噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神
97 姫路・神戸遊撃戦 その2
そこまでよ!と少女の声が発せられた。副隊長を取り囲んでいた家臣達はその声に驚き、少女の方を振り返る。
そこにいたのは先程、部下に無視され凹んで覇気をなくしていた少女ではない。いつも通り、いや、いつも以上の太陽のような明るい笑顔を浮かべている可愛らしいポニーテールが似合う少女、矢帝天子だった。
彼女が一歩前に踏み出すと、ススッと下がる家臣達。さらに彼女が一歩一歩、副隊長の方に近づく度、人垣が徐々に割れていった。
やがて副隊長の前で立ち止まり、口を開く。
「…私を無視するのは別にいいよ、私の命令に従わないのも別にいい。
でも、でもね…仲間をいじめたり、仲間同士傷つけ合うのはダメだよ…」
「「……」」
誰も何も発することなく、天子の声に皆、静かに耳を傾ける。
「私達は、信長様の為に集い合ったはずなのに、ともに戦ってきたはずなのに……なんで? なんで傷つけ合ったり争い合ったりするの?
私はそんなの嫌だよ。私はみんなと一緒に戦いたいだけのに…」
「「天子様……」」
反省していたのか俯いて聴いていた者達が、次々と顔を上げ、声を上げる。
「拙者達は間違っておりました…」
「いつの間にか、ともに戦う友までも出し抜いてやろうと画策していたようでございます」
「こんな愚かな我らをどうか…罰して下さい…」
自身の過ちに気づいた者達が、天子に罰を求める。しかし、彼女は…
「罰なんかに逃げちゃダメだよ……
気付いたのなら見つめ直して改心すればいい。
私もそのための協力くらいはするからさ!」
罰を与えず、だが許すわけでもなく、改まってくれると信じるのだった。明るく快活な笑みとともに。
「なら、まずやるべき事はわかるよね?」
「「「はい…」」」
第一にやるべき事、それは…
「「「申し訳ない。拙者達は…間違っていたでござる!!」」」
「「…許してくれとは言わない…だが改心するとここに誓うでござる!!」」
膝をついて頭を垂れる。そうやって副隊長へと向けられた土下座は、どれも綺麗に整っていた。そこからも彼等の反省の態度というものが窺えるだろう。
「お前たち……」
「どうするの副隊長?」
彼等の姿を見た副隊長の男が呆気にとられていると、天子に声を掛けられる。
「拙者は…また皆と共に戦いたい。もちろん天子様とも…」
「「「副隊長殿…」」」
「うむ、それでよい! よかったねみんな!」
「「「ありがとうございます天子様!!」」」
副隊長が皆の事を許し、家臣達がそれぞれ感謝を述べた。それを端から見守っている天子も優しい笑みを浮かべている。彼女のポニーテールもルンルンだ。
ちなみに『天子様ふぁんくらぶ』会員の結束がさらに強まった瞬間でもあるが、それに気付いたのはもう少し後のことである。
一方、こちらは姫路城にて。
今更だが、ここを拠点にしているのは尖兵団第三部隊だ。この第三部隊にも第一、第二部隊のように特色がある。この部隊の場合は構成員全員が術者ということだ。
ただし通常の術師団とは違う点がいくつかある。
それは魔術を使う者がほんの数人しかいないという点。
さらには一つの術のみに偏らず、あらゆる術を連携させた複合型術式が使われるという点。
そしてその軸となる術が、神伝術という日本でしか確認されていない未知数な代物を用いている点だ。
無論、そんな謎を秘めた術師団を率いるのは、神でなければ荷が重いのは必然であり、部隊長の神名を月読命という。
一般的にはツクヨミと呼ばれ奉られているその神は、三貴神、即ちアマテラス、スサノオと同格の神とも評されていたり、夜の食国の統治をイザナギに任されていたりするのだが…
「出番がもっと欲しいっ!」
「と、突然どうしたのですかツクヨミ様?」
この様に作戦会議中に唐突に嘆いてしまうほど日本神話において、活躍が少ない神でもある。
そして個人的にそれはコンプレックスらしく、此度の戦争でも活躍の場を増やそうと第三部隊の部隊長に志願したという経緯を持つ。
「あぁ…スサノオの奴が羨ましい……弟子なんかとりやがって…」
「そう悲観することはありませんよツクヨミ様…」
「なんだその暖かい目は……まさか…まだ僕を女と思っているんじゃないだろうな!?」
「滅相もないです! あんな経験をすればもう間違えません!」
「そんな怖い形相で言わなくても…」
「あ、す、すみません」
今の会話から察するにツクヨミはよく女に間違われるらしい。まぁそれも仕方がないといえば仕方がない。
なぜならツクヨミの容姿は小柄で華奢、肌が白く綺麗。さらには顔が小さく、どことなく丸みがあり、鼻筋が整っていて、まつげが長く、二重、そして髪も長く艶があるという女の子らしさを詰め込んだような姿形をしているからだ。
所謂、男の娘というやつだ。初見ではまず見破れないだろう。その証拠に…
「えっ!? ツクヨミ様って男だったんですか!?」
「貴様…」
同じく作戦会議していた他の術者が驚きの声を上げる。どうやらこの場で初めて知ったようだ。
「お前等な…ちゃんと部下に言っとけ、僕は正真正銘の男だって!」
「そんな…こんなのって……あぁんまぁりぃだぁぁぁ!!!!
俺の…俺たちの夢を返して下さいよぉ!!」
「知るかっ!!」
衝撃の事実に先程の部下が泣き出した。大の男が号泣している。それほどまでにショックは大きかったらしい。だがこの事実に抵抗はするようで…
「僕が女か男かなんて今はどうでもいい!」
「なに言ってるんです。重要ですよ!
我々の士気に関わります!」
「なんでだよ!?」
「理屈では説明できないけど大いに関わるんです!」
「もう埒があかん…
とにかくだ! 僕の権能を使って早々にこの戦を終わらせられる策はないのか!?」
「ありません!強行突破のみです!」
「アホかお前は!そんな事して何人が犠牲になると思っている!」
「それもこれもツクヨミ様が男だからです!」
「何故そうなる!?」
「はぁツクヨミ様が女の子だったらどれだけの名案が浮かんだことか…」
「僕は男だ!」
「あぁもうお終いですね…この部隊は……」
「そうだな、部下がいろいろヤバいということに今気づいた…」
双方とも一歩も譲らず、認めず、息を切らして口撃は終わった。
「あの二人は放っておくとして、じゃあ私達で作戦を決めましょうか」
「そうですね…」
「ではまず―――」
ため息を吐いて、違う男が立ち上がり勝手に話が進められていく。
ツクヨミと先程の部下は蚊帳の外だ。
数時間後。
ついに作戦会議が終わったのかツクヨミ達は、姫路城の砦前に各術師部隊を整列させ、着々と出撃の準備を行っていた。
徐にツクヨミが部隊の前に出てきて、今回の作戦概要を説明する。
「待たせたな。今から作戦内容を説明するので聴いてくれ」
先程までざわついていた者達が一斉に口を閉じ、耳が痛いほどの沈黙が場に降り立つ。その中で凛とした態度で一人、声を上げるツクヨミ。
「まず今から1時間後の日没とともに我々は出撃を開始する。
わかっているだろうが今回の戦は夜戦だ。
今までのような遊撃戦に対抗するには、あちらが安全と思っている夜を突くしかないのでな」
「もちろん君達にもそのリスクはあるが、僕はこれでも夜の権能を持っていてね、他の勢力よりは安全に動けると保証する。
それと最終目標は織田軍出雲侵略部隊、隊長の首とする」
「じゃあ最後に。君達は日本が誇る最強の術師団だ。何も恐れることはない。華麗に美しくそれでいて盛大に、勝利を飾るといい!」
「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」
ツクヨミの激励が終わるとともに轟音または咆哮ともとれる勝どきが、姫路中に響き渡るのだった。
「ちなみに僕は男だ!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………」」」」
盛大に声を上げる彼らの前で事実を言ってみたら、轟音は悲嘆からやがて静寂へと変わっていった……
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
戦いの中に茶番はある(迷言)
ファンクラブや男の娘を登場させると、最終的にはカオスになります。
新名神攻防戦との差が激しすぎる!
ですがこれで3勢力が出揃ったので次からは戦いがメインです!
これからもよろしくお願いします!
そこにいたのは先程、部下に無視され凹んで覇気をなくしていた少女ではない。いつも通り、いや、いつも以上の太陽のような明るい笑顔を浮かべている可愛らしいポニーテールが似合う少女、矢帝天子だった。
彼女が一歩前に踏み出すと、ススッと下がる家臣達。さらに彼女が一歩一歩、副隊長の方に近づく度、人垣が徐々に割れていった。
やがて副隊長の前で立ち止まり、口を開く。
「…私を無視するのは別にいいよ、私の命令に従わないのも別にいい。
でも、でもね…仲間をいじめたり、仲間同士傷つけ合うのはダメだよ…」
「「……」」
誰も何も発することなく、天子の声に皆、静かに耳を傾ける。
「私達は、信長様の為に集い合ったはずなのに、ともに戦ってきたはずなのに……なんで? なんで傷つけ合ったり争い合ったりするの?
私はそんなの嫌だよ。私はみんなと一緒に戦いたいだけのに…」
「「天子様……」」
反省していたのか俯いて聴いていた者達が、次々と顔を上げ、声を上げる。
「拙者達は間違っておりました…」
「いつの間にか、ともに戦う友までも出し抜いてやろうと画策していたようでございます」
「こんな愚かな我らをどうか…罰して下さい…」
自身の過ちに気づいた者達が、天子に罰を求める。しかし、彼女は…
「罰なんかに逃げちゃダメだよ……
気付いたのなら見つめ直して改心すればいい。
私もそのための協力くらいはするからさ!」
罰を与えず、だが許すわけでもなく、改まってくれると信じるのだった。明るく快活な笑みとともに。
「なら、まずやるべき事はわかるよね?」
「「「はい…」」」
第一にやるべき事、それは…
「「「申し訳ない。拙者達は…間違っていたでござる!!」」」
「「…許してくれとは言わない…だが改心するとここに誓うでござる!!」」
膝をついて頭を垂れる。そうやって副隊長へと向けられた土下座は、どれも綺麗に整っていた。そこからも彼等の反省の態度というものが窺えるだろう。
「お前たち……」
「どうするの副隊長?」
彼等の姿を見た副隊長の男が呆気にとられていると、天子に声を掛けられる。
「拙者は…また皆と共に戦いたい。もちろん天子様とも…」
「「「副隊長殿…」」」
「うむ、それでよい! よかったねみんな!」
「「「ありがとうございます天子様!!」」」
副隊長が皆の事を許し、家臣達がそれぞれ感謝を述べた。それを端から見守っている天子も優しい笑みを浮かべている。彼女のポニーテールもルンルンだ。
ちなみに『天子様ふぁんくらぶ』会員の結束がさらに強まった瞬間でもあるが、それに気付いたのはもう少し後のことである。
一方、こちらは姫路城にて。
今更だが、ここを拠点にしているのは尖兵団第三部隊だ。この第三部隊にも第一、第二部隊のように特色がある。この部隊の場合は構成員全員が術者ということだ。
ただし通常の術師団とは違う点がいくつかある。
それは魔術を使う者がほんの数人しかいないという点。
さらには一つの術のみに偏らず、あらゆる術を連携させた複合型術式が使われるという点。
そしてその軸となる術が、神伝術という日本でしか確認されていない未知数な代物を用いている点だ。
無論、そんな謎を秘めた術師団を率いるのは、神でなければ荷が重いのは必然であり、部隊長の神名を月読命という。
一般的にはツクヨミと呼ばれ奉られているその神は、三貴神、即ちアマテラス、スサノオと同格の神とも評されていたり、夜の食国の統治をイザナギに任されていたりするのだが…
「出番がもっと欲しいっ!」
「と、突然どうしたのですかツクヨミ様?」
この様に作戦会議中に唐突に嘆いてしまうほど日本神話において、活躍が少ない神でもある。
そして個人的にそれはコンプレックスらしく、此度の戦争でも活躍の場を増やそうと第三部隊の部隊長に志願したという経緯を持つ。
「あぁ…スサノオの奴が羨ましい……弟子なんかとりやがって…」
「そう悲観することはありませんよツクヨミ様…」
「なんだその暖かい目は……まさか…まだ僕を女と思っているんじゃないだろうな!?」
「滅相もないです! あんな経験をすればもう間違えません!」
「そんな怖い形相で言わなくても…」
「あ、す、すみません」
今の会話から察するにツクヨミはよく女に間違われるらしい。まぁそれも仕方がないといえば仕方がない。
なぜならツクヨミの容姿は小柄で華奢、肌が白く綺麗。さらには顔が小さく、どことなく丸みがあり、鼻筋が整っていて、まつげが長く、二重、そして髪も長く艶があるという女の子らしさを詰め込んだような姿形をしているからだ。
所謂、男の娘というやつだ。初見ではまず見破れないだろう。その証拠に…
「えっ!? ツクヨミ様って男だったんですか!?」
「貴様…」
同じく作戦会議していた他の術者が驚きの声を上げる。どうやらこの場で初めて知ったようだ。
「お前等な…ちゃんと部下に言っとけ、僕は正真正銘の男だって!」
「そんな…こんなのって……あぁんまぁりぃだぁぁぁ!!!!
俺の…俺たちの夢を返して下さいよぉ!!」
「知るかっ!!」
衝撃の事実に先程の部下が泣き出した。大の男が号泣している。それほどまでにショックは大きかったらしい。だがこの事実に抵抗はするようで…
「僕が女か男かなんて今はどうでもいい!」
「なに言ってるんです。重要ですよ!
我々の士気に関わります!」
「なんでだよ!?」
「理屈では説明できないけど大いに関わるんです!」
「もう埒があかん…
とにかくだ! 僕の権能を使って早々にこの戦を終わらせられる策はないのか!?」
「ありません!強行突破のみです!」
「アホかお前は!そんな事して何人が犠牲になると思っている!」
「それもこれもツクヨミ様が男だからです!」
「何故そうなる!?」
「はぁツクヨミ様が女の子だったらどれだけの名案が浮かんだことか…」
「僕は男だ!」
「あぁもうお終いですね…この部隊は……」
「そうだな、部下がいろいろヤバいということに今気づいた…」
双方とも一歩も譲らず、認めず、息を切らして口撃は終わった。
「あの二人は放っておくとして、じゃあ私達で作戦を決めましょうか」
「そうですね…」
「ではまず―――」
ため息を吐いて、違う男が立ち上がり勝手に話が進められていく。
ツクヨミと先程の部下は蚊帳の外だ。
数時間後。
ついに作戦会議が終わったのかツクヨミ達は、姫路城の砦前に各術師部隊を整列させ、着々と出撃の準備を行っていた。
徐にツクヨミが部隊の前に出てきて、今回の作戦概要を説明する。
「待たせたな。今から作戦内容を説明するので聴いてくれ」
先程までざわついていた者達が一斉に口を閉じ、耳が痛いほどの沈黙が場に降り立つ。その中で凛とした態度で一人、声を上げるツクヨミ。
「まず今から1時間後の日没とともに我々は出撃を開始する。
わかっているだろうが今回の戦は夜戦だ。
今までのような遊撃戦に対抗するには、あちらが安全と思っている夜を突くしかないのでな」
「もちろん君達にもそのリスクはあるが、僕はこれでも夜の権能を持っていてね、他の勢力よりは安全に動けると保証する。
それと最終目標は織田軍出雲侵略部隊、隊長の首とする」
「じゃあ最後に。君達は日本が誇る最強の術師団だ。何も恐れることはない。華麗に美しくそれでいて盛大に、勝利を飾るといい!」
「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」
ツクヨミの激励が終わるとともに轟音または咆哮ともとれる勝どきが、姫路中に響き渡るのだった。
「ちなみに僕は男だ!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………」」」」
盛大に声を上げる彼らの前で事実を言ってみたら、轟音は悲嘆からやがて静寂へと変わっていった……
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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