噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神
96 姫路・神戸遊撃戦 その1
新名神攻防戦終結から少し時は遡る。
安土から出兵した織田軍の出雲侵略部隊は、その道中、兵庫県姫路城と神戸港でそれぞれ待ち構えていた尖兵団第三部隊と世界調停機関に進路を阻まれ断続的な交戦状態が続いていたのだった。
断続的な為に戦線は上下し、その都度、市街地や都市部、さらには農村部までが戦場と化していた。既に避難民は世界調停機関の艦、信濃に収容済みとはいえ、これでは戦後の生活がままならないことだろう。
いつだって戦争に民衆の意見が反映されることはないのだ。
だがここにはその事を嘆く若者がいた。
「やはり作戦を見直すべきです!
…このままでは戦争が終わったとしても、
今度は民衆が武器を手に取り、隣人と争うことになるんですよっ!?」
神戸港から北東約5キロの地点にある芦屋市役所、その大会議室に臨時本部を設置した調停機関は、今現在、度重なる戦闘に対してどのような対策を取るか到達者達で話し合っていたのだが、その死神の一言で場は静まり返った。
もちろんその死神とは、現在、調停機関に出向中である斎藤壱月だ。彼は沈黙した会議室に続けて声を挙げる。
「それに加え、このゲリラ戦のような状況は、双方にとって身体的にも精神的にも消耗を強いられてしまう…」
「君は、自分は疲れたから休みたいと言っているのかな?
…どうなんだい死神の壱月くん」
壱月の申言を偏った形で言い換える到達者の一人《最低》。その冠している名の通り彼は機関一の最低のクズ野郎だ。
しかしそのクズ野郎の一言もわからないでもない。もともと壱月は死神本部からの出向の身だ。いくら到達者達と任務をともにしてきたからと言っても壱月は本部の命令一つでいつでも帰ることができる。例えその帰還理由が壱月の任務失敗であったとしても、失敗したことに対する責任は最終的に機関へと帰属し、死神本部は何の損害もない。
故に《最低》は壱月の発言が無責任すぎると遠回しに指摘しているのだろう。まぁそんな事を言い出したら壱月の発言権がなくなりかねないが、クズ野郎の事だからそれすらも言外に含んでいるかもしれない。
「……ええ、休みたいですよ。戦争なんて努めてやるもんじゃない」
「おや? 珍しく認めたね。 それとも開き直っただけかな?」
壱月は思ったことを率直に口にしただけだが、すぐその揚げ足を取る《最低》。この会議室はただでさえ切迫している状態だというのに、容赦なく剣呑な雰囲気を醸し出す二人のせいで、さらに息苦しさが増していく。
そんな中、
「ハハハハハハハ! そうかっかするなよ二人とも、
もっと気楽にいこうぜ!」
「いや、君のそのテンションが一番おかしいから…」
「残念ながら、同感です…」
いきなり笑い出した《最高》は二人を宥めるように肩を叩くが、両者ともかなり鬱陶しそうだ。明らかに嫌な顔が表にでている。
「ま、とにかくだ…我々のするべき事は変わらない。
さっさとこの戦争を終わらせるぞ」
「そうは言いますけど…」
「具体的な方法は?」
「えぇ……っと……」
上座に腰掛ける《最強》が場を仕切り直すが、即座に二人に食いつかれ言葉を詰まらせる。彼はちらりと横にいる参謀長に目線を送って、様子を窺うが…
「おい、《最善》何か良い案ないのか?」
「ん、ああ。良い案か……あるにはあるんだが……」
調停機関副長《最善》は、《最強》の問いに対し珍しく言い淀んでいた。いつもならさらっと安心安全で万全の策が一つ二つ出て来てもおかしくないというのに。
「どうした? ……問題があるのか?
壱月と《最低》が邪魔とかか?
《最高》がうるさいとかか?」
「「おい!」」
「ハハハハハ!」
《最強》が原因と思われる3人を毒づきながら列挙するが、返ってくるのはその三人の三者三様ならぬ三者二様の反応だけで、《最善》は何も言わない。
「《最善》、何かあったのか? それとも具合でも悪いのか?
もう2日もだんまりだぞ。このままじゃどんどん悪い方向に戦局が…」
そう《最善》はこの一連の戦闘が始まってから一度も作戦指揮を執ろうとしなかった。終始ずっと考え込んでおり、たまに話をふると先程のように曖昧に答えてくれるのだが、会話としてはまったく成立しない。さらにはいつものメガネをクイッとする癖すらも全然する気配がない。
そんな状況に最初は皆、《最善》の事だから何か策を練っているのだと、勝手に判断し、戦況を維持するため《最強》が代わりに打ち立てた作戦を遂行していたのだが、この会議室の様子を見るにもうそれも限界らしい。
「一体どうしたんだ? なぁ《最善》!
何でもいいから何か言ってくれ!」
「《最強》……」
流石にここまでくると居ても立っても居られなくなり、《最善》の肩を掴んで揺する。彼は顔を上げこちらを見ると恐る恐るといった感じで《最強》と呟いて、しばらく逡巡したあと…
「……やめてくれないかい?」
優しく冷たい拒絶の一言。決して感情的ではなく、理論的に理性的に放たれたその一言は、《最強》に重く突き刺さる。
「…す、すまない」
「…わかってくれればいいよ…………」
そしてまた彼の沈黙が始まった。
この後も会議は沈み、なおかつ進まなかった。
その一方。
織田軍出雲侵略部隊の隊長である矢帝天子も、繰り返されるゲリラ戦に不満たらたらだった。彼女の元気の象徴でありトレードマークでもあるポニーテールもどことなく大人しい。
「もっと正々堂々、戦いましょうよ~~
ねぇ副隊長~~聴いてるんですか~?」
兵庫県内のとある都市部の廃ビルに急遽設置した拠点陣地に天子の声が響くが、誰一人として動じることはなく、それぞれの仕事をこなしている。さらには指名された副隊長の男すらも、気に留めることなく自分の作業を優先させていた。
「もうっ! 私はこれでも隊長なんですよ!
ちょっとは意見を聴いてくれても良いと思うんですけどー!」
怒りますよ!と最後に付け足してプンスカしている天子。
だがそれでも…
「「…………」」
「うぅ………もうっ知らないっ!」
誰も何も発する事はなく、淡々と武器の手入れや補給物資の確認をしている。
そんな彼らに、天子は一瞬悲しそうな顔を見せる。しかしすぐにいつもの笑顔に戻り、覚えてろよ!こんちくしょ~!と叫んで走り去って行こうとするが、途中で何かに足を引っ掛けて転んでいた。それでも痛みに負けず立ち上がり何事もなかったかのように階段を駆けて上って行くのだった。
そんな出来事があった後、副隊長とその他の家臣は互いに顔を見合わせ、密かに話し合い始めた。
「良いのか?あれで…」
「隊長、ほんの一瞬泣いてたぞ…」
「うぅ、胸が痛い…」
自責の念に駆られ、各々暗い顔をする家臣達。彼等だって本当はこんな事したくはないようだ。
「そうですね…早くこんな状況は終わらさなければなりません。
天子様の為にも……我々の為にも……」
「あんた鬼だな!……いや、俺達も同類か……くそぉ…なんで…
なんで…天子様に……こんなことしなきゃなんねぇんだよぉ…」
この空気の中、冷静に振る舞う鬼畜副隊長。彼にはどんな非難を浴びせられようともやらねばならないことがあった。
それは……
「我らは……どれだけ天子様に嫌われようとも…
あの方を守り抜かなければならないのです!
……たとえこの…命に代えても…絶対に……
それが我ら『天子様ふぁんくらぶ』の絶対不滅にして、
永劫の使命にござる!」
今は遙か遠き異世界の地で、昔彼らは密かに誓い合ったのだ。戦国乱世に降臨した神アイドルたる矢帝天子を命懸けで守護し続ける、と。それがたとえどんなに過酷な環境でも、絶体絶命の苦境であったとしても……
「「「いついかなる時も天子様の笑顔のためにっっ!!」」」
『ふぁんくらぶ』の合言葉的なものを胸に刻み、彼らは今日も危険を顧みず己の推しの為だけに体を張続ける。
「それが我ら……」
「「「『天子様ふぁんくらぶ』!!!!!!」」」
副隊長が音頭をとり、この階にいる全員でキメる。
この様に仲がよく、絆が強い集団だと思われるかもしれないが、それはひどく誤解している。
(足軽A)「それはそうと副隊長殿、
抜け駆けは切腹ものでござるからな?」
(副隊長)「ああ。肝に銘じているでござる」
(足B)「あ、そういえばこの前拙者見てしまったでござる」
(足全員)「「「なんでござる!?」」」
(足B)「実は以前、副隊長殿は天子様に
  傷の手当てをされていたのでござる!!」
(以下、憎しみに駆られた足軽達)「「「貴様あああぁぁぁ!!!!」」」
「切腹でござる」「切腹でござるな」
「致し方なし」「是非もなし」
「イッツ・ハラキリ・タイム!!」
「It can't be helped.」
「「「「よし、満場一致で死ねぇぇぇぇぇっ!!」」」」
この通り、抜け駆けする者、裏切った者、道義に背く者をこの集団は、決して許さない。たとえそれが上官だとしても『ふぁんくらぶ』の絆と団結力が下克上を可能にしてしまうのだ。
さらには『ふぁんくらぶ』会員のほとんどが(興奮して)元の『ござる口調』に戻るため、話し声だけでは誰が誰か判別がつかないというある意味問題集団だったりする。
もちろん、これだけの事を常日頃からやらかしていれば信長に感づかれ消される可能性もあった。だが現時点でこの『ふぁんくらぶ』は存続している。
理由は単純。他ならぬ織田信長本人が、この『ふぁんくらぶ』の会長を務めているからだ。
なおこの集団の存在は、天子には知られていないため……訂正しよう。知られてはいけないため、こんな風に秘密裏に動かなければならないのだ。
「うぉぉぉ待て待て待てっ!!…待つでござる!!
今ここで拙者を殺せば、間違いなく敗戦は確定でござるよ!!
それで誠に良いのでござるか!?」
「「…確かに拙者達だけでは…この戦を勝つことは不可能」」
「「ならば如何様に罰を下す?」」
「戦が終わり次第、会長に突き出すというのはどうでござるか?」
「…ありじゃな」「…ありでござるな」
「待て、それも待ってくれ!!
それはいくらなんでも酷すぎると思うんじゃが!?」
「…致し方なし」「是非もないよねっ!!」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 会長に突き出されるのだけはっ!!
どうか、どうか慈悲を! 拙者に慈悲をぉぉぉぉぉぉ!!」
冷静だった副隊長の顔が悲しみと絶望で歪み、ビル内にその悲鳴が木霊する。もう彼に誰も味方はいなかった……ポニーテールが元気に揺れる彼女が現れるまでは……
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
はい。今回もお約束の「どうしてこうなった…」回です。
織田軍一の元気っ子たる天子ちゃんに、ファンクラブがないわけない。そう思ったら奴らが生み出されていました。
ホントはもっとかっこよくしたかったですよ。しかし未智咲の時のグダグダ感を考慮するとこれぐらいが良いのかなと思ったんです。
ごめんなさい。
これからもよろしくお願いします!
安土から出兵した織田軍の出雲侵略部隊は、その道中、兵庫県姫路城と神戸港でそれぞれ待ち構えていた尖兵団第三部隊と世界調停機関に進路を阻まれ断続的な交戦状態が続いていたのだった。
断続的な為に戦線は上下し、その都度、市街地や都市部、さらには農村部までが戦場と化していた。既に避難民は世界調停機関の艦、信濃に収容済みとはいえ、これでは戦後の生活がままならないことだろう。
いつだって戦争に民衆の意見が反映されることはないのだ。
だがここにはその事を嘆く若者がいた。
「やはり作戦を見直すべきです!
…このままでは戦争が終わったとしても、
今度は民衆が武器を手に取り、隣人と争うことになるんですよっ!?」
神戸港から北東約5キロの地点にある芦屋市役所、その大会議室に臨時本部を設置した調停機関は、今現在、度重なる戦闘に対してどのような対策を取るか到達者達で話し合っていたのだが、その死神の一言で場は静まり返った。
もちろんその死神とは、現在、調停機関に出向中である斎藤壱月だ。彼は沈黙した会議室に続けて声を挙げる。
「それに加え、このゲリラ戦のような状況は、双方にとって身体的にも精神的にも消耗を強いられてしまう…」
「君は、自分は疲れたから休みたいと言っているのかな?
…どうなんだい死神の壱月くん」
壱月の申言を偏った形で言い換える到達者の一人《最低》。その冠している名の通り彼は機関一の最低のクズ野郎だ。
しかしそのクズ野郎の一言もわからないでもない。もともと壱月は死神本部からの出向の身だ。いくら到達者達と任務をともにしてきたからと言っても壱月は本部の命令一つでいつでも帰ることができる。例えその帰還理由が壱月の任務失敗であったとしても、失敗したことに対する責任は最終的に機関へと帰属し、死神本部は何の損害もない。
故に《最低》は壱月の発言が無責任すぎると遠回しに指摘しているのだろう。まぁそんな事を言い出したら壱月の発言権がなくなりかねないが、クズ野郎の事だからそれすらも言外に含んでいるかもしれない。
「……ええ、休みたいですよ。戦争なんて努めてやるもんじゃない」
「おや? 珍しく認めたね。 それとも開き直っただけかな?」
壱月は思ったことを率直に口にしただけだが、すぐその揚げ足を取る《最低》。この会議室はただでさえ切迫している状態だというのに、容赦なく剣呑な雰囲気を醸し出す二人のせいで、さらに息苦しさが増していく。
そんな中、
「ハハハハハハハ! そうかっかするなよ二人とも、
もっと気楽にいこうぜ!」
「いや、君のそのテンションが一番おかしいから…」
「残念ながら、同感です…」
いきなり笑い出した《最高》は二人を宥めるように肩を叩くが、両者ともかなり鬱陶しそうだ。明らかに嫌な顔が表にでている。
「ま、とにかくだ…我々のするべき事は変わらない。
さっさとこの戦争を終わらせるぞ」
「そうは言いますけど…」
「具体的な方法は?」
「えぇ……っと……」
上座に腰掛ける《最強》が場を仕切り直すが、即座に二人に食いつかれ言葉を詰まらせる。彼はちらりと横にいる参謀長に目線を送って、様子を窺うが…
「おい、《最善》何か良い案ないのか?」
「ん、ああ。良い案か……あるにはあるんだが……」
調停機関副長《最善》は、《最強》の問いに対し珍しく言い淀んでいた。いつもならさらっと安心安全で万全の策が一つ二つ出て来てもおかしくないというのに。
「どうした? ……問題があるのか?
壱月と《最低》が邪魔とかか?
《最高》がうるさいとかか?」
「「おい!」」
「ハハハハハ!」
《最強》が原因と思われる3人を毒づきながら列挙するが、返ってくるのはその三人の三者三様ならぬ三者二様の反応だけで、《最善》は何も言わない。
「《最善》、何かあったのか? それとも具合でも悪いのか?
もう2日もだんまりだぞ。このままじゃどんどん悪い方向に戦局が…」
そう《最善》はこの一連の戦闘が始まってから一度も作戦指揮を執ろうとしなかった。終始ずっと考え込んでおり、たまに話をふると先程のように曖昧に答えてくれるのだが、会話としてはまったく成立しない。さらにはいつものメガネをクイッとする癖すらも全然する気配がない。
そんな状況に最初は皆、《最善》の事だから何か策を練っているのだと、勝手に判断し、戦況を維持するため《最強》が代わりに打ち立てた作戦を遂行していたのだが、この会議室の様子を見るにもうそれも限界らしい。
「一体どうしたんだ? なぁ《最善》!
何でもいいから何か言ってくれ!」
「《最強》……」
流石にここまでくると居ても立っても居られなくなり、《最善》の肩を掴んで揺する。彼は顔を上げこちらを見ると恐る恐るといった感じで《最強》と呟いて、しばらく逡巡したあと…
「……やめてくれないかい?」
優しく冷たい拒絶の一言。決して感情的ではなく、理論的に理性的に放たれたその一言は、《最強》に重く突き刺さる。
「…す、すまない」
「…わかってくれればいいよ…………」
そしてまた彼の沈黙が始まった。
この後も会議は沈み、なおかつ進まなかった。
その一方。
織田軍出雲侵略部隊の隊長である矢帝天子も、繰り返されるゲリラ戦に不満たらたらだった。彼女の元気の象徴でありトレードマークでもあるポニーテールもどことなく大人しい。
「もっと正々堂々、戦いましょうよ~~
ねぇ副隊長~~聴いてるんですか~?」
兵庫県内のとある都市部の廃ビルに急遽設置した拠点陣地に天子の声が響くが、誰一人として動じることはなく、それぞれの仕事をこなしている。さらには指名された副隊長の男すらも、気に留めることなく自分の作業を優先させていた。
「もうっ! 私はこれでも隊長なんですよ!
ちょっとは意見を聴いてくれても良いと思うんですけどー!」
怒りますよ!と最後に付け足してプンスカしている天子。
だがそれでも…
「「…………」」
「うぅ………もうっ知らないっ!」
誰も何も発する事はなく、淡々と武器の手入れや補給物資の確認をしている。
そんな彼らに、天子は一瞬悲しそうな顔を見せる。しかしすぐにいつもの笑顔に戻り、覚えてろよ!こんちくしょ~!と叫んで走り去って行こうとするが、途中で何かに足を引っ掛けて転んでいた。それでも痛みに負けず立ち上がり何事もなかったかのように階段を駆けて上って行くのだった。
そんな出来事があった後、副隊長とその他の家臣は互いに顔を見合わせ、密かに話し合い始めた。
「良いのか?あれで…」
「隊長、ほんの一瞬泣いてたぞ…」
「うぅ、胸が痛い…」
自責の念に駆られ、各々暗い顔をする家臣達。彼等だって本当はこんな事したくはないようだ。
「そうですね…早くこんな状況は終わらさなければなりません。
天子様の為にも……我々の為にも……」
「あんた鬼だな!……いや、俺達も同類か……くそぉ…なんで…
なんで…天子様に……こんなことしなきゃなんねぇんだよぉ…」
この空気の中、冷静に振る舞う鬼畜副隊長。彼にはどんな非難を浴びせられようともやらねばならないことがあった。
それは……
「我らは……どれだけ天子様に嫌われようとも…
あの方を守り抜かなければならないのです!
……たとえこの…命に代えても…絶対に……
それが我ら『天子様ふぁんくらぶ』の絶対不滅にして、
永劫の使命にござる!」
今は遙か遠き異世界の地で、昔彼らは密かに誓い合ったのだ。戦国乱世に降臨した神アイドルたる矢帝天子を命懸けで守護し続ける、と。それがたとえどんなに過酷な環境でも、絶体絶命の苦境であったとしても……
「「「いついかなる時も天子様の笑顔のためにっっ!!」」」
『ふぁんくらぶ』の合言葉的なものを胸に刻み、彼らは今日も危険を顧みず己の推しの為だけに体を張続ける。
「それが我ら……」
「「「『天子様ふぁんくらぶ』!!!!!!」」」
副隊長が音頭をとり、この階にいる全員でキメる。
この様に仲がよく、絆が強い集団だと思われるかもしれないが、それはひどく誤解している。
(足軽A)「それはそうと副隊長殿、
抜け駆けは切腹ものでござるからな?」
(副隊長)「ああ。肝に銘じているでござる」
(足B)「あ、そういえばこの前拙者見てしまったでござる」
(足全員)「「「なんでござる!?」」」
(足B)「実は以前、副隊長殿は天子様に
  傷の手当てをされていたのでござる!!」
(以下、憎しみに駆られた足軽達)「「「貴様あああぁぁぁ!!!!」」」
「切腹でござる」「切腹でござるな」
「致し方なし」「是非もなし」
「イッツ・ハラキリ・タイム!!」
「It can't be helped.」
「「「「よし、満場一致で死ねぇぇぇぇぇっ!!」」」」
この通り、抜け駆けする者、裏切った者、道義に背く者をこの集団は、決して許さない。たとえそれが上官だとしても『ふぁんくらぶ』の絆と団結力が下克上を可能にしてしまうのだ。
さらには『ふぁんくらぶ』会員のほとんどが(興奮して)元の『ござる口調』に戻るため、話し声だけでは誰が誰か判別がつかないというある意味問題集団だったりする。
もちろん、これだけの事を常日頃からやらかしていれば信長に感づかれ消される可能性もあった。だが現時点でこの『ふぁんくらぶ』は存続している。
理由は単純。他ならぬ織田信長本人が、この『ふぁんくらぶ』の会長を務めているからだ。
なおこの集団の存在は、天子には知られていないため……訂正しよう。知られてはいけないため、こんな風に秘密裏に動かなければならないのだ。
「うぉぉぉ待て待て待てっ!!…待つでござる!!
今ここで拙者を殺せば、間違いなく敗戦は確定でござるよ!!
それで誠に良いのでござるか!?」
「「…確かに拙者達だけでは…この戦を勝つことは不可能」」
「「ならば如何様に罰を下す?」」
「戦が終わり次第、会長に突き出すというのはどうでござるか?」
「…ありじゃな」「…ありでござるな」
「待て、それも待ってくれ!!
それはいくらなんでも酷すぎると思うんじゃが!?」
「…致し方なし」「是非もないよねっ!!」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 会長に突き出されるのだけはっ!!
どうか、どうか慈悲を! 拙者に慈悲をぉぉぉぉぉぉ!!」
冷静だった副隊長の顔が悲しみと絶望で歪み、ビル内にその悲鳴が木霊する。もう彼に誰も味方はいなかった……ポニーテールが元気に揺れる彼女が現れるまでは……
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
はい。今回もお約束の「どうしてこうなった…」回です。
織田軍一の元気っ子たる天子ちゃんに、ファンクラブがないわけない。そう思ったら奴らが生み出されていました。
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