噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

25 知床の居候

 キャンプ場に帰ってきていた壱月は早速猪型の魔物の死体を調べることにした。『ドレッドノート』を解析機に変形させ魔物の死体をスキャンし、解析結果を待つ。しばらくすると解析が終わり、結果が表示される。巴音は解析結果を見て…

「この魔物の生態はやはり普通の動物となんら変わらないですね」
「なら突然変異ということか?」
「そうとも考えられるのですが、不自然な点があります。」
「不自然?何がだ?」
「それはこの魔物に宿っている魔力と、地脈にあるこの妙な魔力との相性が悪いことです」
「つまりは、地脈の変異が原因じゃないってことか」
「はい、地脈の魔力はまるでこの魔物を抑えるためにあるかのようです」

 どうやら魔物の持つ魔力と地脈の魔力は相反するようで、力の弱い魔物の魔力を抑えつけ、ある程度魔物の行動を制限しているようだ、と『ドレッドノート』の解析結果が述べている。

「なるほど、それなら合点がいくな」
「そうですね」

 その事で壱月は何かを納得したようだ。

「この地脈の妙な魔力があるから、今も北海道民は平和に暮らしていて、もし地脈がなくなったら北海道には魔物が溢れ出し大混乱といったところか」
「そうなるでしょうね」

 そう、未だに北海道の人々は魔物の存在を知らず平和に生きている。そしてそれは地脈が魔物たちを抑えつけているおかげなのである。

 次に壱月達は魔物の解決策を考えていた。

「やはり魔物の殲滅を実行した方がいいのか?」
「それは最終手段ですね、まずは魔物が出現する原因を探さないことには、事態は解決しないと思われます」
「それもそうだな。でもこれ以上手がかりはないぞ、明日の本格的な探索で何か見つかればいいが、見つからない場合何もわからないだろう」

「そうでもないよ…」

「え?巴音さん今何か言った?」
「いいえ、何も言ってません」

 その声は突然響いてきた、二人は驚きつつも周囲を警戒する。

「そんなに警戒しなくても、僕は敵じゃないですよ」
「「!?」」

 そしてなんの前触れもなく、テントのなかに人が出現した。壱月は【死雨】を即座に抜刀し、構える。巴音は壱月の後ろに下がり拳銃を抜く。そんな二人に、なんの緊張感もなく突如出現した青年は勝手に自己紹介をしはじめる。

「はじめまして、僕は峰影みねかげ。ここ知床に住み着いた"錬金術師"さ」
「「……」」

 まだ二人は混乱しているみたいだが、峰影と名乗った青年の話は続く。

「君達が魔物を倒して検査し、地脈との相性や存在理由についてたどり着くとは思っていなかったよ、どうか浅はかな僕を許してほしい」
「「…」」

 二人はだいぶ落ち着くが、青年への警戒を高める。当の青年は気にすることなく話を続けているが…

「でも、魔物の殲滅は感心しないよ。確かにそれは最終手段だけど、そこの少女が言ったとおり何も変わらないだろうね」
「あんた…峰影さんは原因を知っているのか?」

 警戒しながらも、壱月は峰影に問いかけた。峰影は…

「もちろん知っているとも、なにしろ地脈を使って魔物を抑えているのはこの僕なのだから」
「なるほど、だから俺達はあんたに気がつかなかった訳だな。あんた、今地脈を使って俺達と話しているんだろう?」

 峰影は目を丸くし、関心したように手をたたき拍手をする。壱月は【死雨】を納刀しつつ、続く峰影の話を聞く。

「まさか地脈を使った通信まで見破られるとは、恐れ入ったよ。流石は死神だね」
「気付いていたのか?」

 問われた峰影は軽く笑い…

「ハハッ逆に魔力があるものなら気づかない方がおかしいと思うよ?君達、死神の魔力は特徴的だからね」
「死神にわざわざ会いに来るとは、自殺願望でもあるのか?」

 峰影はさらに笑い…

「ハハハハハ、そんなジョークまで言えるとはね。気に入ったよ君達、名前はなんと言うんだい?」
「壱月だ。こっちが…」
「巴音です」

 二人の名前を聞き、満足したように笑う峰影、手を前に出しながら…

「壱月君に巴音さんか、よろしくね」
「ああ。実体持ってないから握手できないんじゃないのか?」
「こういうのは気分だよ」
「そんなもんか」
「そんなもんだよ。さてじゃあ自己紹介も済んだし、本題に入ろうか」

 峰影の顔から笑みが消え、真剣味を帯びたものになり、魔物が出現する原因を語った。

 峰影の話を要約すると、こうだ。
 魔物はもともと、知床に住んでいるごくふつうの動物達で、異変が起きたのは10年前。ある群の長が突如原因不明の変化を遂げ、群にいた仲間全員を食い殺し、知床全土で暴れ回ったそうだ。

 そのときすでに知床に住み着いていた峰影は早急に魔物となった動物を殺し原因を調べ、対策をとることにした。その対策こそが、地脈の魔力を変異させ魔物を抑えつけるということだった。峰影の迅速な対処のおかげで、北海道全域には被害がでることは避けられ、今は知床にだけ魔物がいる状態だ。

 そして峰影は原因をも追求した。だがそれは人類の力ではどうにもならないことだったのだ。最大の原因、それは"神秘の復活"。当時すでに神々によって神秘の復活は一部封印され、容易には現実にならなくなっているのだが、神々も詰めが甘いようで本来の願い、空想、伝説が歪んで現実になるという抜け道があったのだ。

 そして当時の動物の群れの長は願い、空想してしまったのだ自身が最強になることを。だがそれは空想で終わらず、歪んで実現することになった。長は魔物に変異し群の全員を殺し、最後のひとりになることで自身が最強となるという形で実現した。そしてそれは知床に住む、動物達全員に影響し動物達は種族問わず殺し合っている。今は地脈のおかげで小規模なものしかなくなってきているようだ。

 壱月達は魔物の発生原因を聞き終わり、一つ気になったことがあった。

「さっき俺に襲いかかってきた魔物達は殺し合わなかったぞ?」
「それは君が死神だからだよ」
「ん?どういうことだ?」
「動物は…まあ人間もそうだけど、一つの巨大な敵が現れたとき、今までのしがらみをなくして協力するだろう。あれと同じだよ」
「ああ!なるほどな!」

 壱月は納得し、次の問いを投げかける。

「じゃあ、結局この魔物の問題は放置してある程度、増えたら殺すしかないのか?」
「そうでもないよ」

 峰影は現れた時と同じ事を言うが…

「だけど今日はもう遅いから、明日にしようか。明日、僕の工房に案内するから。今日はこれまで」
「そうだな、じゃあまた明日頼む」
「そうですね、また明日お願いします。」
「ではおやすみ…」

 そう言って峰影は消えていった。

「さぁどっちみち明日だな!じゃあ俺も寝るわ~おやすみー」
「はい、おやすみなさい壱月様」

 綺麗な冬の月がちょうど真上に差し掛かった頃、二人は明日のために少し早いが休むことにしたようだ。

「ハックション!さむ!」

 真冬だから仕方がないだろう。凍えながらも壱月は寝始めた。

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