噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

81 開戦

 戦争というのは、何の前触れもなく始まってしまうものだ。例え宣戦布告をしていたとしても、それは戦争をするという相手側への報告でしかなく、具体的な開始の合図ではない。

 ならば今回、日本神話、調停機関連合と織田信長間の戦争はどうやって始まるのか、それはどちらにも属さないあの男が一枚噛んでくるのであった。


 現在の日本の首都、出雲。そこには数え切れないほどの高層ビル群がそびえ立っていた。実はこれ全て、かつて島根県中にあった神社である。そして高層ビルの為、鳥居などは見当たらないが日本神話の神々のほとんどがここに住んでいる。

 そのビル群の一画にて。

「チッ……大分到着が遅れちまったが、どうにか辿り着いたな」
「おい、早くしねぇと…戦争が始まっちまうぞ…」

 ビル内の通気口に入り込み、周囲の気配や時間を確認し冷や汗を垂らす武器商人。しかしそんな事お構いなしに隣にいる殺戮者は、ここから20メートルくらい先にある標的を冷ややかな目で見ていた。

「どうせ、あれを破壊すれば即戦争が始まるだろうよ。まぁ…俺としちゃ…自分が開戦の合図になるってのは、クソみてぇな気分だがな」
「それでも、このまま戦争が始まるより世界への被害は少ないんだろ?」
「確かにそうだが……」

 殺戮者は依然として気だるそうな雰囲気を醸し出す。

「あぁ……仕方ねぇか……」
「準備は、出来たようだな」

 嫌々だが、確かに覚悟を決めた殺戮者を見て、武器商人はそう言った。殺戮者はそれに頷き、静かに【神薙の剣】を抜く。

 途端に解放されるのは、神々への圧倒的殺意と敵意。
それらを合図に二人は、通気口を蹴破って一気に武器庫へと侵入した。

「壊せるだけ、壊すぞ!」
「おうよ!」

 二手に分かれて片っ端から兵器という兵器、また重火器という重火器を破壊していく。すると即座に内部に装填されていた火薬に破壊時の火花などが引火し、小規模な爆発を次々引き起こしていった。

 僅か数秒ばかりで、ビル内にあった武器庫は火の海と化し、天井などに設置されたスプリンクラーの自動消火機構も全く意味を為さない。

 二人は目的を達成し、裏口で合流。そこから奥の通路に入る。

「以外と簡単だったな…」
「何言ってやがる、地獄はここからだぜ?」

 武器商人がそんな感想を零すが、殺戮者の集中が切れることはなく、彼はそのまま真っ直ぐ前を見ていた。いや、この場合睨んでいると表現した方がいいだろう。

「さぁ、おいでなすった……神々の尖兵共がよぉ」
「ですよねーーだから【神薙】はやめろって言ったんだ!」
「おい、待て。お前そんなこと一言も言ってないだろ!」

 どこまでも不敵に笑う殺戮者に対し、武器商人はでたらめを言いつつ青い顔をする。

  またなぜ、ここまで武器商人が怯えているのかというと、逃亡生活中に大勢の死神に追い回された事があるからだ。その時、どこまでも追い続けてくる死神達は武器商人にトラウマか何かを植え付けてしまったようで、今ではすっかり団体恐怖症である。

「もはや、いじめだと思うんですけど!? ねぇ!?」
「あ~はいはい。ソウダネ」

 軽くパニックに陥る武器商人とそれをどうでも良さそうに見ている殺戮者。

 「貴様らぁ!! よくも我々の武器の数々をっ!! 討ち取ってくれるhーーーー」
「うるさい………あとお前等も……」

 こちらに怒声を飛ばしながら向かってきた尖兵の一人を片付け、それに追いついてきたその他5名も瞬殺する。

「さてクソ神どもが来る前に、さっさとずらかるぞ…」

 【神薙】を肩に乗せて武器商人の方を振り返って合図し、足早に裏口から武器庫を去ろうとする殺戮者。そしてそれに追随しようと武器商人が動いた瞬間、ビル内に警報音が鳴り響く。

 すると赤い警告灯が光り出し、武器庫のシャッターが閉まりだした。

「急ぐぞ!」
「ああ!」

 二人は走り出して、残り20メートルの距離を一気に詰める。シャッターはあと5秒もあれば閉まりきってしまうが、その前に殺戮者が一度【神薙】を鞘に納めて抜刀の構えをする。

鬼刃きじん一刀流…抜刀術・裁鬼さばきッ!!」

 駆けながらも速度を一切落とすことなく、逆にその速さを利用して殺戮者は鞘から【神薙】を高速で抜き、一閃。

 その刀身には、禍々しい邪悪なオーラが一瞬だけだが確かに宿っていた。刀を振り抜き、シャッターを切断しつつ走り抜ける。その先には…

「待っていましたよ……人ごときが私の社で何をしているのかと思えば……まったく腹立たしい!!」

 目の前に現れた神の一柱は、怒りを露わにして手にしていた槍を構えた。そしてそのまま突撃してくる。

「ハッてめぇは、北海道にいた雑魚とは違うらしいなぁ」
「あの様な左遷された愚か者と比べられては困ります。大人しく死になさい!」

 初めて神を殺した時を思い出し、あの時とは違う緊迫した状況でも一笑する殺戮者は、槍の穂先を軽く見切って避けながら反撃の隙をうかがう。

  神の方は、殺戮者が殺した神に心当たりでもあるのか、比較された事で更に怒りを強めていく。

「ちょこまかと鬱陶しい!」

 神がただ突くだけでは倒せないと判断したのか、一度槍を引き戻し瞬時に神々しい気を槍に纏わせるが、その一瞬はどうみても隙であった。
 そしてそんな絶好のチャンスを逃す殺戮者ではない。

「鬼刃……斬鬼ざんきッ!!」
「なっ!?」

 隙ができ、例え斬られたとしても神にとって本来それは痛くも痒くもない筈でそれ故に神は慢心したのだ。
 しかしそれが命取りとなった。殺戮者の持つ刀はただひたすらに神話を破壊し否定するのだから。

「き、きさ…ま………」

  たった一撃、されど一撃、殺戮者が神を殺すには十分過ぎるのだ。神はその場に倒れ伏し、動かなくなった。

「鬱陶しいのはてめぇだ… 行くぞ武器商人…」
「あ…ああ!」

 数秒の事で呆然とするしかない武器商人は、殺戮者に応じつつも動くのが少し遅れた。


 
 外にでると、出雲中が慌ただしくなっていた。

 先程から警報がそこら中に響き渡り、尖兵らが街中を絶え間なく走っている。その中の一人、九重桜夜はやっとのことで出雲に辿り着いたというのに、帰って早々戦争が始まったことに辟易していた。

「休みが……欲しい……なんで!? なんで今日なんだよ!」
「仕方ねぇよ……あーあ、これまた派手に暴れやがって………」

 隣にいるスサノオも街の被害を見て、げんなりしている。

「取り敢えず、うちの班と合流しましょう」
「そうだな…」

 桜夜は懐から無線機を取り出して、自身がリーダーを務める班に連絡をとった。

『もしもし、こちら氷瑠真弟~異常な~し ブチッ』
「…………切れた!?」

 班員のふざけた態度に唖然としてしまう師弟コンビと、この様な非常事態でもいつものマイペースを貫く例の姉弟。
 尖兵団・第一部隊桜夜班は既に別の意味で壊滅状態だった。

 気を取り直してもう一度。

『あ、もしもし隊長さん? さっきはごめんね~ で、何か用?』
「用件もなにも、今起こってることぐらい知ってるよな!?」

 知っていて欲しいという願望を込めて、尋ねるが……

『え?今起きてること? ……………戦争、とか?』
「………ああ、そうだ…」

 桜夜はもう呆れるしかなかった。しかしここで諦めたら完全にあの姉弟が戦争に参加しないので、粘り強く説明するしかない。

「現在、首都出雲に何者かが侵入し、武器貯蔵庫を襲撃。その後に管理を担当していた一柱を殺害して逃走。そして日本神話はこれを織田軍の攻撃と認識。我々、桜夜班は司令部の命令に従い、織田軍本拠地、安土城に侵攻を開始する」

『あら…もう始まっちゃたのね~ わかりました。私達、氷瑠真姉弟も合流します』

「合流地点は、吉田飛行場だ。1時間後に会おう」
『了解!』

 どうにか事の全容を伝え、無線を切る。そして桜夜達も飛行場に向かうべく動き出す。


 こうして遂に神々の再降臨後、初の大規模戦争の火蓋が切って落とされた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

いろんな前準備を経て、遂に始まりました。織田信長編。
 今まで、各地で動いていた主人公格のキャラクター達が一堂に会してそれぞれの思いの為、戦います。

 そして、お気付きでしょうか?
今回、なんと殺戮者が技を使っているのです。いつぞやの人物紹介で書いたとおり彼の黒歴史ノートに書かれていた剣術流派です。この戦争でも活躍することでしょう。

これからもよろしくお願いします!


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