噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

53 砂漠の都市パルミラ

 お先真っ暗だった二人は、こんな任務に派遣した世界調停機関の長に連絡を取った。
肝心な返答は、
『そこはパルミラから南東に130キロの地点だ。
 で、なんか勘違いしてたら困るから言っとくが、お前達の任務はパルミラの視察、そしてテロ組織がいたら壊滅すること、以上だ。
 それとシリア砂漠はメソポタミア神話群の勢力範囲だからあんまり問題起こすんじゃねぇぞ!』
「り、了解だ…」(ヤベェ、超勘違いしてた…)
 壱月は今の内容を端的に巴音に伝え、北東へと移動を開始する。

 道中、大型サソリやサンドワームなどを倒し、130キロを踏破(砂上用のバイクに変形した『ドレッドノート』に乗って)した。

 砂漠の都市パルミラその門前にて、
「こ、これは……」
「本当に…砂漠の中…ですか!?」
驚くのも仕方がないだろう、なぜなら二人が見た光景は、壮大な噴水と壮麗な神殿、活気あふれる砂漠の民達だったからだ。
二人は動揺しつつも、都市に入るため門番に話しかける。
「こんにちは~」
「こんにちは、パルミラにようこそ。観光ですか?」
「はい」
壱月は門番兵の質問に答え、必要事項を記入し、持ち物検査をされ、最終チェックを終えて、都市に入ることを許可される。
 やがて巴音もチェックを終えて、無事に二人とも都市に入ることができた。そして二人は表通りや市場を見て回り、最後に一番奥にあるローマ建築の神殿に辿り着く。視察任務ならここは最重要だろうと、壱月独自の判断で周囲を見て回る。

 外であるここからでは、中の様子はもちろんわからないが、見た目だけでこの都市の優美さや裕福さを物語っているのがわかることだろう。二人は神殿の外周を一回りし、一旦人気のない裏路地に入る。
「さて、ぱっと見、入れそうな所は正面玄関だけだったな」
「そうですね、主だった水路もありませんでしたから、隠し通路的なものはこのあたりには無いでしょう」
「じゃ、『ドレッドノート』使うか」
壱月の確認に巴音は頷き、懐から『ドレッドノート』を取り出す。
「『ドレッドノート』起動!”透明化迷彩コート”」
二人は『ドレッドノート』を使い、真正面から神殿に潜入するつもりらしい。
 コートをそれぞれ羽織り、静かに裏路地から出て、神殿の正面玄関へと歩いていく。玄関から少し離れたところで立ち止まり、周囲の様子を窺う。このコートは透明化であって透過ではないので、一般利用者が扉を開けてくれないと入ることができないからだ。
 
 玄関前で待っていること数分。扉が開かれた、内部から。開けたのは長身細身で白と黒が混じった髪、更に目は深い碧色の青年だった。青年は、誰もいないはずの虚空に向かって、口を開く。
「遅かったな。別にもっと堂々と入ってきても良かったんだぜ?」
「!?」
笑いながらも、青年は壱月から視線を外さない。まるで見えているかのように。少し顔を動かし、次に巴音と目を合わせる。さすがに二人とも動揺を隠せず、一歩後ずさろうとするが…
「ああ…すまん、すまん。僕は君らの敵じゃあないよ。僕はこういう者です」
青年はとっさに自身の服から、なにやら電子端末を取り出す。それに壱月達はどこかで見覚えがあった。
「僕は世界調停機関……」
「!?」
発せられた言葉に壱月は目を丸くし、続く言葉で絶句する。
「到達者が一人…《最目》…よろしく!」
「なっ―――――――――――――――!」

 まさかのカミングアウトから数秒後、壱月は我を取り戻し、《最目》と名乗った青年に問いかける。
「世界調停機関の到達者は全員で19人の筈だ!」
「ん?《最強》から聴いてないのか?」
《最目》は首を傾げ、壱月も首を傾げる。
「前提として調停機関の到達者は19人だけじゃない。僕も総数は知らないけど…
 そしてまあ機関は世界各地に密偵専門の到達者と協力者を置くことで、独自のネットワークを作っていたりしてる。
 …まあ、ひとまず中に入ろうか。ここだと色々面倒だし」
《最目》に促され、神殿の中に入る二人。『ドレッドノート』は既に意味がないので仕舞っている。
しばらく通路を歩き、やがて一つの部屋の前で止まる。
「どうぞ、ここが僕の部屋だから、好きに使ってくれて良いよ」
案内された部屋に入り、二人は一旦ソファに腰を落ち着かせる。さすがの長旅で疲れたのだろう。

 《最目》がキッチンからお茶を持って来たときには、二人仲良く隣り合い支え合って眠ってしまっていた。
そんな二人をニヤニヤしながら見ていた《最目》は、お茶をテーブルに置いて、先ほどの電子端末を取り出す。
カメラモードON! シャッターをパシャリ! 世界調停機関のネットワークに拡散! 
流れるような手際のよい指捌きで、あっという間にイタズラをする《最目》。これで任務終了後の楽しみが一つ増えた、と「仕事を成し遂げたぜ!」という爽やかな笑顔を浮かべるのだった…


お読みいただき誠にありがとうございます。
投稿が遅くなってすみません。
これからもよろしくお願い致します。

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