The Little Match Girl 闇の国のアリス【外伝】~孤独な少女の物語~
第二話[母の最期]
1861年8月28日。父が出兵してから約七年の月日が経った。
エリカは13歳の誕生日を迎え、今となっては昔の様な可愛らしいあどけなさは大概において無くなり、それに加え、お姉さんの様な気取った様相を見せる程でもあった。
然しながら今日(こんにち)に至っては、メルスケルクの煉瓦造りの摩天楼群を分厚い綿飴の様な雲が覆う程であり、この悪天候に関してはたれ(誰)もが頭を抱えてメランコリーに陥るものであった。
女手一つで娘を育ててきた母親にとっても、この天気を一目すると忽ち今までに積もり積もってきた倦怠感に襲われるものであり、彼女達にとっても、町民にとっても、決して良いムードの日とは思えなかった。
小鳥があちこちで清らかな声を発しながらあちらこちらのガス灯、軒先にとまる今日の日の事。
何やら外界からは金管楽器の奏者達の軽やかな音色が児玉の如く街の外壁という外壁に響き渡り、それと共に町民達の歓声が共鳴してはまた高ぶり、響き渡っていた。
「お母さん、何か外が騒がしいけど、何かのイベントかしら?」
「‥‥ほんと、真昼間から物凄い騒ぎね。ちょっと外でも覗いて来ましょうか」
そう言うと彼女の母親は、玄関のドアを開け、辺り一面を見渡した。
メルスケルクの中央通りを凱旋するかの如く馬車、歩兵、軍楽隊が国家を歌いながら行進している。
「兵隊さん‥‥。‥‥!お父さん‥‥!!」
すると母親は胸を高鳴らしながら家を飛び出し、中央通りを行進する兵隊の中から夫は何処か、何処(いずこ)にいるのか、と必死に目を凝らして探し回った。
しかし、そこに夫の姿は無く、ただただ街道のガス灯に括り付けられた『スピラ戦争休戦協定成立!!』と記されたフラッグがゆらゆらと棚引いてるだけであった。
何とも歯痒い気持ちに駆られながらも諦め、項垂れた様子で家に帰り、玄関のドアを開けようとしたその時であった。
??「待って下さい!」
母親がメランコリーな気分で振り返ると、そこには一人の細身の青年が立っていた。
ざっと言って、二十代前半と言ったところだろうか。
グレーの渋い軍服に身を包み、何やら手元にはホワイトカラーの小箱を持っている。
「‥‥どなたでしょうか」
母親が急性的な倦怠感に襲われながらも、小さく声を振り絞って聞くと‥‥
「どうも、アキレアさんの‥‥奥様ですよね?不躾ながら‥‥これ、アキレアさんの‥‥御遺骨です。申し訳ありません‥‥。あの時、貴女の御主人が私の事を庇ってくれなかったら今頃私は‥‥」
「‥‥そんな‥‥‥」
ショックの余り口を手で隠す母親。
その目からは怒りと屈辱の涙がポロポロと流れ落ちていた。
話を終えて屋内に入り玄関のドアを閉める母親。
未だに動揺が続き、その小箱を持つ手は曽てない程に震えている。
「お母さんどうしたの?」
エリカが心配して母親の元へ駆け寄る。
「あはは‥‥お母さんちょっと今、頭に血が上っちゃったみたい‥‥。買い物でもして気晴らしして来るわね」
そう言うと、母親は何とも憂鬱そうな暗い表情を浮かべながらエリカの顔を一瞥することもなく一目散に家を後にした。
「ちょっとお母さーん!バスケット(籠)忘れてるよー!」
しかし彼女の母親はそれを聞き入れる事なくそそくさとメルスケルクの行き交う人混みの中に消えていってしまった。
その翌日の事である。
街外れの海岸で恐らく崖から飛び降りたであろう全身がバラバラになった女性の変死体が発見された。
しかし、エリカはその事実を知らなかった。
……………………………………………………………………
【メモ】
・1861年8月28日スピラ戦争休戦協定成立
・父親1861年8月27日戦死
・母親1861年8月28日崖からの転落死(自殺)
エリカは13歳の誕生日を迎え、今となっては昔の様な可愛らしいあどけなさは大概において無くなり、それに加え、お姉さんの様な気取った様相を見せる程でもあった。
然しながら今日(こんにち)に至っては、メルスケルクの煉瓦造りの摩天楼群を分厚い綿飴の様な雲が覆う程であり、この悪天候に関してはたれ(誰)もが頭を抱えてメランコリーに陥るものであった。
女手一つで娘を育ててきた母親にとっても、この天気を一目すると忽ち今までに積もり積もってきた倦怠感に襲われるものであり、彼女達にとっても、町民にとっても、決して良いムードの日とは思えなかった。
小鳥があちこちで清らかな声を発しながらあちらこちらのガス灯、軒先にとまる今日の日の事。
何やら外界からは金管楽器の奏者達の軽やかな音色が児玉の如く街の外壁という外壁に響き渡り、それと共に町民達の歓声が共鳴してはまた高ぶり、響き渡っていた。
「お母さん、何か外が騒がしいけど、何かのイベントかしら?」
「‥‥ほんと、真昼間から物凄い騒ぎね。ちょっと外でも覗いて来ましょうか」
そう言うと彼女の母親は、玄関のドアを開け、辺り一面を見渡した。
メルスケルクの中央通りを凱旋するかの如く馬車、歩兵、軍楽隊が国家を歌いながら行進している。
「兵隊さん‥‥。‥‥!お父さん‥‥!!」
すると母親は胸を高鳴らしながら家を飛び出し、中央通りを行進する兵隊の中から夫は何処か、何処(いずこ)にいるのか、と必死に目を凝らして探し回った。
しかし、そこに夫の姿は無く、ただただ街道のガス灯に括り付けられた『スピラ戦争休戦協定成立!!』と記されたフラッグがゆらゆらと棚引いてるだけであった。
何とも歯痒い気持ちに駆られながらも諦め、項垂れた様子で家に帰り、玄関のドアを開けようとしたその時であった。
??「待って下さい!」
母親がメランコリーな気分で振り返ると、そこには一人の細身の青年が立っていた。
ざっと言って、二十代前半と言ったところだろうか。
グレーの渋い軍服に身を包み、何やら手元にはホワイトカラーの小箱を持っている。
「‥‥どなたでしょうか」
母親が急性的な倦怠感に襲われながらも、小さく声を振り絞って聞くと‥‥
「どうも、アキレアさんの‥‥奥様ですよね?不躾ながら‥‥これ、アキレアさんの‥‥御遺骨です。申し訳ありません‥‥。あの時、貴女の御主人が私の事を庇ってくれなかったら今頃私は‥‥」
「‥‥そんな‥‥‥」
ショックの余り口を手で隠す母親。
その目からは怒りと屈辱の涙がポロポロと流れ落ちていた。
話を終えて屋内に入り玄関のドアを閉める母親。
未だに動揺が続き、その小箱を持つ手は曽てない程に震えている。
「お母さんどうしたの?」
エリカが心配して母親の元へ駆け寄る。
「あはは‥‥お母さんちょっと今、頭に血が上っちゃったみたい‥‥。買い物でもして気晴らしして来るわね」
そう言うと、母親は何とも憂鬱そうな暗い表情を浮かべながらエリカの顔を一瞥することもなく一目散に家を後にした。
「ちょっとお母さーん!バスケット(籠)忘れてるよー!」
しかし彼女の母親はそれを聞き入れる事なくそそくさとメルスケルクの行き交う人混みの中に消えていってしまった。
その翌日の事である。
街外れの海岸で恐らく崖から飛び降りたであろう全身がバラバラになった女性の変死体が発見された。
しかし、エリカはその事実を知らなかった。
……………………………………………………………………
【メモ】
・1861年8月28日スピラ戦争休戦協定成立
・父親1861年8月27日戦死
・母親1861年8月28日崖からの転落死(自殺)
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