いつかこの告白があなたに届きますように。

赤宮 明日花

2.蕾

「っ…。」
目を覚ますと朝日がカーテンの隙間から差し込んできていた。
またいつもの夢。
少しずつ目が覚めていくのと同時に夢の内容を忘れていってしまう。
枕元に置いてあるスマホに手を伸ばし時刻を確認する。
06:17
「んーっ。」
思いっきり背伸びをしてベッドから出ると昨日の夜に机の上に用意した服へと着替えをする。
桜色のセーターにジーンズというシンプルな服装だった。
私が1歳の頃から飼っている柴犬の小太刀こだちの散歩へと行く為、支度を済ませると公園へと向かった。
3月下旬ともなると朝も温かいため7時頃外へ出ても寒さをあまり感じることはなかった。
少し前まではこの時間でも冬のコートが無くてはいけなかったが今では春のコートを羽織るだけで寒さをしのげる。
「もうすぐ高校3年生かー。」
公園の桜の膨らんだ桜の蕾を見て高校3年生になるのだという実感が湧いた。
桜の蕾を眺めているとふといつもの夢に出てくるあの人を思い出した。
「ねー小太刀。夢に出てくるあの人って誰なのかなぁ。本当にあったことないのかなぁ…」
暗くなった表情を見て心配してくれたのか小太郎は足元にくると私を見上げ、くぅーという小さな声を出し首を傾げていた。

私には中学時代の記憶が所々無かった。
医師によるとよほど精神的なダメージを負ってしまい体が私を守ろうとして記憶を失ってしまったのだと告げられた。
何度か思い出そうと色々試してみたが思い出す事はなく毎度思い出そうとする度に吐き気や目眩、酷い時には気絶までしてしまう為思い出すのは自然に思い出すのを待つ事になったのだった。
あれからもうすぐ3年。
私は毎晩夢に出てくるあのやりとりが気になって仕方がなかった。
いつも途中で終わってしまう夢。
いつか思い出したとする。
その時、記憶を失うほどの記憶を取り戻したとして、そしたらまた記憶を失ったりしてしまうのかと思うと恐怖でしかなかった。
沢山成っている桜の蕾のように私の記憶も今はまだ中にしまわれているべきだという気がした。
この時の私は近々自分の蕾が咲こうとしているということに知る由もなかった。

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