噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

108 安土城にて

 二つの戦が同時に終結し、そのどちらも敗北を喫した織田軍。

 その本拠地たる安土城は今、ただひたすらに戦慄と悲壮感に囚われていた。

 たった一人を除いて。

「どうやら、儂の読み通りらしいな…」

 その男以外、誰も居なくなった幻の天守にポツリと一言零れ落ちた。

 声の主は無論、織田信長。

 戦慄故の、悲壮故の静寂が包む中、信長は独り言ちる。即ち、予想通り、だと。

 全ては計画の内であり、敗北すらも計算内。ただ己が目的を達成させるために彼は冷徹に、冷酷に命を下してきたのだ。

「あとは、殺戮者次第か」

 そして今回の最大の鍵である殺戮者。奴が信長の思惑に気付き、又は賛同し動いてくれるかどうか、全てはそれに掛かっていた。

「使いも出した。ヒントも与えた。
これで動かんかったら、ただの木偶の坊じゃな」

 冗談混じりに軽く笑う。だがその目は一切笑ってはいなかった。

「日本神話軍、世界調停機関そのどちらも、もう間も無くこの場に集結するであろう。
 そうなれば儂らの勝ちじゃて。否、そうなり得るしかない、じゃったな。
 まぁその後の世を見ることができぬのはちと辛いが」

 信長の未来予知スキルが告げている。もうお前はここで行き止まりだと。

 これ以上、進めない事を知っているからこそ全力が出せる、というものだ。

「残る我が五大将は、かんなぎ囃子夜はやしや、そしてはるかのみ。その内、遥は使いとして出しているため戦力外、頼れるのは二人と蘭丸だけか…」

 次に己の家臣達を再度思い返し、適材適所と言える位置に配置していく。

「日本神話の筆頭は、武神スサノオとその弟子。調停機関の方は、間違いなく《最強》。
 儂は少なくともこの3人は相手せにゃならん。
 なら、蘭丸達を誰と闘わせるか、だな」

 うーむ、と唸りながらも最終的には、自ずと決まってしまう。

「巫の武器、大剣・笹狩丸も考慮すると相性的には《最剣》あたりか。
 次に囃子夜、此奴は武器が鉄扇だったな。なかなか使い所に迷うが、広域殲滅力に関しては五大将の誰よりも強い。それを考えると雑魚相手に無双してもらおうかの」

 自身のスキルとも照らし合わせ、ざっくりと対応を決めていく信長だったが、流石に彼となると一旦止まる。

「最後に蘭丸か…」

 今まで色んなことがあったのだろう。この二度目の人生でも彼は信長にどこまでも付き従い、共に支え合って来たのではないのだろうか。

 そんな彼に信長は一体何と言うべきか、迷っていた。
 
「色々と世話になったからなぁ。最後には好きにさしてやりたい。だが…」

 だがそんな事を言えば、本当に蘭丸は喜ぶのか…今まで散々、説教されたのだ。我らの主人たれ、と。

 果たしてこの選択は正しいのか。それは誰にも分かる訳はないけれど、それでも気になってしまう。

 これまでを共にしてきた間柄だからこそ、答えは出ない。

「……」

 そして、時はあっという間に過ぎ、夕刻。

「失礼します!」
「なんだ?」

 襖越しに声が掛かってくる。それに即座に反応し、要件を伝えさせる。

「日本神話と調停機関の軍勢が見えてきました!」
「そうか…ついに来たか」

 信長は立ち上がり…

「いかが致しましょう?」
「無論、戦の準備じゃ」
「は!直ちに!」

 戦装束へと身を整えていく。

 今頃、先の命が下にまで伝わっている頃だろう。準備と言っても信長のように戦装束を着るわけではない。そんな事はとっくの昔に出来ている。気合いを入れろ、と言外に言ったのだ。

 これから始まる最終決戦に気後れしないために。

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