噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

52 初任務は砂漠にて

 砂を伴い乾燥した風と、照りつける太陽光。どこまでも果てしなく続いているのではと、錯覚させられる一面の砂の大地。地平線上に街はかなり遠くしか見えず、時折蜃気楼が発生するこの地で、斎藤壱月と暁崎巴音はただただ立ち尽くす。

曰わく、こんなの聞いてねぇ、と。


 つい先ほど、《最術》によって【信濃】から飛ばされた二人。彼、彼女等がここに派遣された理由は、ただ一つ調停者としての任務だ。どうやら《最強》によると、ここらには反神話を掲げるテロ組織がいて、そいつ等が拠点として使っている遺跡やら神殿やらがあるから、それら(あわよくばテロ組織も)を壊滅させてこい、だそうだ。
 反神話の癖に神殿を拠点に使っていることには、多少矛盾が感じられるが……まあ気にしないでおこう!

 そんなわけで飛ばされたのが、まさかの砂漠のド真ん中。周囲に遺跡なんて無かった。神殿なんて無かった。
「……どうしますか、壱月様?」
「どうしよう?…」
長い沈黙に耐えきれなくなった巴音が問う。が、すぐに質問を質問で返される。
「「……」」
またも両者沈黙。

 しばらくして、自ら沈黙に耐えられなくなった壱月は、突然叫び出す。
「物資補給も無いとか、ふざけんじゃねぇぞぉ!ブラック機関ッ!!」
叫び終わり、肩で息をしながら、隣を見た壱月は、叫んでいるときに「キャッ」という可愛らしい悲鳴を上げて座り込んでしまった巴音に、手を差し出しながら、助け起こす。
「あぁ…なんつうか…唐突に…ごめん…」
沈黙の次に訪れたのは気まずさだった。
「…い、いえ、こちらこそ、すみません…ありがとうございます!」
起こされた巴音は、明るく笑って礼を言う。そんな素敵な笑顔を見せるこの娘は、純粋に壱月に好意を寄せているのだろう。
 そしてそんな巴音に対して壱月は、その笑顔に照れて目を泳がせていた。すると今度は、巴音が目を合わせにくる。それをまたも泳がせる壱月。追撃する巴音、更に泳がせる壱月。更に追撃する巴音、更に更に泳がせる壱月。etc.
 そんなことが数秒続き、結局目を合わせられなかった巴音は、ちょっと膨れていた。
(可愛すぎるんだが…)
そして壱月は壱月で、すっかりデレていた。出会った当初では想像できないくらい。

 だが、こんなところでいつまでもこんな事をし続ける訳にはいかない。
「と、とりあえず、『ドレッドノート』で現在地の確認でもしようか。ね、巴音さん?」
「…」
「と、巴音さん?」
(プイッ)
ようやく終わったと思っていたら、まだ続いていたらしい。
 どうやら巴音さんは、ご機嫌斜めのようだ。壱月が巴音の正面に行こうとしてもプイッされる。
(これはこれで可愛いけど…さすがにこのままじゃダメだしな~どうすれば…)
そんな時、思い出したのは知床での出来事。
(そういえば、巴音って呼んで欲しがっていたような…でもなぁ恥ずかしいしなぁ…)
名案ぽいものを思いつくが、自身のヘタレさですぐに実行出来ないらしい。

 チラリチラリと先程から、何かを期待するような目で巴音が見ているが、それには気付かない壱月。こちらはこちらで悩みに悩み抜いた壱月が、意を決してその名を呼ぶ。
「巴音……」
「!…」
ピクッと肩を震わした巴音だが、振り向くまでには至らない。だからもう一度、今度は力強く、はっきりと、その名を呼ぶ。
「……巴音!」
「…はい!壱月様!」
巴音は振り返り、いつものように元気よく返事をし、嬉しそうに笑う。今度は目を離さず、しっかりと目と目を合わせる壱月。
頬をかきながら、照れくさそうに壱月も笑い、
「俺も、壱月って呼んで欲しいんだけど…ダメ…かな…」
巴音はすぐさま答え返す。
「はい!わかりました……壱月さん!」
双方盛大に顔を赤らめ、名を呼び合う。巴音は念願の呼び捨てで実に嬉しそうだ。壱月も巴音との距離が少し縮まったことに喜んでいる。

 巴音が壱月のことをさん付けで呼ぶのは、彼女自身がまだ恥ずかしいためか、はたまたやり返しなのかはわからないが、ともかく、これでやっと話が進められる。
「じゃ、じゃあ現在地を確認しようか…と、巴音…」
「そ、そうですね…い、壱月さん」
頬を少し赤らめながらも、『ドレッドノート』を起動し現在地を確認する二人。
はたして、ここは一体どこなのか、地図に示された座標は、

―シリア砂漠 座標33.7146871、39.3201394―

なんと中東、シリアにあるシリア砂漠だった。世界で10番目(南極と北極含む)に大きい砂漠だ。ちなみに神々の再降臨以降も砂漠化は進んでいるので、古い遺跡などは風化してほとんど残っていない。
《最強》が潰してこいと言っていた、遺跡とかは神々の再降臨の前後に造られた物なので比較的新しい筈だ。
「でも、このあたりに遺跡は無いみたいだな…」
「神殿の方も反応ありません…」
二人のお先は真っ暗だった…


いつもお読みいただき誠にありがとうございます。

今回、座標を使わせていただきましたが、Googlemapからの引用です。たぶん調べても何も出てこないと思います。
それと壱月と巴音がまた少し仲良くなりました。この二人はどこまで行くのか、温かい目で見守っていただけると幸いです。

これからもよろしくお願い致します!

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