噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

64 封鎖地帯知床

 夏になり低地の雪が完全に溶け、緑が生い茂る大自然となった知床半島。
壱月達のおかげで魔物の発生は無くなり、ここは本来の世界自然遺産としての面影を取り戻していると思われた。

 しかし、現在ここは封鎖地帯になっていた。

「あ~あ、早くこの任務終わんねーかな~ なぁ姉ちゃん?」
『澪士くん、それもう6回目だよ?』

 湖の近くに張られたテントの前で、椅子を出して座っている少年が先程から虚空に向かって愚痴をこぼしている。
愚痴の内容から察するに、それは『姉ちゃん』と呼ばれている人物に話しかけていると思われるのだが、少年の周りには誰もいない。かといって電話などで会話しているのかと思えど、彼の手に電子機器のような物は握られていなかった。だが、確かに声だけは聞こえている。

「早く家に帰りて~よ~」
『それも6回目よ、澪士くん?』

 周囲に誰もいなくとも会話は続けられているようだ。しかもこの少年の愚痴に対して、しっかりつっこんでいるあたり、『姉ちゃん』とやらはかなり面倒見がいい人なのかもしれない。それでも相変わらず姿形は一切見えないが。
 そして『姉ちゃん』の台詞から察すると、どうやら少年の名前は「澪士」というようだ。

「なー隊長。おれ早く帰りたいんだけどー?」

 次に、その愚痴は「隊長」と呼ばれる人物に向けられる。
今度はしっかり無線機らしき物を懐から出して手に持っていた。
それと先程、『姉ちゃん』と話していた時に比べ、今はかなり棒読みだ。
 澪士と呼ばれた少年は、未だ「隊長」には心を許していないようにみえる。

「山に住む錬金術師が出てきてくれるまで、待っていて下さい」

 隊長と呼ばれた男は今、テントから1キロ離れたところにある見張り台にいた。
彼は双眼鏡を左手に持ち山を見て、無線を左肩と左頬で挟み澪士と会話し、しかも右手で箸を使ってカップ麺を啜っていた。かなり忙しそうだ。
さらに部下には棒読み+ため口で愚痴られ、こちらからは敬語で話しているので、距離が近いのか遠いのかわからない状態だ。
 だがその態度が気に障った感じもなく、彼はただただ麺を啜っている。

 そしてその隊長は待ち続けていた。知床の山中に住む錬金術師が姿を現すのをただ待っていた。



 隠蔽術式や人除け、魔除けの結界が張り巡らされた知床の山々。
その中でも特に人目に付きにくい場所に建っている、昔ながらの趣ある二階建ての洋館。
そこの一室で今もソファに座り、愛用しているT字杖を丁寧に手入れしているのは、錬金術師である峰影シマだ。
 そして、テーブルを挟んで彼に向かい合うようにソファに座っている青年が二人。
彼等は出された紅茶を飲みつつも、峰影の説得を試みていた。

「峰影さん。お願いです、一緒に来てください!」
「断る」
「どうしてだよ、おっさん。ここにいたら危険なんだぞ?」
「…おっさんて………僕まだ33歳なんだけど……あ! 
 確か今日僕の誕生日だったっけ……なら34か……それでもおっさんはないだろ………」

 説得している二人を置き去りにして、峰影はぶつぶつと何かを呟いていた。
もちろんこれしきで諦めるわけにもいかず、二人は説明するための決め手となる言葉を探す。

「峰影さんがこの知床を大事に思っているのは理解しているつもりです。
 でもだからこそ、あなたがいなくなると困るんですよ!」
「そうだぜ、おっさん。大人しくオレ達に着いてきてくれ」
「《最弱》君、《最低》君。
 世界調停機関からわざわざやってきてくれた君達二人には悪いが、僕は知床ここから離れるわけにはいかないんだ」

 峰影のその言葉からは一歩も引く雰囲気がないことを悟らせるが、《最弱》と《最低》も任務で着ているのだ。こちらも引くわけにはいかないといった様子だ。

 第一、何故こんな事になっているのか、というと…
だがまずは状況説明をする前に勢力図を簡単に言い表すとする。
 外にいる連中は、出雲の神々の尖兵。
 そして今、峰影と話しているのが、お馴染みの世界調停機関だ。
この二勢力の目的は、尖兵達の場合、峰影の捕縛。《最弱》達の場合、峰影の保護となっている。
 そしてこの様なことになっている主な原因は、峰影が殺戮者の共犯者だからだ。
以前、殺戮者に依頼され対神格武装用の神鉄アダマンタイトインゴットを錬成した峰影は、神話勢力からは文字通り神敵と位置付けられ、調停機関からは要注意人物または到達者の資格を持ちし者として目を付けられたのである。
 それ以降、この知床は封鎖状態に陥り、外部との連絡が一切取れない有り様だ。恐らく、外に出ようとすれば神々の尖兵に一瞬の内に捕まってしまうだろう。
 そんな中、尖兵の目を《最低》の神秘とともにかいくぐった《最弱》は、こうして峰影を説得し安全な機関本部に来てもらおうとしているのである。まあ、第三者の視点から見ると、世界調停機関がなかなか胡散臭く見えてしまうが…

 何度も説得されているのだが、峰影は一向に首を縦に振らない。周りを封鎖され、緊張でもしているかと思えばそんなことはなく、家の中で超優雅にくつろいでいる。そんな姿に初め《最弱》は、かなり驚いていたりしていたり《最低》は大爆笑していた…

 そんなこんなで、《最弱》達が来てもう三日経つ。
二つの勢力はもう、我慢の限界だった………


いつもお読みいただきありがとうございます。
フォローやいいねもありがとうございます。

 再登場の峰影、いかがでしたでしょうか? 
今回は信長討伐編の前の下準備って感じです。そのための新キャラもさわりだけ書けたと思います。
 時系列的には壱月達がパルミラに行っている時です。
 そして8月9日は峰影の誕生日ということもあり、記念に書いてみました。
誕生日キャラの話を毎回書くのは、無理かもしれませんが、時間があれば書いていきたいと思っています。

これからもよろしくお願い致します。

 

コメント

  • 鬼崎

    コメントしていただきありがとうございます!
    そして不愉快にさせてしまったのなら申し訳ありません。
    これからもご期待に添えるよう、努力いたします!

    0
  • ノベルバユーザー206733

    好き嫌いだと思うけど何故かイライラしてしまった...

    1
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