噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

84 調停機関上陸・織田軍出撃

『錨降ろーせー』
「了解、錨降ろします」

 調停艦である【信濃】の全区画に張り巡らされた連絡管の一つに航海長が声を入れる。その音は、やがて響きとなり艦の方々を駆け抜け、最後には船尾に届き、そこにいた航海科のスタッフが命令を実行に移す。

 ジャラララララッドボンッと音を立てて錨が海中に没し、海底に辿り着くまで鎖が放たれていく。錨が完全に海底に沈むと、鎖の出が止まった。

 それが両舷とも出来たことを確認すると、スタッフは先程とは逆の工程で、操舵室にいる航海長に知らせた。

『錨、降ろし終えました!』
「よし。航海終了、指揮系統を船長へ移行!」

 航海長は隣にいる船長に向けて敬礼し、後の業務を託した。船長は操舵室にある電子端末を操作しながら、先程航海長が言った台詞を反芻する。

『指揮系統、移行確認! 本艦は神戸港に入港。これより上陸準備を始める』

 艦内アナウンスを聴いた機関職員はロープを持ち甲板に出て、桟橋との接合作業を開始した。
 数秒後、甲板スタッフから連絡。

『桟橋、接合完了』
「接合終了を確認。上陸、いつでも出来ます!」

 船長は操舵室に設置してあった、巨大液晶パネルに敬礼する。普段は海図や気流関係の情報が映されているその液晶パネルには世界調停機関の長である《最強》が映っていた。

『ご苦労様です。我々の上陸後、この艦は避難所として設定しますので誘導の方、お願いします』

「了解しました。どうか、ご武運を」

 この後の打ち合わせを手短にすまし、良い結果を祈るように黙想する。そこで画面がブラックアウトし、通信が切れたことを告げるのだった。
 


 一方、その通信相手は【信濃】の最奥に位置する執務室で、最後の準備を今まさに済ませているところだった。

「…こいつを使うのも、何年ぶりだろうなぁ」

 そうやって嬉しいような悲しいような、複雑な感情が混じった言葉を手に持っているひし形のデバイスに掛ける。

 それはこの世界調停機関において、《最強》しか扱うことが出来ない特殊武装。通常時では決して使用することが出来ず、いつもは《最封》が管轄している封印倉庫に保管されている。

 非常時だからこそ使うことが許可され、正しく使えば戦場を無双できる代物だ。もちろん使い方を誤れば、これこそが厄災となり得るだろうが…。

「よろしくな、『ソロン』」

 言葉をいくらかけても内部の駆動音しか聞こえないが、それでも緊張を紛らわすことは出来たようだ。

 ずっと耳に響いていた心臓の鼓動が、少し落ち着いたのか《最強》はゆっくりと立ち上がり、必要なものを仕舞った大きめの鞄を肩に下げ、部屋のドアノブに手を掛け一度部屋を振り返る。もう既に昼になり日は真上まで昇っているため、部屋に陽光は入っていないが眩しげに目を細め、懐かしむかのように中を見渡す。

「次戻ってくるとしたら…それは……」

 続きは声に出さず、胸にとどめておく。そしてドアを開け、静かに立ち去る。それはまるで自分の痕跡を残さないようにしているかのようであった…




 そしてその頃、遠く離れた安土城城下では、出雲攻略部隊と新名神侵攻部隊が組織されている真っ最中だ。数日前までは新名神侵攻部隊のみ編成する予定だったが、再三にわたり信長がスキルによって顧みた結果、今のようになっている。

 各部隊の隊長は先述を矢帝、後述を未智咲が務めることになっている。双方とも織田五大将ということもあり、指揮能力や個々の戦闘力は申し分ないだろう。

 兵力も500と300が割り振られ、こちらも向こうの戦力を鑑みるに文句はない。あとはそれぞれの実力、運命というものが介在する事を頭に入れて冷静に判断を下せれば勝確だろう。

 だがもちろんこの世にそんな計算式はなく、この世の誰にもその解は求めることはできない。
 できるのは、ただ祈り、ただ考え、ただ繰り返すことだけだ。それ即ち信仰と試行錯誤である。

 だがどこにでも例外はあった。
それは、神々がもたらした願いの力。神秘。
それは、異世界から持ち込まれた覚悟への対価。スキル。
 これら二つは根本から違い、例え効果が似通っていても相反する。

 当然そんな特異な能力を持った者達が大半を占める此度の戦は、もう誰にも結末はわからないと断じられた筈だったのだが、もし最初から結末を決めていた者がいたとするのなら…それに至までの過程がどうであれある一定の間隔で布石が確実に打たれていたとするのなら…

「結果はもう既に定まっている…」

と、今回のシナリオを書き、誰にも悟られることなく、たった今最後の布石を打ち終えた…この戦の首謀者たる織田信長は確信に満ちた表情で言った。

 その顔は不敵に笑っており、その様は以前の、信長がまだ異世界へと行く前、戦国の世を暴れ回っていた頃の姿を彷彿とさせる。

「この戦が終われば、神も、儂もこの国にはいないだろう。だからこそ…この戦争には意味がある…」

 それは確定した結末か、はたまたそうあってほしいという願いの類か、ましてやその両方かはわからないが、信長はその先にあるものをただまっすぐに見続けている。

 それが例え自身の死に繋がることであったとしても…

『両部隊の隊長に命じる! 最終確認が済み次第、直ちに出撃せよ!!』

 信長の号令に対し城下はもの凄い気迫に包まれ、一足先に準備を終えた出雲攻略部隊が城を出た。遅れて新名神侵攻部隊も城を出発し、南下していった。

「ここからが激戦となるであろうな。いくら結末が定まっていようとそれだけは変わらん」

 その様子を見届けた信長は、一際険しい顔をしてただ一人呟くのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

 各勢力が続々と近畿に出陣し、これから戦いも目立ってくると思います。一体誰と誰が戦うのか、お楽しみに!

これからもよろしくお願いします!

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