噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

95 決意と決断そして決着の時

 武神スサノオと血盟誓いし少年・澪士が一騎当千、百戦錬磨の織田五大将・未智咲を相手取っている最中、その少し離れた場所では右手に持った剣へと全神経を集中させるべく瞑想している桜夜の姿があった。

 だが、その瞑想は次第に迷走へと変わっていく。

(本当に…これでいいのか!? いくらこの状況に決定打を入れることが出来ても、澪士の言ったとおり俺が俺でなくなれば…意味がない…)

 そう今、桜夜がやろうとしていることは、神器・天叢雲剣の神技じんぎ解放だ。そしてそれをすれば恐らく、スサノオや澪士が必死の思いで止めに入ってくれた意味がなくなり、また桜夜は…

(俺は…叢雲に呑み込まれる…)

 もし呑み込まれたとすれば、桜夜は自我を失い、力のままに叢雲を振るい、暴走する事だろう。

(さっきは澪士の言葉に助けられたが…今度はそう簡単にはいかない…)

 簡単に予想がついてしまう自身の暴走姿を恨めしく思いながらも桜夜は思考をかき集め、脳内で試行錯誤を繰り返す。

(あの女将軍の体力切れを待っても良いが、現時点でまったく衰えを見せていないあたりそれは遅すぎる。既に師匠と本気の澪士を相手にあそこまで渡り合える程だ。いつこの均衡が崩れてもおかしくねぇ…)

 時間が経てば経つほど、焦りが増し、呼吸が乱れ、思考がまとまらなくなってくる。それでも彼は必死に一生懸命に考えなければならない。なぜなら…

(俺は…主人公だ……主人公なら無理難題の一つや二つ、クリアできなくてどうするっ!!)

 彼は主人公であるからこそ主人公自分の在り方がわからない。だから何度でも物語に描かれるような主人公であろうと決意するのだ。

 そして彼は決断する。師匠や戦友の忠告を無視し、二人を助け、暴走しこの戦争を終わらせて次なる戦の元凶になるか。それとも敵の体力切れを待ち、二人が生きている可能性に賭けるか……桜夜は選択をしなければならない。

(もちろんこれは二択じゃない。他にもいろんな選択肢がある。俺も戦列に加わる選択、仲間を呼ぶ選択。だけど…その選択肢は確実にあの二人の足枷になっちまう…)

 誰かを殺すことしか考えない普通の戦闘より、誰かを守りながら行う戦闘の方が困難なのは世の道理だ。
 そしてなにより…

(…俺は……あの二人よりも圧倒的に弱い……神秘・主人公補正の戦闘時補正値は微々たるもの…そんな俺があの化け物達に追いつけるわけがない……それでもこの叢雲なら……足りないものを埋めてくれるはず……代償はデカいがやるしかねぇ!)

 そうやってたくさん言い訳しつつ自分を鼓舞しないと、きっとこの主人公は決断出来なかったのだろう。

 永く長い堂々巡りを終え、ゆっくりと目を開ける桜夜。視線の先では相も変わらず剣戟と気迫が鳴り響いているが、見ていれば素人でもわかる確実にスサノオ達が圧されつつあると。

「俺の決断が……正しかったと信じるぜ……ごめんな澪士。約束、破るよ…」

 一度、澪士をちらりと見てまた剣に視線を戻す。

「叢雲……俺に力を貸してくれ…」

 最後にそう呟くと、桜夜は確固たる意志を感じさせる眼とともにしっかりと地を踏みしめて立ち上がる。
 叢雲を再度握り直し、中段へ構える。

『…断在の剣にして武の象徴…
 それ故にこの一振りは神話の一撃…
 日本神話の重みを喰らいやがれっ!!!』

 簡易詠唱を勢いのままに叫び、叢雲を一気に左上段へと運ぶ。右足を一歩前に出し、継ぎ足から一息で叢雲を振り下ろす。

『―神技解放―荒れ狂う窮兵黷武の御太刀都牟刈ノ大刀―』

 溢れ出る神聖力が方向性をもって極大の閃光と化し、その神威が眼前に在る物体、物質を無差別に根こそぎ削り取って、今なお撃ち合っているスサノオ達目掛けて迫りゆく。

「退けっ!! 師匠っ!! 澪士っ!!」
「「っ!!」」

 とっさに今何が起こっているのかを察した二人は桜夜の指示通り、射線から逸れるべく横に跳ぶ。無論、受け身など一切考慮していない。さらには閃光に伴って襲ってくる暴風と化した太刀風に翻弄され、軽く飛ばされ、どうにか地面に接したと思えば今度は激しくバウンドし転がる始末だ。

 だがそれでも彼女よりはましだろう。

 そう何が起こっているのかすら把握していない未智咲よりは…

「なんなの…これっ……!! 
 とにかく、迎え撃つしかないわねっ!!    
 はぁぁああああああああああああ!!!」

 レベル50まで達したその槍術を駆使して極大の神威を凌ぎきろうとするが、その判断こそ間違っていた。彼女はこの神話の一撃を、日本神話の重みを甘く見たのだ。

「はぁぁぁぁぁあっっ―――――」

 未智咲の三叉の穂先が荒れ狂うた神威の先端に触れた瞬間、彼女は消滅した。一片の塵一つ残さずに消え失せたのだ。

「勝てた……のか……」

 勝利を感じ取った桜夜は諸手を挙げて喜ぼうとしたが、すぐに異変に気付く。

「……ぁんで………なんで……」

 前半部分が聞き取り辛いくらいに桜夜は、その光景に呆然とするしかなかった。

 そう未だに桜夜の放った神技が終わっていないのだ。もちろん叢雲からの神威放出は止まっており、幸いなことに桜夜自身にも異常は見られないので、これ以上暴走する危険性は無いのだが、既に放った方がまだその暴虐非道を撒き散らしながら進んでいた。

「止まれっ! 止まってくれ…… 
 …止ぉまぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 一心にそう叫ぶが神技が霧散する気配はなく、もうまもなく安楽峠に差し掛かる。

―轟音―轟音―轟音―

 数百個のダイナマイトが爆発した時よりも凄まじい音が三度轟き、それと同時に閃光の神々しさが山中から消え去った。

「ぁ……ぁぁぁぁぁぁ―――――!」

 跪いた桜夜の声にならない絶叫が、絶望が、後悔が、喉から溢れ出て、木霊する。しかし誰もそれを慰める事はできず、許すこともできず、ただ桜夜に畏怖の籠もった目を向けるだけだった。

 師匠であるスサノオを除いて。

―パチンッッ!!―

 スサノオの平手打ちが桜夜の右頬に直撃した。桜夜は打たれたまま顔を戻さずに俯いている。

「っう!」

 今度は髪を引っ張り無理矢理立たせる。

「甘ったれんなっっっ!! 現実を見ろっ!」
「ぅぅぅううううううああああああああああああっっっ――!!!」

 頭を掴んで、自身が招いた悲劇を直視させる。逃げ道は何処にもない。目を瞑っても、平手打ちや拳骨、膝蹴りが飛んでくるので痛みに苦しみながら見るしかない。

 涙を流し、鼻水を垂れ、悲鳴をあげ、泣きじゃくる。

「いいか…お前のこの罪は一生消える事はない。
 許されることもない。だから今、刻みつけておけ。
 お前の脳裏に、心に。この光景を。
 二度と繰り返さないように……それが人間ってもんだろ?」

 静かに紡がれる神の言葉。神言とはまた違った性質を持つ、何の特別な力も持たないただの言葉。いや最早、言った者が神であろうと関係ない。そこに師弟の情が、優しさが、厳しさがあったからこそ、今の彼に届いたのだろう。

「師匠……俺は…この悲劇を二度と忘れま″ぜんっっ!!!」
「ああ、それでいい……同じ過ちを繰り返す人間にだけはなるな」
「はい…」

 その声に覇気が籠もっていなくとも、師匠であるスサノオにはわかった。桜夜はこの重たい罪を背負ってこれからも少しずつ前に進んでいくのだと。


 


 日は暮れて。
 新たな拠点となった亀山西ジャンクション。その最奥に設置したスサノオや桜夜のいる臨時用天幕内では、数々の報告があがってきていた。

 山は半ばまで削り取られ、道路のアスファルトは震源地から安楽峠まで2キロ程捲れあがり、とてもじゃないが拠点として機能しない。

 むしろ進軍する上でも危険性が大いにある。

 撤退すべきだ。などなど。

 偵察班や、第二部隊の後方支援科が報告書類で意見しているのを目に通しつつスサノオは、簡易ベットで寝息をたてている桜夜に優しげな視線を向ける。

「まったくうちのバカ弟子は……この忙しいって時に良い御身分だ…
 ま、あれだけ泣き喚きゃ仕方ねぇがな…」

 つい2、3時間前の惨劇を思い出すスサノオ。

(バカ弟子が俺様達を助けるために放った神技。
 あれは最低・・ランクの『―荒れ狂う窮兵黷武の御太刀都牟刈ノ大刀―』だった。
 しかし、あの山をも割る威力は……
 いくら神聖力を込めたところで実現不可能なはず…)

(この俺が星造物類の神器を甘く見ていたのか?
 いや、そんなはずはない。
 そもそもあんなことになるなら姉貴だって最初から、
 止めていただろうからな。
 なら一体何が最低ランクの神技にあそこまでの威力を?)

 考察すればするほど、謎は深まるばかりで一向に答えが見えない。

「これは仮定だが……もし星造物類の神器の最低ランクと神造物類の神器の最低ランクが全然違う意味合いを持っていたとしたら…それは……いや、それはいくらなんでも有り得ないか…」

 意味合いが違うのなら、効果や威力、性質も変わってくると考えたようだが、一笑に付して再度、事務処理に戻るのだった。


 意味合いの違い、捉え方の違い、それらが一体どんな絶望を引き起こすのか、彼等は未だ知らない…


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

 今更な感じですがこの話、私の中二病が結構詰まっております。
 神技解放時のセリフはちょっとダサいですが、真名部分は自分でもかなり気に入っています! 
 博識な読者の皆様ならおわかりだと思いますが、一応真名の読み方は都牟刈ノ大刀ツムカリノタチです。

 ここまで新名神攻防戦を引き延ばしたのは、どうしても神技を撃ちたかったからです! 滅茶苦茶グダってすみません!

 あと劇中で書いていませんが、安楽峠の麓に陣を構えていた織田軍は、尖兵団を迎え撃ったり、極大の閃光を迎え撃ったりして全滅したそうです。

 次回からは、もう一方の戦いの様子を書いていく予定です。

これからもよろしくお願いします!

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