噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神
79 こちら太平洋上 その3
結局のところ、壱月は変身する事が出来なかった。
あの後、何度か発声練習をし、変身ポーズも研究したが、端末がそれに応えることはついぞなかった。
開発者である《最新》は、「ふむ…まだ汎用化は難しいようだ」と言って、自身の研究室へと帰っていった。傍若無人とは、彼のような人を言うに違いないだろう。
そしてデッキでまた1人に戻った壱月は《最新》が去っていった方を何気なく見つつ呟く。
「はぁ…やっと解放された~~~」
そんな言葉がため息と共にでるが、すぐ後に「仮○ラ○ダーにもなってはみたかったが……」と小声で呟いていた。
「しかし、夢を諦めなかったのは俺だけじゃなかったんだな…」
壱月はどこか嬉しそうに、すっかり日が落ち、夜になった空を見上げている。
彼自身、今では得意技である『牙○』を憧れと努力だけで習得したのだ、だから何か感じ入るものがあったのかもしれない。
「お!壱月君じゃん、こんなとこで油でも売っているのかい?」
ふと、声がかかる。壱月はサボリがバレたかと思い、とっさに【死雨】の手入れを始めるが、どうやらその必要はなかったらしい。
「あ!《最高》さん!もう戦争の準備は片付いたんですか?」
《最高》と呼ばれたその男は、機関内では最も身長が高く、どこにいてもとにかく目立つ。それ故に壱月は久方ぶりに会った彼のことがすぐにわかったのだ。
そんな《最高》は壱月に向かって軽く手を振りながら、デッキの手すりに沿ってこちらへ進んできた。壱月から二歩ほど離れたところで止まり、訳もなく海を見る。
「いいや、まだだ。僕もちょっと外の空気を吸いたくてね」
そう言って、取り敢えず視線を上に向ける。星が煌めいているのを視界いっぱいに捉えて、深呼吸。
「はぁ、やっぱりここは落ち着くねぇ~~君もそう思うだろう?」
「はい、絶好のサボりスポットっすよ」
「ああ同感だ…………この場所を造った《最新》には本当感謝だなぁ」
「!?」
《最高》のそんな呟きで、すぐさまリラックスモードから我に返る壱月。《最高》の方を見て、今疑問に思ったことを聴いてみる。
「《最高》さん、」
「なんだぁ~?」
「このデッキを造ったの《最新》だったんですか?」
「へ?何言ってんだ?」
「だから、ここを造ったのは《最新》なのかって聴いてるんです!」
壱月にそんな質問をされ、キョトンとしている《最高》。数秒後彼は何を今更といった感じで、口を開く。
「壱月君、《最剣》や《最強》から教えられているだろ?この艦のことや《最新》が造った物のことくらい」
「えっ?……あーーいつぞや教えるとか言って、結局何も聴かされてないんですよ(…その言い方だと艦と《最新》にはなんか関係があるように聞こえるが…まぁいい…)この際、教えてくれませんか?」
壱月は以前、《最剣》が言っていたことを思い出し、同時にそれについて自分からも何も聴いていなかったことも思い出す。《最高》の言葉からある程度は察することは出来そうだが、やはり気になるものは気になるので、このチャンスを逃すまいと今聴くつもりのようだ。
「…そ、そうだったか…それはすまなかったな。わかった、この機会に教えておこう!」
「お、お願いします」
《最高》は頷き、《最新》の功績について語り出した。
「彼…いや彼等は5年の歳月をかけて、この《信濃》という艦そのものを建造したんだ。彼等の神秘は知ってるかい?」
「…心当たりはあるのですが…すいません、その前に彼等って誰ですか?」
「ああ、説明が下手ですまないね。彼等というのは、今いる《最新》とその父親と祖父の事だ」
「……なる…ほど?(なんで親子が出てくるんだ?世界調停機関で親子が採用されるなんてかなり確率低いだろ。それにいくら親子でも神秘なんて願いによって全然変わってくるものだし…あるとしたらそれは…)」
「あーそうだね~今代《最新》と先代《最新》と先々代の《最新》と言ったらわかるかな?それでも難しいなら彼等はかなり特別な神秘に魅入られていたとしか、説明できないけど…」
「…(かなり特別?)ああ!そういう事ですか。つまり彼等の神秘というのは代々継承出来るものだったってことですね?」
「お見事。その通りだよ、彼等は夢によって神秘を受け継がせることが出来たんだ。親子で血縁があるという制限があったみたいだけどね。じゃ、話を戻すよ…」
「はい…」
「最初、先々代の《最新》が神秘に魅入られ、その力で今の《信濃》の基盤のほとんどが完成されていた。そう彼はたった一人で通常航海が出来る程に仕上げたんだ。だがそれと同時に彼の夢は終わってしまった…」
「じゃあ今、飛空艇として運用できているのは…」
「それは先代の《最新》に神秘が継承されたからだ。彼は先々代の夢とは違った独自の夢と意志を見出し、見事飛空艇として完成させたんだ。その後、今の《最新》に受け継がれ、艦が何度か改修されて今があるんだ」
「なるほど、そういうことだったんすね」
「だからこそ僕達、機関の構成員は《最新》に敬意と感謝を忘れてはいけないんだ」
「大切なお話、ありがとうございます!」
「いや、いいんだ…暇つぶしに昔話はちょうど良いからね。さて、僕はこれで戻るよ、またね」
そう言って《最高》はデッキをあとにした。
また一人に戻った壱月。彼のサボりはまだまだ続きそうだ。
「い・つ・き・さ・ん?」
「ハッ……ソノコエハ!?」
《最高》の話を脳内で反芻しながら星を眺めていた壱月に突然、後ろから声がかけられる。この部分だけ見ると先程と一緒だったのだが、その声にはさっきとは全然違った感情が混ざっていた。
壱月は油を差し忘れた人形の首のような動きで振り返る。
巴音さん、相当怒ってらっしゃいます。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
新キャラの《最高》を説明役に、いつかしたかった《信濃》の話ができてよかったです。《最新》《最高》の二人は戦争でも活躍してもらうつもりなので、お楽しみに。
次回は死神側の物語です。それが終わればいよいよ開戦させる予定です。
これからもグダグダするかもしれませんが、気長に待っていて下されば幸いです。よろしくお願いします!
あの後、何度か発声練習をし、変身ポーズも研究したが、端末がそれに応えることはついぞなかった。
開発者である《最新》は、「ふむ…まだ汎用化は難しいようだ」と言って、自身の研究室へと帰っていった。傍若無人とは、彼のような人を言うに違いないだろう。
そしてデッキでまた1人に戻った壱月は《最新》が去っていった方を何気なく見つつ呟く。
「はぁ…やっと解放された~~~」
そんな言葉がため息と共にでるが、すぐ後に「仮○ラ○ダーにもなってはみたかったが……」と小声で呟いていた。
「しかし、夢を諦めなかったのは俺だけじゃなかったんだな…」
壱月はどこか嬉しそうに、すっかり日が落ち、夜になった空を見上げている。
彼自身、今では得意技である『牙○』を憧れと努力だけで習得したのだ、だから何か感じ入るものがあったのかもしれない。
「お!壱月君じゃん、こんなとこで油でも売っているのかい?」
ふと、声がかかる。壱月はサボリがバレたかと思い、とっさに【死雨】の手入れを始めるが、どうやらその必要はなかったらしい。
「あ!《最高》さん!もう戦争の準備は片付いたんですか?」
《最高》と呼ばれたその男は、機関内では最も身長が高く、どこにいてもとにかく目立つ。それ故に壱月は久方ぶりに会った彼のことがすぐにわかったのだ。
そんな《最高》は壱月に向かって軽く手を振りながら、デッキの手すりに沿ってこちらへ進んできた。壱月から二歩ほど離れたところで止まり、訳もなく海を見る。
「いいや、まだだ。僕もちょっと外の空気を吸いたくてね」
そう言って、取り敢えず視線を上に向ける。星が煌めいているのを視界いっぱいに捉えて、深呼吸。
「はぁ、やっぱりここは落ち着くねぇ~~君もそう思うだろう?」
「はい、絶好のサボりスポットっすよ」
「ああ同感だ…………この場所を造った《最新》には本当感謝だなぁ」
「!?」
《最高》のそんな呟きで、すぐさまリラックスモードから我に返る壱月。《最高》の方を見て、今疑問に思ったことを聴いてみる。
「《最高》さん、」
「なんだぁ~?」
「このデッキを造ったの《最新》だったんですか?」
「へ?何言ってんだ?」
「だから、ここを造ったのは《最新》なのかって聴いてるんです!」
壱月にそんな質問をされ、キョトンとしている《最高》。数秒後彼は何を今更といった感じで、口を開く。
「壱月君、《最剣》や《最強》から教えられているだろ?この艦のことや《最新》が造った物のことくらい」
「えっ?……あーーいつぞや教えるとか言って、結局何も聴かされてないんですよ(…その言い方だと艦と《最新》にはなんか関係があるように聞こえるが…まぁいい…)この際、教えてくれませんか?」
壱月は以前、《最剣》が言っていたことを思い出し、同時にそれについて自分からも何も聴いていなかったことも思い出す。《最高》の言葉からある程度は察することは出来そうだが、やはり気になるものは気になるので、このチャンスを逃すまいと今聴くつもりのようだ。
「…そ、そうだったか…それはすまなかったな。わかった、この機会に教えておこう!」
「お、お願いします」
《最高》は頷き、《最新》の功績について語り出した。
「彼…いや彼等は5年の歳月をかけて、この《信濃》という艦そのものを建造したんだ。彼等の神秘は知ってるかい?」
「…心当たりはあるのですが…すいません、その前に彼等って誰ですか?」
「ああ、説明が下手ですまないね。彼等というのは、今いる《最新》とその父親と祖父の事だ」
「……なる…ほど?(なんで親子が出てくるんだ?世界調停機関で親子が採用されるなんてかなり確率低いだろ。それにいくら親子でも神秘なんて願いによって全然変わってくるものだし…あるとしたらそれは…)」
「あーそうだね~今代《最新》と先代《最新》と先々代の《最新》と言ったらわかるかな?それでも難しいなら彼等はかなり特別な神秘に魅入られていたとしか、説明できないけど…」
「…(かなり特別?)ああ!そういう事ですか。つまり彼等の神秘というのは代々継承出来るものだったってことですね?」
「お見事。その通りだよ、彼等は夢によって神秘を受け継がせることが出来たんだ。親子で血縁があるという制限があったみたいだけどね。じゃ、話を戻すよ…」
「はい…」
「最初、先々代の《最新》が神秘に魅入られ、その力で今の《信濃》の基盤のほとんどが完成されていた。そう彼はたった一人で通常航海が出来る程に仕上げたんだ。だがそれと同時に彼の夢は終わってしまった…」
「じゃあ今、飛空艇として運用できているのは…」
「それは先代の《最新》に神秘が継承されたからだ。彼は先々代の夢とは違った独自の夢と意志を見出し、見事飛空艇として完成させたんだ。その後、今の《最新》に受け継がれ、艦が何度か改修されて今があるんだ」
「なるほど、そういうことだったんすね」
「だからこそ僕達、機関の構成員は《最新》に敬意と感謝を忘れてはいけないんだ」
「大切なお話、ありがとうございます!」
「いや、いいんだ…暇つぶしに昔話はちょうど良いからね。さて、僕はこれで戻るよ、またね」
そう言って《最高》はデッキをあとにした。
また一人に戻った壱月。彼のサボりはまだまだ続きそうだ。
「い・つ・き・さ・ん?」
「ハッ……ソノコエハ!?」
《最高》の話を脳内で反芻しながら星を眺めていた壱月に突然、後ろから声がかけられる。この部分だけ見ると先程と一緒だったのだが、その声にはさっきとは全然違った感情が混ざっていた。
壱月は油を差し忘れた人形の首のような動きで振り返る。
巴音さん、相当怒ってらっしゃいます。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
新キャラの《最高》を説明役に、いつかしたかった《信濃》の話ができてよかったです。《最新》《最高》の二人は戦争でも活躍してもらうつもりなので、お楽しみに。
次回は死神側の物語です。それが終わればいよいよ開戦させる予定です。
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