噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

59 パルミラへの帰り道

 遺跡でキーシュタインとクレトの話を聞いた、壱月達は一旦、二人を連れ急ぎパルミラへと帰還することにしたようだ。皆、無言でただひたすらに砂漠を歩いているだけなので、空気が少しピリピリして緊張を孕んでいる感じだ。
何故、パルミラに帰還することにしたのかというと。《最目》曰わく、「一神派」が関わっている土地に長時間滞在しているのは極めて危険なため、とのことだ。
《最目》は「一神派」についての詳しいことは帰りに話すと言っていたので、何も知らない壱月はとりあえず黙って歩いているのだが…一向に話が始まる気配がなかった。
それ故にこの五人の中で一番緊張感が無い壱月は、思い切ってこちらから聞いてみることにしたようだ。
好奇心でウズウズしている壱月を止められる者はこの場にはいなかった。

「なあ《最目》、結局「一神派」ってなんなんだ?」
「………ああ、そう言えば帰りにその話するって言ってたな…」

暗く少し寒い砂漠を突き進んでいた《最目》は壱月の質問に対して、足を止めずに振り返る。

「…………ごめん。忘れとった…」
「えっ!?」

《最目》の言葉に素で驚いている壱月。対する《最目》は素で忘れていたのか、はたまた喋りたくなかったのか今ではわからない。一体、台詞の両端にあった間は何だったのだろうか…

(壱月様、その調子だとKYになってしまいますよ…)

壱月の隣を歩いていた巴音がふとそんなことを考える。引いてはいない様だが、名前が様付けになっていた…
 まあ、第三者から見たのなら巴音の心の声も頷けるだろう。何故なら、今彼等は深夜の砂漠を休みなく歩いているのだから。しかも、壱月以外の面々には疲労が感じられる。そんな中、特に疲れていそうな《最目》に説明を求めるあたり、KY認定されても仕方がないかもしれない…

 だがしかし。壱月は無邪気?な笑みとともに、説明を求めている。
だがよく見ると、悪魔のような笑みが見え隠れしていそうな…どこか疑問のある笑み。
そして《最目》の身体に追い討ちをかけるように、説明させようとする。
壱月のその笑みに何か裏を感じ取った、というか見えた気がした《最目》は帰ったらな、と提案してみるが…

「今がいい…」

その一言で、《最目》の予感は確信に変わる。

(こいつ、何か企んでやがる………何故このタイミングで?俺、何かしたか?)

いつしか《最目》の心の中では、いつもの丁寧口調が崩れ、少し荒くなっていた。そして原因についても少し気になったようだが…

(…あ。まさか、あのイタズラがバレたのか?…なるほどそれだと納得できる…)

無事、今この状況を引き起こした原因にたどり着いたようだ。まさかあのイタズラがこんな結果に繋がっていようとは、いくら未来を見ることができる彼でも思わないだろう。

(まあ、いずれにせよ説明しなきゃいけねぇからなぁ…………………そこに悪意が絡んでいようと…)

どうやら《最目》はここで割り切ることにしたらしい。一応、大人の対応だ。
 だが、説明をする前に数秒だけ第二制限『千里眼ー分岐未来ー』を断片解放、未来で壱月がイタズラの件でいじられている場面に焦点を合わせ、現在いま仮定未来そこに結び付けるための条件を探し、おのれがどう行動すべきかを頭に入れる。 一瞬のうちに、子どもの行動に逆戻りした。さっきの大人の対応は何だったのか…

「ふう……じゃあ、「一神派」について説明するとしよう」
「お願いします!」

やってやったぜ的な息をもらし、何事もなかったかのように本題に入る。対する壱月も邪気を感じさせない真摯な声で返事をし、一切の邪念を感じさせない目で《最目》の話を聞く姿勢をとる。隣の巴音も真面目に聞くようだ。

 一方、キーシュタインとクレトは《最目》が説明をしている間、索敵に意識を向ける。キーシュタインは一度、自身の神秘を発動し、現在の周囲3キロ圏内の状況を把握する。その結果、敵はいなかったらしくそれをクレトにも伝えるが、この二人はここにいる誰よりも砂漠ここを理解しているため、決して油断することはない。
砂漠とは、刻一刻と状況を変化させるものなのだ。
だが、キーシュタインの神秘『星の記憶』はあまり偵察に向いていない(莫大な情報量の場合、脳に負荷がかかる恐れがある。先程は3キロ圏内の状況を確認していたが、本人はあれでもかなり消耗してしまう)ため、ここはクレトの経験と直感に頼ることになるだろう。


〔~~説明中~~〕

 
 「一神派」について
 一神派、その起源は聖地イェルサレムで生まれた3つの宗教が元になっている。まあ、これは誰でも知っている一般常識だろう。なので問題はここからだ。この3つの宗教が一つにまとまらざるえない原因、それは神々の再降臨が起こったためだ。34年前、世界各地に神話の神々が降臨した現象、それが神々の再降臨。
 だが、ここで一つ目の問題が発生した。そう、この3つの宗教が長年信仰し、崇拝し続けてきた唯一神だけが降臨しなかったのだ。これにより、教皇や預言者の権威が失墜し、さらに神々の統治が始まった為、3つの宗教は衰退化していくことになる。だが、神々はこのまま衰退し自然消滅していくはずだった3つの宗教にいらぬ追撃をしてしまったのだ。
 これが二つ目の問題である、27年前のギリシャ神話のバチカン襲撃だ。これにより、サン・ピエトロ大聖堂が陥落し、ヨーロッパ中心に信仰されていた一派が聖地イェルサレム方面に退却する事になるが、同時に信者達が立ち上がるきっかけにもなってしまう。
 退却してきた一派が聖地イェルサレムにて、3宗教会議を要請し、ここで初めて古より崇拝の仕方、信仰や成り立ちでいがみ合っていた3宗教の長達が一同に会することとなった。会議の結果、現状維持は不可能と断じられ、一時的協力関係をとることとなる。後に、マニ教が仲介役となり、協力が本格化し名称を「一神派」と改める。
 現在では、聖地イェルサレム、メッカ、ハギア・ソフィア大聖堂を一大拠点とし、各寺院、教会を拠点に神話派閥への抵抗活動を行っている。因みに、その行いを国際神話連合の視点から見るとテロ活動になってしまうのだ。
 各一大拠点を教皇や預言者が統治しており、対神話兵装の開発などが進んでいたり、6人の精鋭と18人の異端神問官からなる特殊部隊が編成されて作戦行動しているとか、していないとか。なお活動拠点には、司祭か幹部のひとりが派遣されている。
 世界調停機関が今掴んでいる情報では、日本にいる神滅派のひとり織田信長とその家臣団と新たに一時的同盟を結ぼうとしているとか…



〔~~説明終了~~〕

「まあ、こんな所かな」

結構ざっくりした説明だったが伝わっただろうかと、首を傾げる《最目》。
それを知ってか知らずか壱月は、「なるほどなぁ~~わかりやすい説明ありがとう!」と1人納得して笑っている。

(……わかってなくても、もう答えるつもりはないが……)

一通り説明を終えた《最目》はそろそろ本当に限界だった。眠気が。
だが、あとほんの10分でパルミラに到着するので、頑張ったらなんとかたどり着けるだろう。
 一方、説明が終わるまでずっと警戒をしていたキーシュタインとクレトも眠気マックスだ…
だが、最後までやり通すつもりなのか、たまに周りを気にした素振りを見せている。
 そしてもう既に寝ている方がひとり。巴音だ。
説明の中盤くらいで眠気が限界に達し、今壱月に背負われて可愛い寝顔を披露している。巴音は「一神派」について成り立ちこそ知らなかったが、現状は知っていたので、そこで集中力が切れダウンしたのだ。

 
 
 10分後、五人は太陽が昇るのと同時にパルミラに入り、
《最目》への自室へとたどり着き、それぞれ倒れるように眠ったのだった…


いつもお読みいただき誠にありがとうございます。
投稿遅くてすみません…

久しぶりの説明回でしんどかったです…
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