噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

38 死神、世界調停機関へ

 死神本部上層から世界調停機関へと出向命令が下った壱月と巴音。
二人は今、所属メンバー達と機関の第一会議室にて自己紹介兼挨拶を行っていた。
「はじめまして、死神日本支部から参りました、斎藤壱月と申します」
「同じく、暁崎巴音です。よろしくお願いします」

パチパチパチパチパチ

拍手が鳴り終わり、今度は機関側の紹介が始まる。
「世界調停機関へようこそ、オレはこの機関の長。《最強》だ」
「さ、さいきょう?」
「ああ、コードネームみたいなもんだ、本名じゃない。」
《最強》と名乗った男は、壱月達の席から大円卓を挟んで反対側に腰掛けていて、《最強》の名に恥じぬ、筋骨隆々とした強面の大男だった。
さらに紹介は進み、
「世界調停機関・副長《最善》これからよろしく」
次に《最善》は《最強》の右隣に座っている背が高く、眼鏡をかけた優男だ。どうでもいいがたまに眼鏡をクイッさせている。
(これは俺の勘だが、おそらく指揮官だろうなぁ)
そんなことを呑気に考えながらも、次の紹介が始まる。
「私も同じく副長の《最優》です。何か困ったことがあれば遠慮なく聞いてくださいね?」
「はい、ありがとうございます」
《最強》の左隣に座る美しい青髪の女性、彼女が《最優》だ。文字通り優しそうな印象を持っている。
そこから紹介はどんどん続く、
《最高》《最低》《最速》《最遅》《最新》《最古》、《最術》《最医》《最縫》《最悪》《最狂》《最凶》、
《最銃》《最剣》《最封》
そして最後に、
「僕は調停官の《最弱》、君達の面倒をみるように言われてるから、よろしくね」
なんとも気弱そうな青年、《最弱》が紹介される。
(俺達の監視役か…)
壱月なら一人でも倒せてしまいそうだ。

そんなこんなでほぼ全員の紹介が終わり《最強》は、
「斎藤、そして暁崎。君達は殺戮者を追っていたようだが、ここでは違うことをしてもらう。」
「わかりました…」(…やはりか)
「斎藤、暁崎の両名は星害担当課に臨時配属とし、《最剣》の指示に従ってもらう。《最剣》いいな?」
「了解した…」
「ついでに斎藤の剣の腕も見てやれ」
「ああ、わかった」
「それとさっきも言っていたが二人のそばには《最弱》がつく、構わないな?」
「はい、構いません」
《最強》は次々と指示を出していき最後に、

「斎藤壱月!」
「なんですか?」
「お前は正義感が強いらしいから最初にいっておく、」
「……」
「ここには善も悪もある」
「…」
壱月は沈黙しているが、気にせず続ける《最強》
「だからこそオレ達は星と人類のバランサーだ…よってそこに正義は介在しない。」
「!?」
「だが、ただ一つオレ達には貫き通す目的がある!
 それは…いかに世界を…星を…長く存続させるか…ということだ」
(世界の存続…)
それで壱月は納得した。世界調停機関が殺戮者を見逃す理由を。
彼らからしたら、人類は星の害なのだろう。それと同時に殺戮者は人類の害でもある。よって殺戮者が人間を一定数殺すまでは見逃し続け、そして被害者が一定数を超えたならば、あとは討伐隊を組むなりして殺せばいいのだ。それでちょうど良いバランスがとれる。
そしてそれは正義ではなくこの機関の使命であり、義務なのだろう。

「貴様ら死神は人類の秩序を守るため存在しているが、オレ達は違う。その事を覚えておけ…。話は以上だ、解散。」

《最強》の言葉で皆一斉に席を立ち、己の持ち場に戻ろうとする…
そんな中で、今まで沈黙し続けていた壱月は静かに立ち上がり、背を向け去ろうとする《最強》に向かって口を開く、
「俺の正義は、『悪・即・斬』だ!
 そして《最強》、お前はさっき自分達は星と人類のバランサーとして存在している、と言ったな。
 なら、その人類が…神でもない人類が…世界を存続させるってのは、少し烏滸がましいと俺は思うんだが?」
「ほほう。で、結局何が言いたいんだ?」
両者は睨み合い、笑っている。周囲の空気はすでに重く、周りの人間はこのやりとりに注目している。
「さっきの星害担当課だっけか?
 その星害ってのには人類も入っているんだろう?」
「ああ、それがどうした?」
「つまり、少なくとも人間を殺しているってことだよなぁ。
 その連中は十分、人類の秩序を乱していると思うんだが?」
そう言って、壱月は《最強》から警戒しつつも、目をそらし《最剣》を見る。
「世界のバランスをとるのが、オレ達だとついさっき言っただろう。仕方のないことだ」
「仕方がないで済んだら、俺達死神はいらねぇんだよ!」
「はぁ。これだから政治を知らないガキは困るんだ。
 一つ聞くが、何で今まで死神がオレ達を裁かなかったか、知ってるか?」
「知らん」
壱月は即答だった。
「なら教えてやる。この機関を立ち上げた、初代《最強》はお前達死神と相互不可侵の協定を結んでいるからだ。
 例外として、お前のような出向者が視察として来ることはあるがな。
 これでわかったな、お前達死神は協定がある限りオレ達を裁けないんだよ!」
それを聞いた死神、壱月は一言。
「うっせえ!!」
結果、一気に場の空気が悪くなった。
「死神が、協定が、お前達がどうだろうと、俺の正義は変わらない。
 人類に厄災をもたらす様なら「悪・即・斬」のもとに斬り捨てる!」
【死雨】の柄に手を乗せる壱月。こいつはやる気満々だ。
「チッまさかここまで話が通じんとは…
 おい、この人数を相手にできると思ってるのか?」
《最強》も自身の剣の柄を握る。
「精々19人だろう。俺の正義に狂いはない。」

互いに互いを威嚇しあい、警戒しあう。この場は一瞬で一触即発の空気になるのだった…



本日もお読みいただき誠にありがとうございます。
今回の反省
書いている内に何故かこうなりました。最初はこんな事にはならなかったはずなのに…
まさかここまで壱月が暴走するとは…次回どうしよう…

グダグダしておりますが、これからもよろしくお願いいたします。

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