噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

31 殺戮者の北海道二日間〈剣能〉

「剣能……解放!!」

 続いて殺戮者は力を選び取る。

「剣能選択…ランクA+神秘滅殺」

 殺戮者の刀には今、神秘殺しの力が宿っている。さすがに神殺しとまではいかないが、奴が周囲に展開している結界または加護を破壊できる力だ。

「貴様のその剣…まさか聖剣に至っていたとはな…さすがの我も驚かされたぞ。それで---」

 神は驚きながらも、殺戮者を笑い…

「---その使い古された剣で、何ができる?」

 その力を侮る。それは傲慢故か、はたまた事実か…
それでも殺戮者は確信する。これで殺れる、と。

「決まっているだろう?クソ神、お前を殺すんだよ」

 はっきり言って、殺戮者にとって剣能解放は一つの賭けだったのだ。いくら武器商人にやり方を教えてもらっていても、実戦でのぶっつけ本番なのだから。そして賭けに勝ったのなら後は神を殺すだけだ。

 その前に、殺戮者も神もわざわざ解説してくれなさそうなので、ここで剣能について説明しておこう。

 剣能とは、簡単にいうと先程神が言っていたように『主によって使い古された剣(武具)』のみが発動できる能力の一つだ。もちろん例外も存在するが…まあそれは今回触れないでおこう。元々剣能はこの世に存在しなかったものなのだが、これもいつものように"神秘の復活"が原因なのだ。

 日本には古来より八百万の神や九十九神(付喪神)という考え方があり、それが神秘の復活により具現化したものを剣能というのである。そして本来なら100年以上使い続けないと、この様なことは起きないのだが、それを簡易に起こせるようにしたのが、あの武器商人ウエポン・マスターなのである。やり方は長いこと使い続けた物に自身の血を染み込ませるだけだ。あとは親和性や使い続けた年月によって、剣能のランクが変わる仕組みになっている。

 剣能は時間制限があるが、使用者(主人)が生きているか武具が壊れない限り使える。さらに剣能選択によって使える能力も指定でき選べることもできる、これらは魔法・魔術等のエンチャントに似ているが、剣能は魔力を消費しない、それが剣能の強みだ。
そしてその域にまで至った武具を「聖剣」と一括りにして呼んでいるのだ。

 もう一度刀を中段に構え…

「俺の全身全霊に剣能、剣術、剣理、俺がもてる全てでお前を殺す!」
「フハハハハハハハハハ!我を殺してみるがいい、殺戮者!」

 ここから先、もう対話は不要だ。たとえ神の神名がわかったとしても、もうこの戦いはどちらかが死ぬまで止まず、終わらない。
 殺戮者は神へと向かって駆け出す。一見無防備に見えるが、その姿に隙はない。

「死ね!!」

 結界・加護を袈裟懸けにして、破壊する。もはや殺気は隠さず、呪詛とともに斬りつける。
 神が笑いながらも、武器を手にする。日本神話特有の十束剣とつかのつるぎだ。これは総称なのでここから神名がわかることはない。

 甲高い金属音が鳴り響き一瞬剣が交わるが、神秘滅殺の剣能を宿した殺戮者の刀には対抗できず…

「なにッ!」

すぐさま断ち切られてしまう。
 そんな隙を殺戮者が逃すはずもなく…

「死ねッ!」

刀を斬り上げるが、紙一重でかわされ距離をとられる。
 それでも殺戮者の猛攻は続き…

「【死角顕在】!」

剣理・死角顕在を行使し、神の死角から刀を振るい…

「クッ!!」

浅くだが斬りつける事に成功する。反撃しようと、神がもう一本の剣を手にとり…

「食らえ!!」

斬り落とすが…

「-ッ死ね!!」

防ぎながらもその攻撃さえ利用し、ついに神に一太刀浴びせる。
 完全に姿勢と守りが崩れた神を、殺戮者は追撃し一気に畳みかける。

「死ねッッ死ね!!」
「グッッッ」

 呪詛と同時に何度も斬って、斬って、斬って、斬る。
すると、ここで神秘滅殺の剣能に時間制限がきて殺戮者の刀から神秘殺しの力が消え、斬撃がほぼ無力になる。

 これを好機と感じ取り、神が再度攻撃しようと拳を構えるが……
そこで殺戮者の刀の異変に気付いてしまう。

 先程までなかったはずの黒の輝きがまた増してきているのだ。

「貴様!何をした!」

 神が問うが殺戮者は答えない。

「………」

 殺戮者は無言のまま、懐から例のインゴットを取り出し、刀の刃部分にあて…

シャッッッ

 刀の腹から剣先にかけて、まるで砥石で研ぐように、素早く擦る。

「…疑似剣能……」

 そして、戦いを終わらせるための一言を口にだす。

「…解放!!」

 またも、黒の輝きが周囲を包み込む、だが先程とは違う点が一つ、それは黒の輝きが収束し消滅しないことだ。
 まるで時が止まっているような感覚。実際止まっているのは神だけだ。
 そして確実に一歩ずつ、神は死へと向かっている。

「疑似剣能……神殺し!」

 神秘殺しよりもはるかに高位の剣能が刀に宿され、殺戮者は神格を刺し貫く。

「終わった」

 そんな一言とともに殺戮者は刀を納め、神が死んでいくのを冷めた目で見ている。

「神すらも、殺せるようになったぞ……ヤマトタケル…」

 呟き、インゴットを握りしめ懐に戻し…

「鬼の覚醒まで、あと一週間だ…それまでに、武器商人に会わないとな」

 神の死を見届けて、全て殺し終えた殺戮者は…静かにその場を去るのだった…

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