噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

42 脱獄は楽勝、だがその後は…

 現在、壱月と巴音は牢屋の外にいる。
そう、二人はなんの苦もなく脱獄したのだ。
だがこれでは少し味気ないので感想を述べ始めた、(見張りは既に気絶させている)
「……楽勝…だったな」
「そう……ですね……」
ぎこちないがなんとか続ける二人、
「さ、さすが【死雨】だな!」
「そ、そうですね。抜刀術を使わず、ただ鉄格子に当てただけで、すんなり斬れるなんて!」
二人は共に脱獄方法を口にする。

やり方は簡単だ、【致死概念付与武装】である【死雨】を鉄格子の一本に横から押し当てる、あとはこれをひたすら繰り返す。たったそれだけで、全ての鉄格子を切断し、脱獄することができたのだ。
そしてそれを驚愕と共に見ていた見張り役の《最弱》は、壱月が脱獄の際の慎重さとは真逆の神速さで、即気絶させられた模様。
もちろん峰打ちだ、後々何か使えるかもしれないので殺していない。

「さて、問題はここからだな…」
「まず《最強》に会われるのですか?」
二人で今後の事について話し始めるが、最初に確認しておかなければならないことがある。
「その前に、ここがどこかを知らないとな」
壱月はそう言って《最弱》の方をちらりと見る。
そう、まず最初に聴かなければならないのは、世界調停機関の正確な本拠地と現在地だ。
二人は会議室での戦闘の後、気絶させられてここに来ているので、周囲のことを全く知らないのだ。

壱月は《最弱》に近づき、うつ伏せから仰向けの状態に転がす。
そこから…
「叩き起こす!」
右腕を大きく振りかぶり、「セイッ!セイッ!」という気合いと同時に往復ビンタが《最弱》に炸裂する。数秒後、《最弱》の頬は真っ赤に腫れていた。
「ひ、酷いですよ!気絶させた上に、往復ビンタなんて!」
無理やり起こされた《最弱》は目に涙をため、頬をさすりながら、非難の言葉を壱月に浴びせる。
対する壱月は、
「仕方ないだろ、お前に聴きたいことがあるんだから」
「つい数時間前、僕らの「仕方ない」に対して激怒したのはどこのどちら様でしたっけ?」
「……」
痛いところを突かれ、黙る壱月。案外言葉では《最弱》は結構強いのかもしれない。
武力が弱いなら、知恵を磨く。それが世界調停機関のやり方だ。
だが諦める訳にはいかない壱月。己が正義を貫くため世界を見る、と決めたのだ。
「ああ、俺がさっき言ったことは変えられないし、変えるつもりもない。
 だけど、だからこそお前達をもう一度見てみたくなったんだ、これからも間違えないために!」
「壱月様!?」
「あ、あんた、何してんだ…」

壱月は今、土下座している。一度、否定した人間に頭を下げて頼み込んでいる。
それは、壱月の覚悟が本物だということを示す事ができるだろう。
「お願いします!俺にもう一度、チャンスを下さい!」
「!…私からもお願いします」
壱月に習い、巴音も頭を下げた。
そんな二人に対して《最弱》は、
「僕に言われても困る。《最強》に言ってくれ…」
判断を《最強》に委ねることを告げる。
「わかった…」
「安心しろ、《最強》のところまでは連れて行ってあげるから」
「…!?…ありがとう!」
「ありがとうございます!」

壱月と巴音の口から出た、感謝の言葉はいつも自分たちが聞いているありきたりな言葉とはどこか違う気がした、とそう思う《最弱》。
今この瞬間、《最弱》はどこか変わったのかもしれない。
(人間はそんな簡単に変わるわけがないと思っていたが、案外簡単に変わってしまうようだな)
そんな《最弱》の台詞は一体誰のことを言っているのだろうか?
自分自身のことか…はたまた斎藤壱月のことか…
それは本人にもわからないのだろう。

しばらくして《最弱》は二人に現在地と今から向かう場所、即ち《最強》のいる場所を地図を使って説明し始めた。
地図は世界調停機関構成員に支給されている電子手帳に記録されていたものを使っている。
「あんたらが今いる牢屋は2階の中央部で、さっきまでいた会議室が3階の北部だ。
 それで《最強》がいるのは、その3階の最奥部、つまりは南部の一番奥だな。」
「なるほど…なぁ少し話は変わるが《最弱》さっきと口調変わってないか?」
「確かに丁寧語ぽかった口調からタメ口って感じですね…あっ」
「「…」」
「ん?どうした」
壱月と巴音は顔を見合わせ、同じ事を思い出していた。
それはここにくる少し前のこと…
「確か知床に戦いになると口調や人格までもが変わる錬金術師がいたような…」
「いましたねー」
二人はどこか遠いところを見つめている。
《最弱》はその話についていけていない、だがこの二人は現実という名の理不尽を突きつける!
「「何故か突然口調が変わるキャラはもうすでに出てきているので、《最弱》のはキャラ被りだ(ですよ)!!」」
「はぁ?」
「「よって《最弱》にはキャラ変更を命じる(ます)!!」」
二人は声をそろえて《最弱》を責めるので、彼は押し切られてしまいそうだ…
いつの間にやらこの二人、かなり仲が良くなっている。暁姫と喋って仲が深まったのなら、今頃あの母親は大喜びだろう。
そして、キャラ変更を命じられた《最弱》は、
「ちょっと待て、どういうことだ?なんで僕がキャラ変更しなきゃいけないんだ!?」
「「キャラが被っているから」」
「…どこを変えたらいいんだ?」
「「口調」」
だんだん押されつつある《最弱》。キャラ変更してしまうのか!?
「じゃ、じゃあこの口調で良いですか?」
「それはそれで巴音さんとキャラが被っているような…」
こんな風にグダグダしつつも、《最強》の部屋まで行くための作戦会議は進んでいくのだった。



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今後の報告として、一度主要人物を50話あたりで紹介するつもりです。

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