噂の殺戮者に出会ったので死刑執行しますby死神

鬼崎

24 探索

 キャンプ場から森へ向けて走り始めた壱月は、地脈が地表に出てきているところを目指していた。本格的な探索は明日にする予定だが、この怪しい気配がどうにも気になるらしい。

「日が暮れるまでには、テントに戻らないとな」

 そう言いつつ、雪が積もった地面を蹴って木々の間をすり抜けるようにして、走っていく。この時期に夜の探索はかなり危険だろう、それらも考慮してある程度の距離を走ったら戻るみたいだ。

「しっかし、何なんだこの気配は、たどればたどるほど異色さを増していく。まるで誰も近づけさせないようにしてるようだ」

 この地脈を利用した異色の気配は一般人にも当然影響するだろう。好奇心旺盛な人間には効果がないが、大抵の人間は気味悪がって近づかなくなるだろう。いわば自然の結界だ。有名な富士の樹海とは違うだろうが、常人なら方向感覚が狂わされる可能性もあるだろう。

「こんな気配を感じながら寝られる気がしねぇな……………!?」

 森から山に変わる境界で突如異変は起こった。周囲の気配が一変し、壱月は走るのを止め近くの木に手を添えて、辺りを見回す。

(何かに囲まれた!この気配は……地脈にある気配じゃない、また別の…)

 周囲の気配に気付かれないように、『ドレッドノート』を起動し、知覚強化武装に変形させる。以前はネックレス型に変形させた『ドレッドノート』に術式として、知覚強化を施していたが、『ドレッドノート』がver.2.0にアップグレードされたことにより、術式よりも武装として使った方が魔力の燃費が良いので、今回からは服につける小型のピンとして変形または常時装備し互いの連絡にも使用する事が、壱月と巴音の間で決まっている。

 なお壱月が常時装備していないのは使わない時に魔力が勝手に喰われるのを防ぐためだ。そして巴音は常時装備している。後方支援として重要な役割なので、と言っていた。

(なるほど、姿形は動物と同じだが…やはりどこか気配が異様だ…)

 知覚強化のおかげで周囲にいる何かの正体がわかったが、それでもこの気配に納得はしていないようだ。周囲にいるのはそこら辺の動物とさほど変わらない、猿や猪、熊、鹿の姿をしている。
 もちろんこの時点で十分おかしい、一つは冬のこの時期に動物が冬眠もせずに外にでていること、二つ目はこの4種類なら互いに襲い合う可能性が高いのに一切その兆候が見られず、壱月を包囲していることだ。

(恐らく連携がとれるだろうな、念のため巴音さんに連絡しておくか…)

 そう思い、壱月は知覚強化武装の連絡機能を使用し、巴音と連絡を取る。2秒後巴音に繋がった。

「壱月様、どうかなさいましたか?」
(すまない、こちらは心言通信だから雑音が入るかもしれん)
(はい、わかりました。)

 心言通信とは声に出さず、心で思ったことを相手に伝える術だ。主にこれが使える機能があるのは『ドレッドノートver2.0』しかないので、あまり使わないかもしれないが、敵に気づかれないように救援要請が呼べたりするので、便利なときもある。逆に雑念が混じると通信に影響し、不便な場合もあったりする。

(今、俺は敵に囲まれた状態だ)
「!わかりました、至急対処します。」
(いや、こちらで対処するつもりだ。巴音さんはスコープを通してこちらの様子を見ておいてくれるか?)
「了解しました」

 巴音は『ドレッドノート』を付与魔法狙撃エンチャントスナイプ用のスナイパーライフルに変形させ、スコープに遠見の魔法を付与して、壱月の位置を確認する。

「壱月様を発見しました」
(ありがとう、できれば敵の数を教えて欲しい)

 巴音は壱月の周囲を見渡し、敵の数を確認する。

「敵の数は8匹です。」
(そうか、ありがとう)
「ご武運を!」
(ああ!)

 壱月は自身の気配を殺さないまま、まずは正面にいる1匹を見た。姿はまだはっきりしていないが、どうやら猿型のようだ。壱月が気配を殺さないのは、壱月を認識させて逃がさないためだ。ここまで来て地脈に関する手がかりを失いたくはないのだろう。壱月は素早く【死雨】を抜刀し、猿めがけて駆け出した!この場合、猿は斜面の上にいるので位置的には猿が有利だろう。

(だが…俺達には考える力がある!)

 駆け抜けながら前方の木の太い枝を見定め、それに飛び乗って猿の頭上を越える。枝を蹴り一気に飛び降りて、猿を斬り致命傷を与えて死に至らせる。

(まだ、重いな…)

 どうやら、死雨】はまだまだ重いらしい。そして壱月は殺した猿を調べる…

(これは!?)

 通常の猿では考えられない、鋭く大きな爪と牙、もはや魔物と表現してもいいぐらいだ。
 だが戦場でぼさっとはしてられない。すぐさま次の敵に向けて走り始め、姿を捉える。どうやら今度は鹿型の敵のようだ。斜面を下りていく形なので、こちらに利があるだろう。壱月はたいして気にすることなく【死雨】を振り抜いたが…

「まだ生きているだと!」

 鹿の角部分だけを斬ったようで、致命傷には至っていなかった。

(俺もまだまだ鍛えたりんな!)

 鹿に蹴られながらも体勢を立て直し、鹿の首を切断すると、動きが止まった。

(こいつも角が異形すぎる魔物確定だな…よし次だ!)

 またも走り出し、今度相手するのは熊型の魔物のようだ。今度は傾斜に立っている状態なのでバランスを崩しやすいだろう。それを利用するため、近くにあった枝を蹴り飛ばし、相手に隙を作らせ左足を切断し、転倒させる。後はすれ違いざまに首を落とす。こいつも猿型同様、爪と牙が異形だ。

「あと5体!」

 振り返るとそこには突進してくる、猪型がいた。もうすぐそこまできている。

(回避できない…いや、回避する必要なんて…ない!)

 刃を猪型に向けて地面に【死雨】を突き立て、突進を待つ。数秒後、そこには真っ二つにされた猪型が転がっていた。

「次!」

 己を叱咤するも、また奇襲だ。今度は木々を伝って猿型が上から来るが…

「セイッ!」

 気合いとともに【死雨】を振り上げ、猿型を切断。少し腕に負荷がかかったが、まだ戦えそうだ。それでも疲労による、集中力の乱れはあるようだが。

「あと3体!」

 気迫を出し、敵を威嚇する。するとすぐさま猪型が突進してきた。【死雨】を横に一閃、すると今度は上下真っ二つに。壱月は下方に残る熊型と鹿型を殺すため斜面を滑り降り、角を構えて待ち受けていた鹿型を貫き殺し、すぐ横にいた熊型が攻撃する前に、袈裟懸けにして殺す。

「はぁはぁはぁ…終わった…」
「お疲れさまでした、お見事でしたよ」
「そりゃ、どうも」
(全然ダメだったな…もっと【死雨】を使いこなせるようにならないと…)

「これで一旦戻ってこられますか?」
「ああ、猪型の死体を持って帰って、調べよう。何かわかるかもしれない」
「そうですね。検査の準備をしておきます」
「それじゃあ、頼む」

 壱月は通信を切り猪型の死体を抱え、また走り出す。今度はキャンプ場に向けて…

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