噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神
91 彼方の銃声
遙か彼方で聞こえた銃声は気のせいではなく、空耳でもなく、事実だ。
そして銃声が聞こえたのであれば、銃弾が伴っているはずである。まさかこんな非常時に空砲を撃つ馬鹿はいないだろう。
ーヒュッーヒュンッ!
桜夜のすぐとなりで何かが空を切る…
ーカァン!ーカァン!
他よりも早く彼に辿り着きそうだった矢が二つ、空中で何かに弾かれる。もちろんその何かとは銃の弾丸のことだ。
それは矢と接触したことにより辺りに火花を飛び散らせ、曇っていた桜夜の顔を照らし出す。またその何か改め弾丸は矢の威力も相まってベクトルの向きを変え数度の兆弾を繰り返し遅れてやってくる他の矢の軌道もたちまち桜夜から逸らしていく。
「な……なにが……」
それをただ見ていることしかできなかった二人は唖然とするしかない。生を諦め、死を覚悟した桜夜にも矢傷はない。
『「待たせたな、って言うべきですかね」』
「………お前らか……遅いんだよまったく…」
『「氷瑠真姉弟…これより戦線に復帰します!」』
「ああ、よろしくな…」
通信機が作動し、そこから澪士と涼葉の声が聞こえてきた。いつもなら疲れた表情をしているところだが、こういう時は心底、心強いと感じてしまう。
そして後ろを任せられる者ができた今の桜夜に怖いものはなかった。つい先程までの死を覚悟した顔はどこへやら。
「お前らには、まわりの弓兵を頼みたい。やれるか?」
『「そこは「任せた!」でいいんですよ。あまり僕らの腕を舐めないで下さい」』
「そうか…なら任せた!」
剣を支えに立ち上がる桜夜。既にボロボロの身体に鞭を打ち、どうにか剣術の構えをとる。
「良かったわね、仲間に助けてもらえて」
「……そうだなこれが、これこそが仲間ってもんなんだよ。互いに助け合えるそんな存在こそ、仲間なんだ…」
「でも残念、ここで死ぬのは変わらないわよ」
「いや、変わる。俺は、俺達は、仲間であろうとしないお前達に……決して負けはしない!」
「……そう、なら仕方ないわね」
相変わらずの槍捌きと冷たい口調で彼女は桜夜に近付きながら槍を右手から左、背後、頭上の順に振り回し繰り返し移り変わらせていく。一辺の淀みもなく流麗に。しかし確実に槍は遠心力を乗せ速さを増し、その穂先は徐々に一撃の威力を増加させている。
「総じて、真槍とする!」
その一声で槍を中段に引き戻す。
「短期決戦だ! 皆、私に構わず矢を射れ!」
弓兵達への指示の声は返答がないまま霧散するが、全員にその命令が伝わったのは間違いない。
それを示すかのように…
ーズドドドドドドドッ
矢が飛来する。
ーカァン!ーカァン!
氷瑠真姉弟のライフルが火を吹き、矢を撃ち落とす。
無論、息つく暇などなく…
「はぁぁぁぁぁ…タァ!」
「ック…ゥゥゥゥオオオオオ!」
槍と剣が交わり激しい剣戟が繰り返され、打ち合い、かち合う。が、最初に戦った時よりも明らかに力が増しており、どうしても桜夜が押されてしまう。
「おい、これ膂力じゃねぇよな!? さっき言ってた真槍ってやつかッ?」
「馬鹿ですかあなたは。誰が敵に塩を贈るような真似をするのですッ」
最初のように三叉で剣を挟まれぬよう気を配り、勝ち筋を見いだすため思考を回転させていく。
(真槍……原理は不明だが、一撃ごとの威力が上がっているのは確かだ。これ以上、上がるようなら打つ手はないが……このままならなんとかいける!)
「何を考えているのか知りませんが、あなたは私には勝てませんよ」
織田軍が持つ初見殺しその名もスキル。それを使いこなしている彼らは、圧倒的優位性が保証されている。だがスキルを見破られ対策を立てられたとき、それは逆に弱点となってしまうだろう。何故ならほとんどの者がスキルを頼りに戦い、他の技量を伸ばそうとしないからだ。どうやら人間の怠惰は異世界においても変わらないらしい。
それらを考慮しての短期決戦なのだ。
そしてこと異能力戦において、桜夜の神秘は自己強化でしかないため攻撃型の異能とは相性が悪い。彼女のスキルを見切らなければ彼に勝機など皆無だ。
(けど、そんな逆境を覆してこそ主人公ってもんだよなっ!)
剣の鍔もとで穂先をいなし、続く一閃を柄で変則ガード、そこから刀身を翻し反撃に出るが槍に払われ、三叉で挟まれる寸前に剣を引く。そんな攻防が先程から何度も何度も繰り返されている。
また無差別に飛んでくる矢の数々を時に回避し、時に打ち落とし、残りは澪士達に任せ、ただひたすらにぶつかり合い鍔迫り合いに持ち込む。
「あなた、その深手で何故そこまで動けるのです!?」
「馬鹿なのかな?敵に塩を贈るわけないだろっ!」
桜夜の満身創痍での戦闘機動に驚きを隠せない未智咲は疑問を口にするが、桜夜は先程、未智咲が言ったことを返し、煽る。
打ち合うことで鳴り響く剣戟の音。激しさを増す動きに比例し舞う砂煙。乾いた銃声、矢が空を切る音、撃ち落とされ甲高く鳴る金属音。それらの中で二人は殺し合うが互いに一切の隙もなく、崩し崩され掠り傷だけが増えていく。
だが突如として異変は訪れた。
「ーヌァッ!………ガハッ……ァァァーーーーー!!」
未智咲の三叉槍の威力がまた一段と上がったのだ。その一撃により吹き飛ばされてしまう桜夜。ボロボロな状態の身体を酷使したため身体への負担と痛みは計り知れず、声も上げられずにもがき苦しむ。
気絶こそしなかったものの、眼の焦点が合っていないため意識は朦朧としているようだが。
「ぁぁぁぁぁーーーーーーーーぁぁぁ」
「ふう、やっと倒れたわね。これで、今度こそお終いよ」
桜夜の傍らで彼女は凍えるような眼を彼に向ける。
「まったく勘弁してほしいものだわ、真槍をレベル7にしないとびくともしないだなんて。おかげでかなり時間が掛かっちゃった」
「ゥゥゥゥーーーぁぁぁーーーーーー」
未智咲は髪を掻き上げ心底疲れたような表情をし一息つく。桜夜の呻き声を耳にしつつ、彼女はこの戦いを終わらせるべく自身の三叉槍を両手で持ち、彼の胸に突き立てようとした…
……まさにその瞬間……
ーガシッ
「……これを待ってたぜっ!」
「なんでっ!? さっきまでの………」
「あんなもん演技に決まってるだろ…」
桜夜は仰向けの態勢から右手だけ伸ばし、槍の柄をその手で掴んでいた。もう既に死に体のはずなのに、握られた槍は少しも動かない。
「………どんな原理かはまったくわからなかったが…やっぱり動き続けることで力を増す槍だったようだな……真槍ってやつはよ……」
「………………さぁ、どうかしらね」
この期に及んでまだしらを切る未智咲。未だに奥の手を隠し持っている可能性もあるかもしれないが、どちらにしろもう真槍の攻略法は桜夜に知られてしまった。
「……これで、俺の勝ちだな…」
「勝ち?……勝ちですって?………それは…ダメ………ダメよ……」
桜夜が自身の勝利を確信する中、未智咲は心の中で大切な何かが崩れ落ちる感覚を覚えていた。
「……ダメなの……私は…負けちゃダメなの……そう、私は勝たなくちゃいけないの!!」
「…おい、どうしたんだ!?」
槍から手を離し、後ずさりながら頭を抱え繰り返し呟く。その様は何かに苦しんでいるのではなく、まるで何かを恐れているかのように桜夜には思えた。
「こいつを……こいつを撃て!……誰でもいい!こいつを討て!……殺せ…」
怨嗟、畏怖、殺意、それらあらゆる負の感情が内包されたような絶叫が道路に木霊するが……
ーーーーーーーーーーーーーーー
誰も応えない。矢の一つも飛んでこない。
「…まさか………そんな…まさか………」
今思えばいつからだろうか、飛来する矢を気にかけなくなったのは。桜夜が吹き飛ばされた直後、いくらでもチャンスはあったはずなのだ。しかし彼女がとどめを刺さなければならなかった。あの時は戦闘後の興奮もあり不思議には思わなかったが……
「まわりの奴らなら、うちのスナイパーが全部片付けたぞ」
未智咲が認めたくない事実を無情にも告げる桜夜。彼は槍を投げ捨て立ち上がり、今度こそ決着を着けるべく彼女に向き合うのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
未智咲のスキルについてはいずれ詳しく書きたいと思っていますのでご安心を。
これからもよろしくお願いします!
そして銃声が聞こえたのであれば、銃弾が伴っているはずである。まさかこんな非常時に空砲を撃つ馬鹿はいないだろう。
ーヒュッーヒュンッ!
桜夜のすぐとなりで何かが空を切る…
ーカァン!ーカァン!
他よりも早く彼に辿り着きそうだった矢が二つ、空中で何かに弾かれる。もちろんその何かとは銃の弾丸のことだ。
それは矢と接触したことにより辺りに火花を飛び散らせ、曇っていた桜夜の顔を照らし出す。またその何か改め弾丸は矢の威力も相まってベクトルの向きを変え数度の兆弾を繰り返し遅れてやってくる他の矢の軌道もたちまち桜夜から逸らしていく。
「な……なにが……」
それをただ見ていることしかできなかった二人は唖然とするしかない。生を諦め、死を覚悟した桜夜にも矢傷はない。
『「待たせたな、って言うべきですかね」』
「………お前らか……遅いんだよまったく…」
『「氷瑠真姉弟…これより戦線に復帰します!」』
「ああ、よろしくな…」
通信機が作動し、そこから澪士と涼葉の声が聞こえてきた。いつもなら疲れた表情をしているところだが、こういう時は心底、心強いと感じてしまう。
そして後ろを任せられる者ができた今の桜夜に怖いものはなかった。つい先程までの死を覚悟した顔はどこへやら。
「お前らには、まわりの弓兵を頼みたい。やれるか?」
『「そこは「任せた!」でいいんですよ。あまり僕らの腕を舐めないで下さい」』
「そうか…なら任せた!」
剣を支えに立ち上がる桜夜。既にボロボロの身体に鞭を打ち、どうにか剣術の構えをとる。
「良かったわね、仲間に助けてもらえて」
「……そうだなこれが、これこそが仲間ってもんなんだよ。互いに助け合えるそんな存在こそ、仲間なんだ…」
「でも残念、ここで死ぬのは変わらないわよ」
「いや、変わる。俺は、俺達は、仲間であろうとしないお前達に……決して負けはしない!」
「……そう、なら仕方ないわね」
相変わらずの槍捌きと冷たい口調で彼女は桜夜に近付きながら槍を右手から左、背後、頭上の順に振り回し繰り返し移り変わらせていく。一辺の淀みもなく流麗に。しかし確実に槍は遠心力を乗せ速さを増し、その穂先は徐々に一撃の威力を増加させている。
「総じて、真槍とする!」
その一声で槍を中段に引き戻す。
「短期決戦だ! 皆、私に構わず矢を射れ!」
弓兵達への指示の声は返答がないまま霧散するが、全員にその命令が伝わったのは間違いない。
それを示すかのように…
ーズドドドドドドドッ
矢が飛来する。
ーカァン!ーカァン!
氷瑠真姉弟のライフルが火を吹き、矢を撃ち落とす。
無論、息つく暇などなく…
「はぁぁぁぁぁ…タァ!」
「ック…ゥゥゥゥオオオオオ!」
槍と剣が交わり激しい剣戟が繰り返され、打ち合い、かち合う。が、最初に戦った時よりも明らかに力が増しており、どうしても桜夜が押されてしまう。
「おい、これ膂力じゃねぇよな!? さっき言ってた真槍ってやつかッ?」
「馬鹿ですかあなたは。誰が敵に塩を贈るような真似をするのですッ」
最初のように三叉で剣を挟まれぬよう気を配り、勝ち筋を見いだすため思考を回転させていく。
(真槍……原理は不明だが、一撃ごとの威力が上がっているのは確かだ。これ以上、上がるようなら打つ手はないが……このままならなんとかいける!)
「何を考えているのか知りませんが、あなたは私には勝てませんよ」
織田軍が持つ初見殺しその名もスキル。それを使いこなしている彼らは、圧倒的優位性が保証されている。だがスキルを見破られ対策を立てられたとき、それは逆に弱点となってしまうだろう。何故ならほとんどの者がスキルを頼りに戦い、他の技量を伸ばそうとしないからだ。どうやら人間の怠惰は異世界においても変わらないらしい。
それらを考慮しての短期決戦なのだ。
そしてこと異能力戦において、桜夜の神秘は自己強化でしかないため攻撃型の異能とは相性が悪い。彼女のスキルを見切らなければ彼に勝機など皆無だ。
(けど、そんな逆境を覆してこそ主人公ってもんだよなっ!)
剣の鍔もとで穂先をいなし、続く一閃を柄で変則ガード、そこから刀身を翻し反撃に出るが槍に払われ、三叉で挟まれる寸前に剣を引く。そんな攻防が先程から何度も何度も繰り返されている。
また無差別に飛んでくる矢の数々を時に回避し、時に打ち落とし、残りは澪士達に任せ、ただひたすらにぶつかり合い鍔迫り合いに持ち込む。
「あなた、その深手で何故そこまで動けるのです!?」
「馬鹿なのかな?敵に塩を贈るわけないだろっ!」
桜夜の満身創痍での戦闘機動に驚きを隠せない未智咲は疑問を口にするが、桜夜は先程、未智咲が言ったことを返し、煽る。
打ち合うことで鳴り響く剣戟の音。激しさを増す動きに比例し舞う砂煙。乾いた銃声、矢が空を切る音、撃ち落とされ甲高く鳴る金属音。それらの中で二人は殺し合うが互いに一切の隙もなく、崩し崩され掠り傷だけが増えていく。
だが突如として異変は訪れた。
「ーヌァッ!………ガハッ……ァァァーーーーー!!」
未智咲の三叉槍の威力がまた一段と上がったのだ。その一撃により吹き飛ばされてしまう桜夜。ボロボロな状態の身体を酷使したため身体への負担と痛みは計り知れず、声も上げられずにもがき苦しむ。
気絶こそしなかったものの、眼の焦点が合っていないため意識は朦朧としているようだが。
「ぁぁぁぁぁーーーーーーーーぁぁぁ」
「ふう、やっと倒れたわね。これで、今度こそお終いよ」
桜夜の傍らで彼女は凍えるような眼を彼に向ける。
「まったく勘弁してほしいものだわ、真槍をレベル7にしないとびくともしないだなんて。おかげでかなり時間が掛かっちゃった」
「ゥゥゥゥーーーぁぁぁーーーーーー」
未智咲は髪を掻き上げ心底疲れたような表情をし一息つく。桜夜の呻き声を耳にしつつ、彼女はこの戦いを終わらせるべく自身の三叉槍を両手で持ち、彼の胸に突き立てようとした…
……まさにその瞬間……
ーガシッ
「……これを待ってたぜっ!」
「なんでっ!? さっきまでの………」
「あんなもん演技に決まってるだろ…」
桜夜は仰向けの態勢から右手だけ伸ばし、槍の柄をその手で掴んでいた。もう既に死に体のはずなのに、握られた槍は少しも動かない。
「………どんな原理かはまったくわからなかったが…やっぱり動き続けることで力を増す槍だったようだな……真槍ってやつはよ……」
「………………さぁ、どうかしらね」
この期に及んでまだしらを切る未智咲。未だに奥の手を隠し持っている可能性もあるかもしれないが、どちらにしろもう真槍の攻略法は桜夜に知られてしまった。
「……これで、俺の勝ちだな…」
「勝ち?……勝ちですって?………それは…ダメ………ダメよ……」
桜夜が自身の勝利を確信する中、未智咲は心の中で大切な何かが崩れ落ちる感覚を覚えていた。
「……ダメなの……私は…負けちゃダメなの……そう、私は勝たなくちゃいけないの!!」
「…おい、どうしたんだ!?」
槍から手を離し、後ずさりながら頭を抱え繰り返し呟く。その様は何かに苦しんでいるのではなく、まるで何かを恐れているかのように桜夜には思えた。
「こいつを……こいつを撃て!……誰でもいい!こいつを討て!……殺せ…」
怨嗟、畏怖、殺意、それらあらゆる負の感情が内包されたような絶叫が道路に木霊するが……
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誰も応えない。矢の一つも飛んでこない。
「…まさか………そんな…まさか………」
今思えばいつからだろうか、飛来する矢を気にかけなくなったのは。桜夜が吹き飛ばされた直後、いくらでもチャンスはあったはずなのだ。しかし彼女がとどめを刺さなければならなかった。あの時は戦闘後の興奮もあり不思議には思わなかったが……
「まわりの奴らなら、うちのスナイパーが全部片付けたぞ」
未智咲が認めたくない事実を無情にも告げる桜夜。彼は槍を投げ捨て立ち上がり、今度こそ決着を着けるべく彼女に向き合うのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
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