噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

83 伊勢神宮本陣

 出雲から輸送機に乗り込み、1時間しないうちに三重に到着した尖兵団第一第二部隊一行は五十鈴公園に降り立ち、そこから徒歩で伊勢神宮の内宮に入った。無論、参拝は済ませてある。

 本来なら外宮から参拝すべきなのだが、そこには第三部隊が陣を張っているので、外宮への参拝はそちらに任せたようだ。

 因みに現在の伊勢神宮は出雲の高層ビル型の社とは違い、伝統的な唯一神明造である。
 なおこれから行われるであろう式年遷宮に伴い、従来の建築様式にするか、出雲のような高層ビル型にするか国会で揉めているのも事実である。今は式年遷宮本来の目的である弥生建築の継承に意義があるとして、伝統を守る唯一神明造の一派が優勢にあるようだ。

 そんな色々と問題を抱えた伊勢神宮の内宮その神苑では、桜夜をはじめとする各班長が設営したばかりのテントにて、偵察隊からの情報に目を通していた。

「今のところ目立った動きは無いようですが、まず間違いなく、三重の亀山と滋賀を結ぶ新名神、ここは押さえてくるでしょう」

 そう言って地図に記してあった新名神高速道路をなぞるのは班長の一人であり、桜夜にとっては同期でもある舞泉という男だ。

 そしてやはりこの道路に重きを置くのは、どちらの陣営も同じらしい。
 さらに桜夜はちらりと舞泉の方を見て、補足する。

「付け加えますと我々の場合、陸路が主体となるのでここを占拠されると、こちらからは攻めようがありません。もちろん、他の下道もあるにはありますがそこ戦場とした場合、住民の避難に時間をとられ侵攻に支障がきたすと思われます」

 その二人の考えに皆一様に納得の表情を浮かべるが、たった一人だけ賛同しない者がいた。
 後方支援を主とする第二部隊所属の逆井という名の男だ。桜夜と舞泉とは訓練時代からの付き合いである。

「ちょっと待ちいな、なんでわざわざ陸路を使うねん?空路でええんとちゃうんか?」

 部隊内でも特に目立つその関西弁で抗議し、逆井は先程の提案をした二人を見た。
 桜夜と舞泉の二人は互いに顔を見合わせ、視線だけで意思疎通し、代表して桜夜が口を開く。

「織田軍も馬鹿ではありません。当然空路の場合に備えて迎撃準備などしているでしょう」
「はは、何言うとんねん。あんな時代遅れの戦国大名やで?どうせ迎撃言うても、火縄銃に決まっとるやろw」

 逆井一人の笑い声が虚しくもテント内に響いているが、そんなのお構いなしに逆井は織田軍を嘲笑う。
 流石にこれに関しては呆れるしかない桜夜と舞泉。だがこのままでは埒があかない、と舞泉が立ち上がり溜め息混じりに答える。

「わかりませんか?迎撃が火縄銃であっても、なくても圧倒的に中間拠点を造れる陸路の方が有利なんですよ。あんたそれでも後方支援担当の第二部隊かよ……これだから馬鹿は……」

 桜夜達が織田軍を侮っているのかは定かではないが、進軍に陸路を選択したのはこの様な理由があったようだ。

 もちろんこれも納得に足り得る理屈となるのだが、舞泉の最後の一言が余計だった。それを侮辱と受け取った逆井は、激昂し地図を広げている机を叩く。

「おいテメェ、今なんつった?アァ!?」

 そのまま殴りかからん勢いで舞泉に迫るが、すんでのところで桜夜が止めに入る。

「落ち着けって、逆井!」
「こいつぁ俺を馬鹿にしたんだぞっ!!これが落ち着いていられるかっ!!」

「馬鹿に馬鹿と言って何がおかしい?」
「まだ言うか、てめぇ!!」
「舞泉も黙ってろよ!?」

 桜夜に羽交い締めにされている逆井を冷ややかな目で見ている舞泉は彼を鼻で笑って煽る。そんな態度にますます怒りのボルテージを上げていく逆井は、怒鳴り散らしながら突っかかっていき、二人の間に挟まれた桜夜はまたか、と苦笑いを浮かべていた。

(この二人が喧嘩するのは訓練時代から変わってないけど、非常時くらい弁えてほしいよなぁ)

 しかし、このままでは話が進まないので、今までその様子を傍観していた第一部隊隊長であるスサノオが腰を上げる。すると喧嘩している二人を除く全班長が一斉にそちらに注目した。

「おいおい、その辺にしとけ馬鹿共」
「やんのかてめぇ!!」「ああ!やってやるよ!」

 諫めの言葉を一言、言い放つが、普通に無視される。それどころか桜夜の制止を振り切って、取っ組み合っている始末だ。

「ゴホンッ」
「ゴラァァァァ!!」「ああああ!?」

 咳をして自身の存在をアピールする部隊長。だが無視。次に机をトントン。無視。二人の肩をトントン。無視……………ブチッ!!

 部隊長から何かが切れる音がした。周囲の班長達が青い顔をしているので、気のせいではないだろう。そしてそれを察していたのか一足先にテントから退避している桜夜。

「あーあ、アイツらやっちまったなぁ。流石にこれは師匠がブチ切れるわ」

 桜夜の予想通りテント内は…

「………………」

無言で腰に帯びている剣を抜き、絶大な殺意を込め上段に振りかぶるスサノオと…

「「!??!」」

流石にこの殺意には気付かざるを得ない二人。一気に顔を青ざめさせ仲良く後ずさって抱き合いガクガク身体を震わせている。

「馬鹿はいっぺん死ななきゃ、治らんようだなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「ひぃぃぃぃぃぃッ!!!!」」

 裂帛の気迫をもって剣を振り下ろす。剣に纏われた殺意の余波はテントを一刀両断し、舞泉と逆井を吹き飛ばした。もちろん、スサノオも手加減はしているので、神宮に傷一つ付くことはない。

「「ううわァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!」」

 彼等は夜空の星のひとつとなった………

「めでたし、めでたし…」

 キラリと光る彼等を見て、一人茶を啜っている桜夜。その光景はどこか趣があった。

「オイコラ、桜夜。何一人で和んでやがる、次はてめぇだっ!!」
「え?なんで?」

 だが我関せずを貫いていても、それはやってきた。どうやらスサノオはかなり腹に据えかねていたようだ。弟子に八つ当たりするくらいには。

「アイツら二人が喧嘩したのは、お前の監督不行き届きだろうが!バ・カ・弟・死ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「理不尽だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 桜夜も同じく空に輝く星となるはずだったが、彼にはとある特殊な神秘ちからが宿っていた。その名も『主人公補正』。その神秘ちからのおかげで桜夜はこの「理不尽にも師匠に殺されかける」という苦境を乗り越える事が出来る。

 そう今まさにこれまで眠っていた力、第四補正である《理不尽耐性》が発動したのだ。

「ふっ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 じつに半年ぶりに振るわれる師匠の剛剣に、桜夜は臆することなく白羽取りで迎え撃つ。スサノオの殺気は身体全身で受け止めてもなお、治まることを知らない。

「こいつぁ、キツすぎる!!」

 いくら理不尽に耐性を得たとしても、長時間、尋常ではない殺気を浴びせられ続けては話にならないのだろう。桜夜の額に脂汗が滲んでいる。

「っーーーーー!!」
「ーーーーーふんっ」

 桜夜が殺気に圧倒され気絶してしまう寸前で、スサノオが殺意を納めた。急に力が抜かれて呆気にとられ、膝を折ってしまう桜夜。

「今回は俺の勝ちだなっ」

 そう言って笑みを浮かべ、手を差し出してくる師匠に、桜夜は大人しく従い引っ張り上げられる。

「今度は負けねぇ」

 不貞腐れた様な台詞だが、彼のその表情はどこか嬉しそうだ。そうしてこの師弟は、仲良くテント跡に戻っていった。
 そしてこの後、空から帰ってきた舞泉と逆井の二人がテントを建て直したのは言うまでもない。

 そんなこんなでハチャメチャな尖兵団会議はどうにか終了し、作戦は当初舞泉と桜夜が提案したものを実行することが決定されるのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

 この話を書いていて思ったのが作者自身、シリアスにしたいのかギャグにしたいのかよくわかってないということです。(今更)
 まぁそこら辺は……勘弁して下さい、としか言いようがありません。

 次話もできるだけ早くお届けできるよう頑張ります!
これからもよろしくお願いします!

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