罪に追われた少年は異世界で英雄となる

深谷シロ

『誕生』

ドクンドクン。鼓動が鳴り始める。それは唐突として。


鼓動は次第に大きくなり、遂には世界にまで響き渡る。そして、鼓動をするモノは形を作り、姿を現す。モノは人となり、魔族となり、魔王となった。


魔王は自身の力を知っていた。魔王は次々と魔族を生み出し、街を作っていった。そこは人達が忌避していた土地。〈腐敗都市〉。〈腐敗都市〉は魔族の住む都市へと変わった。


予言者による予言〈誕生の流れ星〉は終わった。英雄は誕生し、人々は歓喜に震えた。しかし、英雄譚はここでは終わらない。英雄は不幸を呼び寄せ対峙することとなる。


全てを悟った魔王は動き出すべく、全魔族に号令を掛けた。魔族達は編隊を組み、人族を襲う準備をした。そして魔王は咆哮する。


「グウォォアア!!!」






◇サムルト暦1000年◇


何だ、この感じ……?理人は早くも魔王の誕生を感じ取っていた。それはシックスセンスとでも呼ぶのだろうか。それとも英雄の感か?


「英雄様。どうされましたか?」


「……世界が震えている。」


理人は異世界サムルトの精霊達に愛されていた。精霊達は理人に危険を伝えた。しきりに危ないと言い続ける。理人は精霊達を宥めた。そして立ち上がる。


「すみません、女王様。少し旅に出ます。」


理人は旅を始めた。旅の支度は女王様の臣下に手伝ってもらった。これで大丈夫だ。


「ありがとうございます。」


「いえ、私達も英雄様の役に立てるのならば光栄な限りです。」


そうですか、と微笑み返した理人。そして机に置かれた沢山の食材や道具を全てしまうことにする。


「頼むよ。」


その瞬間。全てが消えた。実際にはそうではない。アイテムボックスへと収納されたのだ。これは理人のスキルによるものだ。理人のスキルに限界は無い。


理人も魔王と同じように自身の力を把握していた。魔王は魔王としての務めを果たす為に。理人は英雄としての務めを果たす為に。刃を交えることとなる。


理人は統一国家の〈中央都市アストランテ〉を去った。見送りにはほぼ全員の民が来てくれた。苦笑してしまう。期待に応えるためにも理人は中央都市から〈誕生の震源地〉へと歩いていった。


英雄の誕生とともに魔王が誕生する。これは必然であった。だからこそ理人は魔王の誕生と気付いていた。そしてその原因が腐敗都市にあることも。


理人が願えば一瞬で腐敗都市へと行けるが、様子見をしたい。そして旅をしたかったのだ。僕は今、自由がこの手にある。その自由をそう簡単に失いたくないのだ。


ザクザクと砂利の音がする。遠くで潮の香りがする。風が肌に触れる。この世界は秋が訪れている。英雄の誕生は春。そして魔王の誕生は秋なのだ。この世界にも四季があり、僕は春、夏とこの世界で暮らした。だから中央都市にも愛着があったが、諦めも肝心だろう。


理人は思い付いたように願う。


「ステータスを表示してくれないかな。」


願いに応えるように目の前に画面が表示される。情報を知りたい時と同じだ。ステータスは情報だからなのだろう。


『ステータスを表示します。
名前:鏡山かがみやま理人りと
性別:男
年齢:17歳
称号:英雄ヘルト
加護:世界サムルトの加護
スキル:英雄は願うヘルトヴンシュ
以上です。』


そうなんだ。年齢は変わらないんだね。称号は〈英雄〉か……。加護もあるみたいだし。そして願えば叶うこのスキルは〈英雄は願うヘルトヴンシュ〉というのか。特にレベル制度みたいなものは無いようだ。いや、それが本来の姿なんだろうけど。スキルや加護があるだけおかしいな。


季節は冬へと傾く。風も肌寒くなってくる。理人は中央都市から腐敗都市へと歩いていた。ゆっくりとペースを上げず。ペースを下げず。一定のペースで歩いた。時に地を歩き、時に海を歩き、時に空を歩いた。


世界は英雄に味方した。そして魔王にも。


魔王は編隊を組み終わる。今日までに生み出された魔族は全てで数億にも昇る。そしてその全てが出陣する。さらには出陣中にも魔族は生み出されていくのだ。後に人々はこれを〈不死者の軍団〉と呼ぶ事になる。


敵の数が減っているように見えないのだ。まるで不死者のようだ。しかし英雄は一人。厳しい戦いのようにも見えた。だが、英雄は英雄であった。


異世界サムルトは真冬となった。理人が歩くのは雪の上になっていた。そして理人は魔王軍と対峙する。

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