噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神
102 凸凹コンビ
「人の仕事を横取りしてんじゃねぇよ…勇者君」
「あんたらは……」
クレトの必殺の拳を止めた者、即ち間接的に天子の命を救った者は、肩を竦めながらさも面倒くさそうに、クレトの前に立ちはだかった。信頼できる相棒を連れて。
「《最低》と《最高》が……なんでここに?」
「おいおい、本気で言ってんのか?」
がっしりと拳を掴まれたまま疑問顔でそんな事を言うクレトに《最低》は呆れるほかない。隣をチラリと見ると《最高》は高らかに笑っていた。これもこれで呆れるほかない。
「はぁ…真人間は俺だけか……」
「「??」」
もう溜め息しか出ないようだが、戦場の真っ只中でこの余裕を醸し出す彼も十分おかしいだろう。まあ一々気にしていたらキリがないので、今は水に流す。
「まあいい。問題は、どうして俺の敵を倒そうとしちゃってるかだ」
「えっ? ……まさかその子って、敵の大将だったり?」
「………」
《最低》のジト目。無言の圧力。それらがクレトにのしかかっていく。みるみるうちにクレトの顔色が悪くなり、脂汗がだらだらと額から滲んでいた。
「…なんか…すんませんしたっ!」
即座に腕を引っ込め全力謝罪。これで《最低》の機嫌も直ったかと思いきや…
「事前の打ち合わせで、顔と名前、確認したよなぁ?
こいつは俺の獲物だから手ぇだすなって言ったよなぁ?」
天子を指差しながらクレトに訳を求めるヤクザ。もとい《最低》。
「はい!はい! それもうハッキリと仰っていました!」
「じゃあなんで攻撃してるのかなぁ?
さらにあろうことかトドメまで刺そうとしてる始末だしぃ?」
世界調停機関内で上司にしたくない人ランキング一位の方の表情がどんどん歪んでいく。般若ってこんな顔だったような…
「それは、その、ついカっとなって…」
「どこぞの殺人犯かよ、てめぇは」
「ホントーにすんませんした!」
チンピラが親分に土下座している構図がそこにはあった。
「相棒、そこまでにしてやれ。
コイツにもそれほどの事があったってことだろ?」
「そうなのか?」
「はい!! キーシュタインが!!」
横から《最高》が顔を出し口を挟むことで、《最低》はどうにか静まったようだ。《最高》に聴かれたクレトも顔を焦りで曇らせている。
「もういい。さっさと《最医》に診せてこい。
お前等の気持ちは俺がぶつけといてやるからよ」
「すんません。あとをお願いします!」
そう言ってキーシュタインを担いで急いで前線を離れていくクレトを見ながら《最高》は呟く。これから運命を受け入れる相棒に向けて。
「お前も、僕が担いで連れてってやるから、安心しろよ…」
「はっどうだか。ここぞって時に見捨てるのがお前だろ?」
「ハハハ、最後まで素直じゃないなぁ。
それに見捨てるのはお前の方だろうに…」
友を気遣っての言葉だったが、どうやら不要らしい。
「そんじゃ、ま、一仕事片付けてきますかね…」
「おうよ。雑魚の相手は僕に任せろ!」
―パンッ
二人のハイタッチの音が夜の戦場に虚しく、されど一際大きく木霊した。
《最高》が向き合うのは織田の軍勢、この場にいるだけでもその数およそ120名。
対して《最低》が向かい合うのは織田五大将・矢帝天子。トンファーを腕に携え、風になびくポニーテールがチャームポイントの可愛らしい少女だ。
「はぁ…いい歳した大人が天真爛漫な子に本気で挑みかかるとか、どれだけ最低なんだよ…まあ、本気でやらなきゃやられるんだから、仕方ないけど…」
我ながらクズ過ぎると自嘲する《最低》。しかしこれはもう命のやり取りだ。そこに手加減なんて必要ないと切って捨てる。
「何をゴチャゴチャ言っているの?
おじさんが次の相手なんでしょ?なら早く終わらせようよ~」
一方、天子はそんな雑念もなさげで、どこまでも遠くを見ている。そんな気がした。
「そうだな。おじさんとはちょっと心外だが…ちゃっちゃと終わらせますか、こんな胸クソ悪い仕事なんてよ」
「うん!」
大人びていると言っていいかはわからないが、とにかく今の《最低》は落ち着き払っていた。まるで、自分の死を受け入れているかのような風格だ。例え組織の為であってもそんな理不尽に彼は屈する筈はないというのに。
その所為か無邪気に返す天子がどこまでも子どもに見えてしまう。
「構えな、嬢ちゃん」
「うん……いくよ!」
地面に跡が残るほどの踏み込み。先程までのクレト達との戦闘とはまったく違った重く鋭い一撃が《最低》を襲うが、すんでのところで左に回避し、横から蹴りを入れる。
(入った!)
だがそれは錯覚。しかと《最低》の蹴りをトンファーで受け止めていた天子は、次を繰り出す。
「ていや!」
何度も紡がれている可愛らしい掛け声。
だが…
「ノアッ!!」
お約束通り、繰り出された技はえげつない。その声音に少し油断したらしい《最低》が見事に引っ掛かった。ボディブローとともに鳩尾にトンファーがめり込み、《最低》の肉体が軋みを挙げる。
「ぜぇ……ぜぇ……」
思わず食らった一撃に息を切らし、肩で呼吸する《最低》。そんな彼の姿を見つつ天子は傷一つ無いまま今もシャドーボクシングをしていた。
「嬢ちゃん、本当に少女か?」
「なっ!なんて失礼なっ!!私はこれでも17です~!」
《最低》が怪訝に思った最低な事を休憩がてらに聴くと、天子はプンすか怒り出して自分の年齢まで暴露し始めた。
「ははっなるほど、まさに全盛期ってとこだな。
どうりでパワフルな訳だ」
「重ね重ね失礼ですね!乙女にそんな事言ってたらモテませんよ~だ」
さらに《最低》の軽口は増していき、それに一々反応していく天子。
「うっせ、褒めてんだよ」
「そ、そうなんですか?実はおじさん照れ屋だったり?
素直じゃないなぁもう。女の子を褒めるときは、褒めちぎっちゃう位が丁度良いんですよ?」
褒められたのが余程嬉しかったのか、ポニーテールをルンルン揺らしながら、おじさんに何故かアドバイスしている。
「知るか。そういう嬢ちゃんは、馬鹿なんだな。
素直過ぎるのも考え物だ」
先のアドバイスを切って捨て、今度は罵倒する。
「私はバカじゃないです~バカって言った方がバカなんです~」
「ははっなら、馬鹿って三回も言ってる嬢ちゃんの方がよっぽどだな」
「おじさんだってバカってたくさん言ってるじゃん!」
「残念、俺は二回だけだ。それに今ので嬢ちゃん四回目だな」
「む~もうっ!!許さないし!止めてって言っても止めないし!
謝っても止めてあげないから!」
もはや子どもの口喧嘩レベルにまで達した二人の言い合いは、一旦ここで幕を閉じる。
(ははっ止めてもらう道理も義理もねぇ!)
「こんっのぉー!!」
突進してくる天子を軽く避け、その背に蹴りを放つ。
「んっ!……ぉっと!」
蹴りの方向と突進の方向が同じなため、大してダメージにはならないが、勢いを増され、かえってつんのめってしまう。
そしてその瞬間を狙ってもう一撃、蹴りをかます。
「っはあ!」
「ぁッ!」
か細い声とともに背に衝撃が走り、顔を苦痛に歪める。流石に背後からの一撃はトンファーでは受け止められないようだ。
「猪か?嬢ちゃんは」
「ぐぬ……う……」
またも軽い挑発を受けつつ、今度はその手に乗らないと決めて立ち上がる。その代わり、とっておきを出すことにしたようだ。
「はあっ!!」
気合い十分。ゆっくりと拳を構え、切り札の一枚目を切る。
「スキルー波動ー!」
その瞬間、微かに《最低》が笑った気がした。
「神秘『俺に優しい世界』!」
今日でこの小説も一年が経ちました。
この一年変わらず応援してくださった読者の皆様、誠にありがとうございます!
時間の流れって速いですね。私も4月からは社会人です。
その関係で少し投稿が遅れるかもしれませんが、ご了承ください。
それではこれからも応援の程、何卒よろしくお願いします!
「あんたらは……」
クレトの必殺の拳を止めた者、即ち間接的に天子の命を救った者は、肩を竦めながらさも面倒くさそうに、クレトの前に立ちはだかった。信頼できる相棒を連れて。
「《最低》と《最高》が……なんでここに?」
「おいおい、本気で言ってんのか?」
がっしりと拳を掴まれたまま疑問顔でそんな事を言うクレトに《最低》は呆れるほかない。隣をチラリと見ると《最高》は高らかに笑っていた。これもこれで呆れるほかない。
「はぁ…真人間は俺だけか……」
「「??」」
もう溜め息しか出ないようだが、戦場の真っ只中でこの余裕を醸し出す彼も十分おかしいだろう。まあ一々気にしていたらキリがないので、今は水に流す。
「まあいい。問題は、どうして俺の敵を倒そうとしちゃってるかだ」
「えっ? ……まさかその子って、敵の大将だったり?」
「………」
《最低》のジト目。無言の圧力。それらがクレトにのしかかっていく。みるみるうちにクレトの顔色が悪くなり、脂汗がだらだらと額から滲んでいた。
「…なんか…すんませんしたっ!」
即座に腕を引っ込め全力謝罪。これで《最低》の機嫌も直ったかと思いきや…
「事前の打ち合わせで、顔と名前、確認したよなぁ?
こいつは俺の獲物だから手ぇだすなって言ったよなぁ?」
天子を指差しながらクレトに訳を求めるヤクザ。もとい《最低》。
「はい!はい! それもうハッキリと仰っていました!」
「じゃあなんで攻撃してるのかなぁ?
さらにあろうことかトドメまで刺そうとしてる始末だしぃ?」
世界調停機関内で上司にしたくない人ランキング一位の方の表情がどんどん歪んでいく。般若ってこんな顔だったような…
「それは、その、ついカっとなって…」
「どこぞの殺人犯かよ、てめぇは」
「ホントーにすんませんした!」
チンピラが親分に土下座している構図がそこにはあった。
「相棒、そこまでにしてやれ。
コイツにもそれほどの事があったってことだろ?」
「そうなのか?」
「はい!! キーシュタインが!!」
横から《最高》が顔を出し口を挟むことで、《最低》はどうにか静まったようだ。《最高》に聴かれたクレトも顔を焦りで曇らせている。
「もういい。さっさと《最医》に診せてこい。
お前等の気持ちは俺がぶつけといてやるからよ」
「すんません。あとをお願いします!」
そう言ってキーシュタインを担いで急いで前線を離れていくクレトを見ながら《最高》は呟く。これから運命を受け入れる相棒に向けて。
「お前も、僕が担いで連れてってやるから、安心しろよ…」
「はっどうだか。ここぞって時に見捨てるのがお前だろ?」
「ハハハ、最後まで素直じゃないなぁ。
それに見捨てるのはお前の方だろうに…」
友を気遣っての言葉だったが、どうやら不要らしい。
「そんじゃ、ま、一仕事片付けてきますかね…」
「おうよ。雑魚の相手は僕に任せろ!」
―パンッ
二人のハイタッチの音が夜の戦場に虚しく、されど一際大きく木霊した。
《最高》が向き合うのは織田の軍勢、この場にいるだけでもその数およそ120名。
対して《最低》が向かい合うのは織田五大将・矢帝天子。トンファーを腕に携え、風になびくポニーテールがチャームポイントの可愛らしい少女だ。
「はぁ…いい歳した大人が天真爛漫な子に本気で挑みかかるとか、どれだけ最低なんだよ…まあ、本気でやらなきゃやられるんだから、仕方ないけど…」
我ながらクズ過ぎると自嘲する《最低》。しかしこれはもう命のやり取りだ。そこに手加減なんて必要ないと切って捨てる。
「何をゴチャゴチャ言っているの?
おじさんが次の相手なんでしょ?なら早く終わらせようよ~」
一方、天子はそんな雑念もなさげで、どこまでも遠くを見ている。そんな気がした。
「そうだな。おじさんとはちょっと心外だが…ちゃっちゃと終わらせますか、こんな胸クソ悪い仕事なんてよ」
「うん!」
大人びていると言っていいかはわからないが、とにかく今の《最低》は落ち着き払っていた。まるで、自分の死を受け入れているかのような風格だ。例え組織の為であってもそんな理不尽に彼は屈する筈はないというのに。
その所為か無邪気に返す天子がどこまでも子どもに見えてしまう。
「構えな、嬢ちゃん」
「うん……いくよ!」
地面に跡が残るほどの踏み込み。先程までのクレト達との戦闘とはまったく違った重く鋭い一撃が《最低》を襲うが、すんでのところで左に回避し、横から蹴りを入れる。
(入った!)
だがそれは錯覚。しかと《最低》の蹴りをトンファーで受け止めていた天子は、次を繰り出す。
「ていや!」
何度も紡がれている可愛らしい掛け声。
だが…
「ノアッ!!」
お約束通り、繰り出された技はえげつない。その声音に少し油断したらしい《最低》が見事に引っ掛かった。ボディブローとともに鳩尾にトンファーがめり込み、《最低》の肉体が軋みを挙げる。
「ぜぇ……ぜぇ……」
思わず食らった一撃に息を切らし、肩で呼吸する《最低》。そんな彼の姿を見つつ天子は傷一つ無いまま今もシャドーボクシングをしていた。
「嬢ちゃん、本当に少女か?」
「なっ!なんて失礼なっ!!私はこれでも17です~!」
《最低》が怪訝に思った最低な事を休憩がてらに聴くと、天子はプンすか怒り出して自分の年齢まで暴露し始めた。
「ははっなるほど、まさに全盛期ってとこだな。
どうりでパワフルな訳だ」
「重ね重ね失礼ですね!乙女にそんな事言ってたらモテませんよ~だ」
さらに《最低》の軽口は増していき、それに一々反応していく天子。
「うっせ、褒めてんだよ」
「そ、そうなんですか?実はおじさん照れ屋だったり?
素直じゃないなぁもう。女の子を褒めるときは、褒めちぎっちゃう位が丁度良いんですよ?」
褒められたのが余程嬉しかったのか、ポニーテールをルンルン揺らしながら、おじさんに何故かアドバイスしている。
「知るか。そういう嬢ちゃんは、馬鹿なんだな。
素直過ぎるのも考え物だ」
先のアドバイスを切って捨て、今度は罵倒する。
「私はバカじゃないです~バカって言った方がバカなんです~」
「ははっなら、馬鹿って三回も言ってる嬢ちゃんの方がよっぽどだな」
「おじさんだってバカってたくさん言ってるじゃん!」
「残念、俺は二回だけだ。それに今ので嬢ちゃん四回目だな」
「む~もうっ!!許さないし!止めてって言っても止めないし!
謝っても止めてあげないから!」
もはや子どもの口喧嘩レベルにまで達した二人の言い合いは、一旦ここで幕を閉じる。
(ははっ止めてもらう道理も義理もねぇ!)
「こんっのぉー!!」
突進してくる天子を軽く避け、その背に蹴りを放つ。
「んっ!……ぉっと!」
蹴りの方向と突進の方向が同じなため、大してダメージにはならないが、勢いを増され、かえってつんのめってしまう。
そしてその瞬間を狙ってもう一撃、蹴りをかます。
「っはあ!」
「ぁッ!」
か細い声とともに背に衝撃が走り、顔を苦痛に歪める。流石に背後からの一撃はトンファーでは受け止められないようだ。
「猪か?嬢ちゃんは」
「ぐぬ……う……」
またも軽い挑発を受けつつ、今度はその手に乗らないと決めて立ち上がる。その代わり、とっておきを出すことにしたようだ。
「はあっ!!」
気合い十分。ゆっくりと拳を構え、切り札の一枚目を切る。
「スキルー波動ー!」
その瞬間、微かに《最低》が笑った気がした。
「神秘『俺に優しい世界』!」
今日でこの小説も一年が経ちました。
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