の私ってどんな子だったのよー!!
という叫びを歩きながら心の中で叫んでいた。
「宮野ってさ、俺の事昔凄く嫌ってたよなぁ。」
そんなの知らないよ。
というか!
こんなナルシスト嫌う私、当たり前でしょ。
何て言えるはずもなく、
「そっ、そうだっけ?」
「そうだったよ。出会った頃なんて凄く嫌われてる印象しかなかったし。」
だろうよ。
今現在、名前すら分からないけどあなたの事嫌いだもん。
「そうだったんだ。」
なんて話している間に家の前に着きほっとする。
家が楽園に見える。
「あっ、その送ってくれてありがとうね。えっと、…さようなら。」
「あ、あのさ。」
家に入ろうと門を潜ったときだった。
「俺は…っ。俺は、あの時出会った5年前から宮野の事嫌いじゃなかったから。その、………それじゃあ。」
と、言い残すと自転車に跨がりペダルを思いっきり漕ぐと風のようにいなくなってしまった。
……嫌いじゃなかったから??
意味が分からない。
5年前からって、中学時代私はどれだけあの人を嫌っていたのだろか。
まぁー、二度と会うことはないだろうし今日の事は悪夢でも見たと思って忘れよう。
だが、どこか私の心の中でナルシスト(仮名)が『嫌いじゃなかったから。』と言ったのが気になって仕方がなかったのだった。

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